行政のデジタル化の遅れが浮き彫りに
新型コロナウイルスの感染拡大の局面で浮き彫りになった「行政のデジタル化の遅れ」。
【画像】「物理的・時間的距離を埋めていく」決意を語る牧島かれん大臣
今回のコロナ禍で、行政システムの脆弱さが浮き彫りになったのは、10万円の特別定額給付金をめぐる手続きだった。デジタル整備が追いついておらず、手作業での処理を余儀なくされた自治体が相次いだ。申請から給付までの流れが円滑に進まず、混乱が相次いだのは記憶に新しい。
デジタル庁は、こうした過去の反省を踏まえ、デジタル政策の指令組織として各省庁を統率する。その旗振り役を担うのが牧島かれんデジタル担当大臣だ。
__牧島かれんデジタル担当相:
「国民の皆さんがどこにいても生活の利便性、生活の質を保つことができるように、その原点をしっかりと肝に銘じながら政策を遂行していきたい」__
「デジタルインフラの整備と社会への実装を、都市でも地方でもしっかりと実感できるよう、物理的、時間的な距離を埋めていくことが重要だ」
平井前大臣からその重責を引き継ぎ、就任後初の閣議後会見で語気を強めた発言からは確固たる決意が伝わった。
新型コロナウイルスによる感染者数は減少傾向にあり、経済社会活動は正常化に向かいつつあるが、懸念される第6波の到来や、新たな感染症の世界的な流行に備えるためにも、行政のデジタル化の遅れの挽回を早急に進めなければならない。
接種証明書の電子交付、課題は?
デジタル庁にとって取り組むべき最優先課題の一つ、それは新型コロナのワクチン接種証明書の電子交付だ。
誰が、いつ、どのようなワクチンの接種を受けたかは、デジタル庁が運用している「ワクチン接種記録システム(VRS)」でマイナンバーと紐付けられて記録されている。
海外渡航者向けに紙での接種証明書の申請・交付はすでに今年7月末に始まっているが、年内をめどに運用開始を目指している電子交付では、スマートフォン上で二次元バーコード付きの接種証明書を表示できるようになり、海外渡航時のみならず国内での利用も想定されている。
すでに自治体として独自の接種証明の電子交付を始めたところもある中、デジタル庁は9月に自治体や事業者などからその仕様に関する意見を公募した。
寄せられた声の中で多かったのは、店舗に入る際にスタッフに自分の名前や生年月日などの個人情報を見られたくないという、プライバシー保護をめぐる懸念だ。こうした声を受け、デジタル庁は、スマホの画面上にそれらの個人情報を表示するかどうか、3つのレベルに分け利用者が選べる仕様に変更すると表明した。
最小限の情報提示レベルでは、氏名などは隠すことができ、接種した事実だけが表示される。
利用者側の心配に寄り添った形の仕様に変更されることになったが、このワクチン接種証明のスマホ申請には、交付率がいまだに4割に満たないマイナンバーカードが必要となっている。
マイナンバーカードの申請から取得には最短でも1ヶ月程度はかかるため、現時点でマイナンバーカードを申請していない人は、年内とされる電子交付のスタート時には、その恩恵を受けられないことになる。
「マイナ保険証」本格運用始まったが…
一方、マイナンバーカードを健康保険証として使う「マイナ保険証」の本格運用が10月20日に始まった。
医療機関などの受付で、カードを読み取り機にかざし、顔認証などを行うことで、資格を確認し手続きを済ませることができるほか、個人向けサイトで薬の処方履歴や特定健康診断の結果も閲覧可能だ。
政府としてはこうした利便性を前面に押し出し、マイナンバーカードの普及を加速させたい考えだが、運用スケジュールには大幅な遅延が生じている。先行導入は3月に始まったものの、一部の医療機関等でトラブルが相次ぎ、本格的な運用が7ヶ月遅れたのだ。
厚生労働省によると、本格運用開始後の10月末時点で、全医療機関のうち、顔認証付きカードリーダーを設置しシステム改修などの準備を終えたのは9.8%だ。
低水準にとどまっている理由は、感染拡大のなか、医療機関の人手がワクチン接種にとられて準備にあてられなかったり、システム導入に円滑な資金手当てができなかったりしたためだ。システムを導入できても、準備に時間がかかるという問題もある。
「縦割り文化」の打破は可能か?
依然として縦割り文化が強い中央省庁でのIT業務の一本化も、デジタル庁が取り組んでいかなければならない大きな課題だ。
これまで、IT関連の政策は経済産業省や総務省など、様々な省庁や部局にまたがっており、それぞれ事業者と交渉しシステムを導入し業務を行っていたため、異なる仕様のシステムが混在していた。その結果、システム間の連携がスムーズにいかず手続きに支障がでる事態も生じていた。
こうした省庁間の垣根を乗り越え、さらに中央官庁と地方自治体をもつなぐデジタル環境を整えるために進められているのが、政府共通のクラウドサービス利用環境「ガバメントクラウド」だ。
「ガバメントクラウドを整備して迅速、柔軟かつセキュアでコスト効率の高いシステムを構築可能とし、利用者にとって利便性の高いサービスをいち早く提供する」
10月26日の閣議後会見でこう述べた牧島大臣は、アマゾンとグーグルのクラウドサービスを使用すると表明。
しかし、この分野でも対応は後手に回っている。ガバメントクラウドの先行事業は、当初は今年7月に事業者を、8月に採択する自治体を決定、9月に事業開始という予定だったが、最初の段階の事業者決定が10月にずれ込んだ。スケジュールは、すでに数カ月遅れていることになる。
最終的には、地方自治体で行われている住民登録や地方税、介護福祉など17基幹業務について、2025年度までに“標準準拠システム”と呼ばれるシステムへの移行を目指す方針なのだが、現在のような状況で果たして4年後までに移行完了できるのだろうか。
「誰1人取り残さない」デジタル社会へ
デジタル庁は「誰1人取り残さない、人に優しいデジタル社会」を目指すとしている。利用者目線に立ち、無駄なく、使いやすい行政システムを構築できるのか。
職員600人のうち200人をIT企業など民間から起用するという陣容でスタートし、デジタル化という一大事業に挑む新官庁は、その真価が試される。
(執筆:フジテレビ経済部 デジタル庁担当 秀総一郎)