圧力を電気に変えるというデバイスがありますが、スイスの研究チームはそれを非常にエコな材料によって実現しました。
チューリッヒ工科大学(ETHZ)の新しい研究は、木製のフローリングにシリコンとナノ粒子のコーティングを施し、歩くだけで電気を生み出すナノ発電機を開発したと報告しています。
これはLED電球や小型電子機器を動かすのに十分なエネルギーを生み出せます。
研究の詳細は、科学雑誌『Matter』に7月22日付で掲載されています。
目次
- 木材をナノ発電機にする
- 歩いたり叩いたりするだけで発電する木の板
木材をナノ発電機にする
ナノ発電機とは、微小な物理現象からエネルギーを取り出して電気に変化する技術のことです。
電気を生む微小な物理現象として有名なのは「摩擦電気」です。
これはいわゆる静電気を発生させる効果のことを指します。
あらゆる物質は、電荷を持った原子と電子でできているため、異なる材料同士を接触させると電荷の移動が起こります。これを接触帯電と呼びます。
この現象は接触面積に応じて効果が大きくなるため、擦り合わせると電荷の移動が多くなります。
とはいえ、この現象は起こりやすい材料と起こりづらい材料があります。
木材は、電子を失う傾向も、引き寄せる傾向もあまりないため、摩擦電気を起こす材料としてはふさわしくありません。
しかし、木材は建築材料として有能で、さまざまな場面で利用されています。
もし、木材から効率的に摩擦電気を取り出すことができれば、例えば床を歩くだけで電気を生み出すことも可能になります。
そこで今回の研究チームは、木材をうまく改良して摩擦電気特性を高め、ナノ発電機として利用できないかと考えたのです。
木材の摩擦電気特性を高めるためには、電子を集めやすい材料と、電子を手放しやすい材料で木材を挟むのが効果的です。
チームはいくつかの材料を試した結果、シリコン材料(PDMS)で木材の一方をコーティングすると電子を捕獲しやすくなり(負に帯電)、金属ナノ粒子(ZIF-8)でコーティングすると、木材は電子を失いやすくなる(正に帯電)ということを発見しました。
また利用する木材についても、いろいろ試した結果、ヨーロッパでは一般的な建設用木材であるトウヒ材が、他の木材と比べて80倍もの電力を生成できることを発見しました。
これを元にして、チームは木材のナノ発電機を開発したのです。
歩いたり叩いたりするだけで発電する木の板
研究チームは、得られた材料の組み合わせからA4サイズほどの木の床の試作品を作成しました。
これを家庭用のLEDランプや電卓などにつないでみたところ、駆動に十分なエネルギーが得られたのです。
木の床の上で足踏みをするだけで、LEDランプが点灯しています。
これはまだ試作段階のデバイスであり、研究は概念実証に過ぎません。
照明のような継続的に電力供給が必要な機械の電源とするには、まだ難しそうに見えますが、今回のデバイスは安価で入手が容易なトウヒ材という木材をメインにして作られています。
今回の研究メンバーではありませんが、カーディフ大学で再生可能エネルギーを研究するニック・ジェンキンス教授は、こうしたデバイスがモノのインターネットデバイスへの電力供給として役立てることが考えられると話しています。
研究者自身も、この技術を産業用にスケールアップさせるには、さらなる努力が必要だと話していますが、簡単なコーティングによって木材の床から電気を生み出すこの技術は、最終的にはかなり有望なものになる可能性があります。
これが実用化できたらオリンピック競技場にもクーラーが設置できたかもしれませんね。
いや、しませんね。
参考文献
Hi-tech wooden flooring can turn footsteps into electricity
https://www.theguardian.com/environment/2021/sep/01/hi-tech-wooden-flooring-can-turn-footsteps-into-electricity
元論文
Functionalized wood with tunable tribopolarity for efficient triboelectric nanogenerators
https://doi.org/10.1016/j.matt.2021.07.022