試験中や仕事中の静かな環境で、周りの“カチカチ”というペンのノック音で集中できなくなったことはないだろうか。または、自分のペンの音で周囲が不快に思っていないか、気にしている人もいることだろう。
そんな問題を解消しようと、文具メーカーのぺんてるが最適な静音設計の油性ボールペンを開発した。
その名も「Calme(カルム)」。
仕事や勉強、日常の生活で周囲や自身が生み出した音による「音ハラスメント(音ハラ)」意識を持った20代・30代に向け、自分も周りも“穏やかに心地よく”をコンセプトとした、静音設計の油性ボールペンだ。ノック音を大幅に低減しているという。
種類は、単色油性ボールペン(0.5mm、0.7mm)が165円で、3色油性ボールペン (0.5mm、0.7mm)が 440円。多機能ペン(2色油性ボールペン0.5mm+シャープペン0.5mm、2色油性ボールペン0.7mm+シャープペン0.5mm)が550円となる。(すべて税込)
インキは、黒・赤・青の3色(多機能ペンは、黒・赤の2色)で、ボディは、ブラック・カーキ・グレイッシュホワイト・レッド・ブルーの5色展開(レッドは赤インキ、ブルーは青インキのみ)。
12月15日から全国の文具取扱店で順次発売する。
発売にあわせて同社は、開発した背景にあった日常生活における周囲の「音ハラスメント(音ハラ)」に関する意識調査を2021年7月30日から8月8日にかけて、全国の男女1114人に実施。
調査の結果、「公共空間で気になる作業音」は、「動画・音楽の音漏れ、テレビ会議の音」が全体1位、2位は「ボールペン等のノック音」、3位が「PCのキーボード音」と続いていた。「ボールペン等のノック音」は、20代から60代のどの年代においても、2位という結果だった。
20〜30代の8割強が「カチッ」に不快
20〜30代向けに開発したとのことだが、「ノック音」は全ての世代で気になっていたようだ。そして、今回発売される「カルム」では、この音を大幅に低減できたという。
では実際、どのくらい低減したのだろうか? 20〜30代の“音ハラ”の意識についても発見があったという、ぺんてる株式会社の担当者に詳しい話を聞いた。
ーー開発したきっかけは?
「油性ボールペンで新しい価値提案ができないか」という思いから、人々が集中して物事を考える環境について検証を行いました。そのなかで、働き方や働く環境が多様化し、同じ場所であっても様々な目的や作業を行う人たちが集まるという状況に身を置くことも多くなったミレニアル世代とよばれる20代~30代の方々に注目しました。
デジタルネイティブで、周囲との繋がりを重視したり、社会問題などにも意識したり、SNSでの評価社会に育った彼らは、自身の発する「音」の周囲への影響を気にしているのではないか、という仮説から商品開発を進めてきました。
そして、開発にともなって行った調査結果から、20代30代は、その上の世代に比べて、周囲の作業音などに対する不快感の感受性は8割と高く、周囲からの「音ハラスメント」に敏感であり、また自分の発する音が「音ハラスメント」となってしまうことに、不安感を感じる傾向が8割強で他世代比11.9ポイントと高いことが分かりました。
そこで、書き手の集中を阻害せず、周囲の音になじむよう調律されたノック音の製品を、さらに、デザインや色、書き心地など、「日常の中で心地よく使えるボールペン」として開発・発売しました。
ーー通常のノック音と比べ、どのくらい静かになった?
単色ボールペンと、多色・多機能ボールペンでは、それぞれにとって最適な、異なる機構を採用することで、ボールペンのペン先を入れ替えるノック時の操作音を従来製品に比べて66%低減しています。(※当社比、音圧パスカルでの比較)
また、ノック作動時に手に感じる衝撃も和らげ、書きやすさを実現し、思考への負担を軽減しています。
ーー静音の仕組みを教えて
【単色ボールペンの静音の秘密】
カルムの単色ボールペンは、ノック時に動く回転子を摺動子(しゅうどうし)が上下の両方で受ける機構により、「カチッ」とういう衝突音を防いでいます。
また、通常のノック式ボールペンでは、ノック操作の途中から指の動きから離れて、バネ力のみで推進して壁に衝突し、音を発します。 カルムの単色ボールペンの機構も、バネ力でノック推進する点は同じですが、常に手の動きに追従する構造なので跳ねて衝突いたしません。そのため、手の動きに連動して、静かにペン先を出し入れする、今までにない感触での操作が可能になっています。
【多色・多機能ボールペンの静音の秘密】
多色・多機能ボールペンは、後軸の上部に緩衝材を入れることで、ノック解除時の音を和らげています。緩衝材の素材や厚みは、静音ノックに最適になるようこだわり抜いて調整しています。
また、多色・多機能ボールペンでは、ボディが共振すると音が大きくなりますので、部品の成形精度や軸本体の剛性にも配慮して設計しています。
ーーこれまで「静音設計」はなかった?
