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2021年の世界経済は、欧米を中心に新型コロナ危機による落ち込みからの回復基調を見せ、消費の活発化を通じて、活動再開に向けた動きが進んできた。

【画像】金融政策の正常化に舵を切ったFRBのバウエル議長

しかし、2022年は、本格的回復が進む過程で、波乱が待ち受ける可能性があり、景気の前途には、いくつかの下押しリスクが存在している。

くすぶる「新規変異株」リスク

くすぶっているリスク要因は、オミクロン株をはじめとした新型コロナの新規変異株の感染拡大だ。各国での行動制限の強化が、経済活動を鈍化させ、景気回復へのシフトが進まなくなる事態への懸念が払拭されていない。

OECD=経済協力開発機構は、2021年12月に世界経済見通しを公表した際、オミクロン株について、「リスクと不確実性を高めている」として「経済の回復を脅かす可能性」に言及するとともに、新たな変異株の広がりに警鐘を鳴らした。

欧米に比べ景気回復で出遅れている日本では、2022年度に実質GDPが3.2%増え、2010年度以来の高成長を達成するシナリオを、政府が描いている。

個人消費などが持ち直す見通しに、大型経済対策の効果も加味したものだ。しかし、大和総研の試算では、国内でオミクロン株が流行して感染予防率が30%ポイント低下し、2022年中に3回の行動制限の強化を余儀なくされた場合、2022年の経済損失は全国ベースで10兆円程度に上り、成長率を押し下げるとされる。

オミクロン株を抑え込んだとしても、新規変異株の出現により、世界的に後れを取っていた日本での損失挽回が、一段と遅くなる可能性もある。

米利上げは新興国混乱や円安加速をもたらすか

さらなる波乱要因は、アメリカの利上げだ。アメリカでは、物価の過度な上昇に歯止めをかけるため、FRB=連邦準備制度理事会が、金融政策の正常化に舵を切っている。

市場に大量の資金を流し込んできた量的緩和の縮小を加速させ、終了時期を2022年3月に前倒しすることを決めているほか、2022年中にあわせて3回、政策金利を引き上げる見通しを示している。

アメリカの利上げの影響で心配されるのは、新興国からの資金流出だ。

アメリカとの間で金利差が生じ、新興国から資金がアメリカに急速に吸い寄せられることで、新興国経済が動揺すれば、世界の金融市場にも悪影響が及ぶ可能性がある。

また、景気回復が遅れる日本で長期緩和が続けられる一方で、アメリカが利上げに向かうことで、より高い利回りが見込まれるドルを買って円を売る動きが強まり、円安は一層進みやすくなる。

日本国内では、さまざまな商品で企業が輸入コストの増加分を販売価格に転嫁する動きが広がりつつあるが、値上げの拡大が加速すれば、家計への打撃は一段と強まる。他方、個人消費の落ち込みを恐れて、価格転嫁が進まなければ、企業業績は悪化する。

消費者の購買力が高まらないなかでの円安の進行は、家計や企業収益の圧迫を通じて国内景気を冷え込ませることになりかねない。

「グリーンフレーション」の波の行方は

世界的な経済活動の正常化に伴い、物価やエネルギー価格の上昇が続くなかで、注目されているのが「グリーンフレーション(Greenflation)」と呼ばれる現象だ。

これは、脱炭素化への対応を意味する「グリーン(Green)」と継続的な物価上昇を示す「インフレーション(Inflation)」を組み合わせた造語で、「グリーン経済」への移行で需要が増えるさまざまな素材やエネルギーの価格が値上がりするありさまを指す。

コロナ禍からの経済再開で、供給が追いつかずに起きる「資源高」と重なっているのが、いまの特徴だ。

石炭からの脱却が進むヨーロッパでは、天然ガスの価格が徐々に上がって、「グリーンフレーション」の様相を見せるなか、輸入を頼るロシアからの供給不安が強まったことで高騰し、2021年12月中旬には、一時、1年前の10倍の水準にまで値上がりし、需給ひっ迫の懸念が続く。

これに伴い、アジアのLNG=液化天然ガスのスポット価格も高値基調が続き、2022年2月の日本国内の電気ガス料金は、大手各社で6カ月連続での値上がりとなっている。自動車業界ではEV=電気自動車化への動きが強まっているが、蓄電池に使われるリチウムやコバルト、ニッケルなどが高値圏で推移している。

温暖化防止の取り組みが世界的に加速するなか、長期的な物価高を「グリーンフレーション」が誘発する可能性が出てきた。2022年は、円安による輸入物価の上昇に加えて、「グリーンフレーション」の行方からも目が離せない。

賃上げによる分配強化の成否がカギに

国内外に景気の下ぶれ要因が横たわるなか、2022年の日本経済は、人への投資による分配強化がうまくいくかがカギを握ることになるだろう。

「成長と分配の好循環」を掲げる岸田政権は、「賃上げ」を大きな政策課題としている。

業績がコロナ禍前の水準に回復した企業には「3%を超える賃上げ」を期待するとして、賃金引上げに前向きな企業への税制優遇を拡大するなどしたが、企業が蓄積した利益にあたる「内部留保」(利益剰余金)は、2020年度末時点で484兆円と、9年連続で過去最高を更新している。

企業が積極的に利益を賃上げに回せる環境が整い、家計の所得増を通じて、消費が広がるという好循環の姿は実現されるのか。新たな経済社会のステージに向け、世界が歩みを速めるなかで、日本経済も成長力を自律的に向上させていくことが求められる1年になる。

【執筆:フジテレビ経済部長兼解説委員 智田裕一】