説明文に偽りなし!「歩く広告塔」なカニ
動物たちにも「お気に入り」や「こだわり」がある。
編集部では以前、食パン型のクッションを持ち歩く柴犬や、大きな鍋にすっぽり入ってリラックスするサーバルなど、かわいいこだわりのアイテムを持つ動物たちをご紹介したが、今、Twitterで「それ背負うのはずるい」と笑いを誘っている、海の生き物がいる。
「他にも沢山あるのにそれ背負うのはずるくない?wwwwwwwwwwww」
Twitterユーザーのかいちゃん(@TRPGbrskay)さんが投稿した、こちらの写真。写っているのは大阪・吹田市の「生きているミュージアム NIFREL(ニフレル)」で展示されている、カイカムリというカニの仲間だ。
その名の通り、貝などを後ろの爪で背中に背負ってカモフラージュする習性があるというカイカムリなのだが注目すべきは、その背中に乗っているもの!
「背負います 貝・ホヤ・海綿 種名板」
背中に乗っているのは貝ではなく、カイカムリの姿や学名、五・七・五で説明された生態などが書かれた、展示用の「種名板」なのだ。
足元には背負いやすそうな貝殻が落ちているにもかかわらず、自分自身の解説が書かれた種名板を背負う姿は、まるで「私はこういう者です!」とアピールしているように見える。
この写真には「自己紹介してる」「歩く広告塔」「説明文通りとは恐れ入った」などのコメントが続々と寄せられ、7万5000件以上の「いいね」がつく人気となった(8月2日現在)。
カモフラージュではなく、自己アピールばっちりの姿に思わず笑ってしまう一枚だが、この「種名板」がよほどお気に入りなのだろうか? 気になる生態について、ニフレルの担当者にお話を聞いてみた。
「個体は3代目で、どの個体も種名板を背負っていました」
――改めて、「カイカムリ」とはどんな生き物?
カニの仲間で、最大で甲羅の幅が10cm程度になります。インド洋・太平洋に分布し、日本の近海にも生息しています。水深50~150mの砂や泥、礫底で暮らしています。
貝殻を背負って貝にカモフラージュするため「貝被り」が名前の由来となっています。貝以外にもホヤやカイメンなどを背中につけカモフラージュする習性があります。
――この種名板はいつごろから水槽内に?
ニフレルでは開業時(2015年11月)より、生きものの生態を五・七・五の句で読んだ「生きもの五七五」を書いた「種名板」を水槽の中に設置しております。なお、この生きもの五七五は俳人の夏井いつき先生に監修していただいております。
――種名板を背負うのはいつ頃から始まったの?
カイカムリも開業時より展示しておりますが、今回の個体は3代目で、過去のどの個体も種名板を背負っていました。この個体も貝を背負っていましたが、7月初めごろから種名板を背負うようになりました。
ニフレルによると、現在展示しているカイカムリは、2020年7月に孵化したというこの1匹のみ。
ニフレルの中では“3代目”にあたるこのカイカムリだが、種名板を背負い始めたのは7月の初めごろからで、実はこれまでに展示されていた2匹も、同じように種名板を背負っていたそうだ。
そしてこの種名板、カイカムリが水槽の中を歩き回っても倒れたりしないよう、水槽内に固定しておくための“足場”についているそう。また、水槽の中には自由に背負えるよう、ヒオウギガイやホタテ貝などの貝殻が入れられているという。
しかしカイカムリは貝殻があるにもかかわらず、種名板を「足場から引っこ抜いて持って行ってしまう」そうで、かなりお気に入りのように感じる…
ニフレル公式のインスタグラムでは、この“カイカムリブーム”に合わせて生態を解説するライブ配信も行い、種名板を背負っている理由について「背負うということ自体に安心感を覚えている、もしくは、何かを背負う時には一度おなかが上に向いて無防備になってしまうので、形が不揃いで背負うのに時間がかかる貝殻よりも、形が揃っている種名板を気に入ってしまったのでは」と解説している。
――では、種名板はかなりお気に入り?
種名板を背負いだしてからは貝殻をあまり背負わなくなりましたし、また一度種名板を背負うとその日は終日背負っているようですので、気に入っているかとは思います。
そして突然のブーム終了?「背負わないんかい!」
――一度背負った種名板はずっと背負ったまま?
一度背負うとその日は終日背負っているようですが、日によっては背負わない日もあります。なお、Twitterで話題になったのが7月23・24日頃で、その頃は背負っていましたが、7月29日頃からあまり背負わなくなりました。理由はわかりません。また気が向いたら背負うかもしれません。
――カイカムリが話題に…感想は?
ニフレルは多様性をテーマとして、生きものたちそれぞれが持っている個性の魅力をお伝えしております。カイカムリは日本沿岸にも生息していますが、その存在もユニークな生態もあまり知られていないので、今回話題になったことがきっかけになって、多くの方に関心を持っていただけるのはとても嬉しいことです。
かなりお気に入りの様子だったが、7月31日の時点で種名板を「あまり背負わなくなってしまった」というカイカムリ。思わず公式Twitterからも「背負わないんかい!」というツッコミが飛んでいた。
約1カ月続いた“ブーム”が去ってしまったのか、またかわいい姿が見られるかどうかはカイカムリのみぞ知る現在だが…ぜひその不思議な生態を実際に見てみたいものだ。
なお営業時間は公式サイトに記載しており、今後については状況により変更になる場合もあるという。