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<立ち枯れた木々、海中に沈む彫刻の森、ボートから眺める作品群など。芸術の力で人々に行動を呼びかける9作品> アートの世界では、作品を介して気候変動や環境問題への関心を高めようという動きが出ている。作品から何かを感じてもらえれば、解決に向けた行動や自然との関係の再構築につながるはずと作家たちは期待している。 ===== 01. 『ゴースト・フォレスト』 マンハッタン(ニューヨーク) ROBERT NICKELSBERG/GETTY IMAGES ゴースト・フォレストとは、海水面の上昇、ハリケーンや干ばつといった異常気象のせいで立ち枯れてしまったかつての森林のこと。気候変動の影響が目に見える形で現れたものと言っていい。アーティストのマヤ・リンは気候変動への関心を高めようと、高さ12メートルほどの枯れたヒノキの木を49本、マディソンスクエア・パークのど真ん中に並べる作品を作った。木々のむくろは公園を行き交う人々に、気候変動の恐ろしさを訴え掛けている。 ===== 02. 『太陽と海』 ブルックリン(ニューヨーク) ANDREJ VASILENKO © COURTESY THE ARTISTS 2019年のベネチア・ビエンナーレの国別部門で金獅子賞を受賞したリトアニアのインスタレーションが9月、ブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージックで展示される。ビーチでのありふれた1日を描いているようで、実は気候変動がもたらす深刻な問題が取り上げられている作品だ。サンゴの白化現象が広がるグレートバリアリーフは「漂白したような生気のない白さ」だという歌はその1例。ちなみに舞台装置には約25トンの砂が使われている。 ===== 03. 『鏡のパビリオン』 ゴールウェイ(アイルランド) COLM HOGAN/JOHN GERRARD MIRROR PAVILION ジョン・ジェラード作の室外インスタレーションで、側面のうち3つの面は鏡、残る1つの面は高精細のLED画面になっている。田園風景の中に置かれ、シミュレーション映像により深刻さを増す気候変動問題を描き出す。ゴールウェイ国際芸術祭に合わせて公開中の新作映像では、テクノロジーが自然に与えた苦しみを木の葉をまとったキャラクターが表現する。 ===== 04. 『あなたたち/私たちの未来は今』 ポルト(ポルトガル) ANDRE DELHAYE/SERRALVES MUSEUM OF CONTEMPORARY ART セラルベス現代美術館で9月26日まで開催中の美術家オラファー・エリアソンの展覧会では、宙に浮いたような立体作品に出会える。いずれも有機的でありながら人工的な雰囲気をまとっている。展覧会のカタログでエリアソンはこう主張している。「私たち(人類)が過去にやってきたような生活を今後も継続するのは不可能だということは明らかだ。社会はあらゆる面で気候変動に適応することを余儀なくされるだろう」 ===== 05. 『地球の心配事の庭』 アペルドールン(オランダ) COURTESY OF PALEIS HET LOO かつてオランダ王室の人々が過ごしたヘットロー宮殿には、17世紀に造られたバロック様式の庭園がある。そこに置かれた建築家ダニエル・リベスキンドの4つの抽象彫刻は、それぞれが気候変動の原因である温室効果ガスを表現している。ヘットロー宮殿では初となる現代美術の展示だが、庭園が持つ幾何学模様の対称美と彫刻作品が見事なコントラストをなしている。 ===== 06. 『イベント・ホライゾン』 コペンハーゲン(デンマーク) TOMÁS SARACENO/EVENT HORIZON/CISTERNERNE 2020-2021/PHOTO,TORBEN ESKEROD アルゼンチンのアーティスト、トマス・サラセノは、19世紀に造られた元地下貯水場というシステアナ美術館の陰鬱な空間と照明をうまく使い、没入感たっぷりの展示を実現した。見学者は水を張った会場に浮かべたボートから作品を見る。気候変動をテーマにしたアート作品を水の上に展示することで、氷河の融解や海水面の上昇、洪水といった問題を示唆し、地球を守るためには人類の行動を変えることが必要だと呼び掛けている。 ===== 07. 『アヤナパ水中彫刻美術館(M.U.S.A.N.)』 アヤナパ(キプロス) JASON DECAIRES TAYLOR 彫刻家で環境活動家のジェイソン・デキャリス・テイラーが海の中に作ったのは彫刻の森。潜水具を着けて潜れば、木々や等身大の人物像など93の彫像に出会える。像は今後、海洋生物のすみかになるはずだ。テイラーによれば作品は「気候変動や、人々や企業の行動責任についてストレートに語っている」という。 ===== 08. ドバイ万博 ドバイ(アラブ首長国連邦) SUNEESH SUDHAKARAN/EXPO 2020 DUBAI コロナ禍で延期されていた中東初の万博である『2020年ドバイ国際博覧会』がこの秋、開幕する(来年3月まで)。目玉の1つが、環境問題をテーマにしたアラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビアの現代美術家による大規模なインスタレーションだ。展示が行われるのは持続可能性をテーマにしたパビリオン「テラ」。このパビリオンでは、エネルギーの消費量と創出量の収支をゼロにする「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル」を目指している。 ===== 09. 『変化』 ナショナル・ジオグラフィック・エンデュアランス号 LINDBLAD EXPEDITIONS/NATIONAL GEOGRAPHIC 北極海や南極海を航行するクルーズ船「ナショナル・ジオグラフィック・エンデュアランス」の船内では、気候変動に関する美術作品を展示している。キュレーターは、気候変動の影響をリアルに描いたパステル画で知られるザリア・フォーマン。極地の美しい風景が危機にあることを旅行客に訴える。