油性ボールペンの特徴を生かしたインク開発や書き味の追求など、モノを書くに特化した機能や、時代に合わせたデザインなどでボールペン市場は皆さまに価値を提案してきました。
そのなかで、これまでも静かなノック音の単色ボールペンというのはいくつか存在してきましたが、ボールペンの価値提案の主流としてその特徴を強く評価されることはありませんでした。
ただ、今回発表した弊社の油性ボールペン「カルム」では、書き味などはもちろんのこと、「音」を意識してお使いになるみなさまにとって、その体験が日常に馴染むよう、様々なシーンや好みに合わせられるよう、単色ボールペン、多色・多機能ボールペンのシリーズで統一して、ノック音に配慮した点が特徴的です。
音を聞いたとき「これだ」と納得
ーーこだわった点は?
書き手の集中を阻害せず、周囲の音になじむよう調律されたノック音への調律です。調律という言葉でお伝えしたいのは、「無音」にするのではなく、確かなノック操作を感じる「心地よい音のチューニング」と「ノック時の感触」を整えるよう、これまでの筆記具開発のノウハウを結集して、構造の細かい調整で、「静かで心地良いノック感を実現」したことです。
(社内で様々な人にヒアリングをする中で、ノックを静かにすれば良いだけでなく、ボールペンを操作するときに心地よいレスポンスは必要だということに気づいたからです。)
ーー「ノック感」以外でのこだわりはある?
【カメラにも使われる、革調グリップ】
カメラのグリップに使われることが多い、革シボ加工技術を生かした、手なじみがよいこだわりの革調ロンググリップ。バインダー上、複写書類などどんな状況でも安定した書き味を実現。
【シンプルながら、個性のあるデザイン】
生活雑貨や家電などのデザインを手がけ、グッドデザイン賞審査委員や、iFデザイン賞審査委員も務めるmiyake design代表の三宅一成氏がデザインを担当し、和の質感を感じさせるしっとりとしたマット調デザインで、生活に馴染む静かな佇まいのデザインに仕上げました。ミレニアル世代はそれぞれの個性を大切にするので、それらの様々な個性に馴染むデザインです。
ーー開発で苦労した点を教えて
開発にあたって、「音」という新しい価値観提案への挑戦をいたしました。心地よい操作感がありながら、静かなノック音を実現するために、ノック音が小さすぎて操作感が得にくいもの、運動エネルギーが音から衝撃に変わって手に伝わるものなど、多くの試作での調整に苦労いたしました。
ーー初めてこのノック音を聞いた時、どう思った?
着想から3年の時間を経て、新しい価値提案を目指していたので、音を聞いたとき「これだ」と納得いくものになりました。各部品の細かい寸法を調整し、多くの工夫を凝らして完成した製品は、非常に満足のいくものになりましたので、安心して使っていただけると考えております。
ーー社内での反応は?
社内での反応は大変好評です。ノック感だけでなく、デザイン性やグリップの握り心地なども気に入ってもらえています。いい意味で「最近のぺんてるらしくないね」とも言われます。まずは社員が使いたい、周りにおすすめしたいと思えるものにしたかったので、大変嬉しく思います。
ーー今後の予定を教えて
詳細はまだお伝えできませんが、今後ラインナップは増やしていく予定です。
約8割が自分のノック音を気にしている
また今回の意識調査では、新たな発見もあったという。
公共空間での「ボールペン等のノック音」について、20代・30代が「集中の妨げ」や「マナー違反」「威圧的に感じる」といったネガティブな印象を、他の世代よりも持っていた。
そして、「周囲に自分のノック音を不快に思う人がいたのではないかと不安に思ったことがある」という人が、20代で82.0%、30代は81.0%で、他の世代(全体で76.3%)よりも強く感じていた。
担当者は「『人に迷惑をかけているのではないか』という視点は、調査による大きな発見だった」とし、また「当たり前だったことを少し変える挑戦のなかに『モノを書くためのボールペン』から、更に価値を高める、新しい市場の可能性があることが分かったことは大きいです。ボールペンは毎日何度もノックするものなので、細かい不満を取り除いてより快適に使っていただきたい」とも話していた。
「カルム」は、ノック音はソフトで優しく、使う人も周りの人も、穏やかな気持ちで使えそうだ。従来品に比べて66%低減がどれほど静かなのか、発売した際には試してみたいものだ。