<被害の大きな農村では、住民の4人に3人が深刻な飢餓状態に> アフリカ大陸の南東に浮かぶ島国・マダガスカルで、深刻な飢饉(ききん)の懸念が高まっている。 国連最大規模の人道支援機関である世界食糧計画(WFP)は、「グラン・スッド」と呼ばれるマダガスカル南部の孤立した農村地帯だけで2万8000人が重度の飢餓状態にあり、食糧難に見舞われている人々の数は114万人に達すると発表した。 WFPは4月発表のニュースリリースのなかで、「マダガスカル南部で長期にわたり容赦ない日照りが起きており、数十万の人々が飢饉の瀬戸際にある」と述べている。 現段階ではWFPが定める飢饉の定義に達していないものの、近い将来に正式な飢饉と認定される可能性が高い。現時点で4人に1人が急性栄養不良を患っており、WFPは「これ以上の悪化を食い止める緊急の手段が講じられない限り、(マダガスカルは)飢饉に陥る危険性が高い状態にある」と警告した。 これまでにもマダガスカルはたびたび干ばつに見舞われてきたが、基本的に3年に1度ほどのペースに留まっていた。近年ではほぼ毎年発生しているうえ、枯れ果てた森林からはネズミの大群が四散し、ペストの大流行を招いている。こうした混乱に拍車をかけるように、昨年からは新型コロナウイルスがまん延するようになった。 「40年来最悪の干ばつ」 サボテンで食いつなぐ 状況は人道上の危機とみなされるほど悪化している。国連ニュースは現地に赴いた使節団からの報告として、南部地域が「40年来最悪の干ばつ」に見舞われており、「人々は人道的見地からして深刻な危機状態」に置かれていると伝えた。 一例として同地域に位置するマロヴァト村は、昨年から極度の水不足が続いており、人口の75%が深刻な飢餓状態にあるという。村から8キロほど行くと都市部に出るが、ここでも吹き荒れる砂嵐が近郊の農地を埋没させ、多くの人々が栄養失調に陥っている。 Southern Madagascar On The Brink Of Famine Due To Catastrophic Drought 英BBCも同様に島南部の惨状を取り上げ、地域に4年間ほぼ降雨がなく、数万の人々が飢えや不安定な食料事情に苦しんでいると報じている。「ここ40年間で最悪の干ばつが、国南部の孤立した農村部に壊滅的な被害を与えており、人々は生きるために昆虫をかき集めている」と記事は続ける。 雨が降らないため種をまいても農作物を育てることができず、食料を自給できる目処は立たない。ある女性はBBCに対し、「今日はサボテンの葉以外には食べるものがまったくありません」と語った。彼女は飢餓で夫を亡くし、残された2人の子供たちはここ8ヶ月ほど毎日、イナゴを食べて生き延びている。 Madagascar on the brink of “climate change famine” – BBC News WFP日本語版サイトでは、次のような記述を確認できる。「ある村で、子どもに最後の食事はいつ食べたのか、それは何だったのかと尋ねました。 彼は粘土質の地面を指差しました。」 母親は子の空腹を満たそうと、普段であれば食べない雑草を土と一緒に煮込んだのだという。 ===== 今後半年でさらに悪化か 今後の見通しは決して明るくない。例年9月から翌3月までは収穫物の在庫が不足しがちな傾向にあたる。9月からの半年間は、同国におけるペストの流行期とも重なる。国境なき医師団は、すでに例を見ない規模となっている飢餓が今後悪化し、12月までに131万人が飢餓状態に陥るのではないかとの懸念を表明した。 頼りの綱は経済だが、昨今の情勢からこれも振るわない。英インディペンデント紙は、例年であれば観光客で賑わっていたマダガスカルの経済がパンデミックにより悪化しており、さらに国境封鎖のため季節労働も難しくなっていると指摘する。 援助物資にも悪影響が生じている。南部の主要な港が感染症対策で封鎖されていることから、食料の物資は北部の港で荷下ろしされる。英テレグラフ紙の報道によると、港から国内の悪路を通じた陸送に最大で8日前後を要しており、南部地域への供給は滞りがちとなっている模様だ。 国連としても食料配給や衛生設備の向上など支援を行っているが、干ばつが予想を超えて長期化していることから、資金と体制が追いついていないのが現状だ。食料の市場価格は3倍以上に跳ね上がっており、一部地区では食べ物を調達するために土地を手放す人々も現れはじめた。 温暖化による世界初の飢饉か WFPは、現在マダガスカルで進行中のこの事象が、世界で初めての気候変動による飢饉になる可能性があると指摘している。WFPのスポークスパーソンであるシェリー・タクラル氏は英スカイニュースに対し、「通常私たちが目にする飢餓は、紛争が原因で起きるものです」と語る。争乱ではなく気候変動によって大規模な飢餓が発生するのは異例のことだという。 事態は現在のところマダガスカル島の南部で進行しているのみだが、先進国にとっても他人事ではない。WFPは今夏ヨーロッパや北米などで頻発した大規模な森林火災を挙げ、こうした自然災害が単発の事象に留まらない可能性があると指摘している。 マダガスカルは国連が発表する「気候変動の影響に対して脆弱な国」の上位常連国だ。温暖化の影響が他の国よりも早期に出ているにすぎず、今後過酷な気候条件にさらされる地域は拡大する可能性がある。スカイニュースは本件を、地球規模で進行しつつある気候変動問題の「警鐘」だと報じた。