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<東京五輪でのメダルの「数え方」をめぐり、米中「場外戦」が勃発している> 東京オリンピックが終盤に差し掛かるなか、何かにつけて張り合うアメリカと中国もメダルラッシュに沸いている。こうしたなか、中国ではファンやコメンテーターがSNS上で、アメリカのメダルの「数え方」に文句をつけている。 米メディアはメダルの獲得総数で国別のランキングを報じているため、中国はアメリカよりも5つ多くの金メダルを獲得しているのに「2位」とされているからだ(日本時間8月5日16時15分現在、以下同)。 アメリカのランキング方式では、国別メダル獲得数はアメリカが1位で計85個。2位が中国の71個、3位がロシア・オリンピック委員会の55個だ。 この数え方に中国などの五輪ウォッチャーたちが不満を抱いており、SNSでは、米メディアによる悪意に基づく偏向報道だと非難する声が上がっている。 8月3日には、体操女子種目別平均台で中国の管晨辰と唐茜靖がアメリカのシモーネ・バイルズに競り勝ち、金と銀を獲得(バイルズは銅メダル)。これを受けて、ネット上の不満の声はさらに高まった。 金メダル獲得数では、中国が現在32個でトップ。2位がアメリカの27個で、3位が開催国である日本の21個だ。 アメリカが異例、「金メダル獲得数」が世界標準 アメリカのメダル獲得数表は世界のほかの国・地域と比べて異例なだけでなく、IOC(国際オリンピック委員会)の方式とも異なる。IOCのメダル獲得数表は、金メダルの獲得数を基にランキングを作成しているが、獲得総数順に並べ替えることもできるようになっている。 統計調査会社スタティスタが作成した下図では、2021年8月4日時点の東京オリンピックの国別メダル獲得数(獲得総数、メダル別獲得数)がひと目で分かる。 獲得総数による数え方を用いているのは、アメリカのメディアだけではない(メディアではNBC、ヤフー・スポーツ、ワシントン・ポストなど多数が採用)。米オリンピック・パラリンピック委員会も、メダルの獲得総数を基準にした数え方を用いている。 一方でイギリスのオリンピック委員会は、IOC方式を採用している。 ウェブサイトに両方式の獲得数表を掲載しているニューヨーク・タイムズは、この問題について次のように記している。 「8月4日の午前7時30分(米東部時間)現在、金メダルの獲得数を基準にしたオリンピックの公式メダル獲得数表では、中国がトップだ。世界の多くの国はこの数え方を採用しており、銀メダルと銅メダルの獲得数については、金メダル獲得数が同じ国を区分するためのみに使っている」 「メダル獲得総数を基準にしたもう一つの数え方では、現時点でアメリカがトップだ。ニューヨーク・タイムズを含むアメリカの報道機関は、この数え方を用いることが多い」 ===== 五輪のメダル数の「数え方」をめぐる議論は、今に始まったことではない。この問題についてIOCの公式なポリシーはないが、アメリカを除く世界のほぼ全ての国・地域では「金メダル獲得数を優先」する方式が採用されている。 獲得総数を優先するアメリカの数え方には長い歴史があり、2008年の北京オリンピック以前からこの方式が使われているが、問題視されるようになったのはその北京大会からだった。 北京大会で、中国は金メダル48個を含む計100個のメダルを獲得。アメリカは金メダル36個を含む計112個のメダルを獲得した。 開催国の中国と世界の他の国々が「中国がトップ」と認める一方で、米メディアがメダル獲得数表でアメリカを1位にしたことが物議を醸し、「アメリカはオリンピックのメダル獲得数での敗北を認めようとしない」「アメリカがメダル獲得数表を印象操作」などと報じられた。 とはいえ、メダルの獲得総数を優先しているのは、実はアメリカだけではない。 ロシアもこの数え方を好んでおり、2004年のアテネ大会では、メダル獲得数表で自国を中国よりも上の2位と報じた(金メダル獲得数では中国が2位、ロシアが3位)。 ロシア・オリンピック委員会の広報担当者が2008年に、獲得総数ではなく金メダルの数で国別のランキングを決める方法は「愚かな考え」だと発言したこともある。 ただし、現在はロシアの複数のメディアが金メダル獲得数を優先する数え方を採用しており、東京大会でのロシア選手たちのランキングを6位としている(獲得総数では3位となるのだが……)。 アスリートにとっても、メダルの色の違いは大きい 数え方そのものより現実的な懸念は、金銭的な問題だ。多くの国は、オリンピックで金メダルを獲得できる見込みのあるスポーツに、優先的に資金拠出を行っている。 東京大会での「勝者」が誰なのかについて、中国とアメリカの見解は異なるかもしれない。ただいずれにしても、真の「敗者」は、メダル獲得の見込みが「金」ではなく銀や銅の場合に金銭的な支援を得られないかもしれない、ほかの国々のアスリートだろう。 個々のアスリートにとっても、メダルの色の違いは大きいのだ。 中国はこれまでに東京オリンピックで金メダル32個、銀メダル23個と銅メダル16個を獲得している。金メダルの獲得数は、自国開催だった2008年の北京大会を除けば最多となるかもしれない。 ===== 残りの競技・種目で中国が2008年の北京大会で達成した「金メダル48個」の最高記録に並ぶ可能性は低いが、中国のファンたちは、8月8日の東京大会閉幕までに、あといくつかの金メダルを期待している。 中国が勝てる可能性が最も高いのは、卓球の女子団体および男子団体の決勝だ。そのほかに女子20キロ競歩、女子棒高跳、ボクシング女子ミドル級などの競技でメダル獲得の可能性が残っている。 中国のアスリートたちにとっては、非常に大きなプレッシャーのかかる大会となっている。 また中国は今回の東京オリンピックで、欧米メディアが中国人アスリートの成績を報じる際に、意図的に「不細工な」写真を選んで使っているとも非難している。 =====