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ゾンビ化して死姦させるヤバめの真菌の媚薬成分を解明!
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ゾンビ化に加えて死姦させる菌がいるようです。

スウェーデン農業科学大学(SLU)で行われた研究によれば、「E. muscae」と呼ばれる真菌は、ハエのメスをゾンビ化して殺した後に、オスに死姦させることで感染を広げていることが確認されました。

真菌は媚薬となる化学物質を分泌することで、オスを引き付け、胞子(分子生)まみれになったメスの死体との死姦を行わせていたようです。

研究内容の詳細は10月22日にプレプリントサーバーである『bioRxiv』に公開されています。

目次

  • ゾンビ化して死姦させるヤバめの真菌
  • 生きているオスの脳も操作して輪死姦を発生させる
  • 死姦を起こす媚薬は単一成分ではない

ゾンビ化して死姦させるヤバめの真菌

寄生されて死んだメスの死体を死姦するハエの様子
Credit:Andreas Naundrup et al . A pathogenic fungus uses volatiles to entice male flies into fatal matings with infected female cadavers . bioRxiv (2021) (閲覧注意 モザイク無し画像はこちら

昆虫に感染する菌類は、さまざまな方法で子孫を広げようと進化してきました。

そんな中でもっとも強烈な進化を果たしたうちの1つが、昆虫をゾンビ化する菌たちです。

ゾンビ化菌は昆虫の脳を支配して、目立つ場所に誘導したり、交尾を促したりすることで、感染者を増やすことが可能です。

セミに寄生し、性行為でパートナーを次々にゾンビ化させる菌が怖い。

しかし「E. muscae」と呼ばれるハエに感染するゾンビ化菌は少し様子が違いました。

E. muscaeはメスのハエに感染すると脳を支配し、メスを高い場所に誘導します。

そしてメスが高所にたどり着くと、翅を上方に向けるように広げさせ、そのままの姿勢を維持したまま殺害します。

高い場所にメスを移動させて翅を広げることで、胞子を風に乗せやすくなるためだと考えられます。

ですがE. muscaeはここからが異なります。

通常、宿主が死ぬとゾンビ化菌は宿主の体を苗床(栄養源)として利用するに留まります

ゾンビ化菌といえど、死んだ宿主は操作のしようがないからです。

しかしE. muscaeによって殺されたメスの死体は、食べ尽くされる前に、もう一仕事が求められました。

メスの死後24時間が経過したころ、次々にオスが群がり、死体との交尾(死姦)をはじめます

ですがそれは死の罠でした。

E. muscaeによって殺されたメスの体の表面は胞子(分子生)でビッシリと覆われており、死姦したオスもまたE. muscaeに感染して命を落とすことになるのです。

スウェーデン農業科学大学の研究者たちが調査を行った結果、E. muscaeによって殺されたメスの死体に対してオスが交尾を試みる回数は、生きている健康なメスに対する場合と比べて5倍にも上ることが判明します。

この結果は、E. muscaeによって殺されたメスの死体はオスにとって、生きている健康なメスよりも遥かに魅力的であることを示します。

問題は、その理由です。

E. muscaeはいったいどんな手段で、オスを誘惑していたのでしょうか?

生きているオスの脳も操作して輪死姦を発生させる

死姦されているメスの腹部には白い胞子がビッシリ付着している
Credit:Andreas Naundrup et al . A pathogenic fungus uses volatiles to entice male flies into fatal matings with infected female cadavers . bioRxiv (2021) (閲覧注意 モザイク無し画像はこちら

E. muscaeはどんな方法で、オスを誘惑して死姦させていたのか?

謎を探るべく研究者たちは、E. muscaeに感染したメスを生きている段階から詳細に調べました。

すると興味深いことに、メスは生きている間は、それほどモテなかったことが判明します。

しかしメスが死んでから24時間が経過し、胞子がメスの体を覆う頃になると、死体は特徴的な化学物質を発するようになると判明します。

この化学物質はE. muscaeがメスの内臓を食べながら合成したもので、オスの脳を支配して、死姦を起こさせる効果がありました

つまりE. muscaeはメスをゾンビ化して操作、殺害するだけでなく、生きているオスの脳も操作し、胞子まみれになったメスの死体との死姦を行わせていたのです。

オスによる活発な死姦によって、胞子はより多く空中に解き放たれ、追加のオスたちにより輪死姦を発生させました。

また研究者たちが胞子を調べたところ、胞子そのものにもハエを引き付ける効果があることが判明します。

研究者たちが胞子を集めて粘着紙の上に置いたところ、オスもメスも引き寄せられて、粘着紙の罠にとらわれることがわかりました。

死姦を起こす媚薬は単一成分ではない

人間にとっては天然のハエ取り装置である
Credit:Canva . ナゾロジー編集部

今回の研究により、真菌E. muscaeがハエのメスをゾンビ化させて殺害し、オスに死姦させるメカニズムが解明されました。

E. muscaeはメスの死体を材料にオスを誘惑する化学物質を合成し、オスに死姦させることで胞子の拡散を手伝わせ、最終的にはオスも殺して新たな苗床にしていたのです。

また化学分析によりE. muscaeによって分泌される化学物質は長距離用の揮発性化合物(セスキテルペンなど)と短距離用のクチクラ炭化水素(メチル分枝アルカンなど)にわかれて、効率よくターゲットを引き込んでいることがわかりました。

つまりE. muscaeの放つ媚薬は単一成分ではなく複合材料から構成されていたのです。

研究者たちはE. muscaeが合成する化学物質を解明することで、昆虫の行動を操作できる薬品を開発できると考えています。

人間にとっては害虫でしかないハエも、ゾンビ化や死姦を強制されていると思うと、少し哀れに思えてしまいますね。

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元論文

A pathogenic fungus uses volatiles to entice male flies into fatal matings with infected female cadavers
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.10.21.465334v1.full