イングランド東部・ケンブリッジシャーにて、北ヨーロッパで初、世界では4例目となる磔刑(たっけい)の物的証拠が発見されました。
見つかったのは、3〜4世紀頃に埋葬された男性の遺骨で、右足のかかとの骨に釘が打ち込まれたままとなっています。
報告によると、この骨は、古代ローマ帝国に統治されていたイングランドのある男性(おそらく奴隷)のもので、十字架にかけられ、残酷な死を遂げたことを示しているという。
磔刑の物的証拠が見つかるのはきわめて稀であり、さらに釘が刺さったままのものは今回が2例目とのことです。
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- 十字架刑は「重罪人」にしか執行されない
十字架刑は「重罪人」にしか執行されない
磔刑に処せられた男性の骨は、2017年11月、ケンブリッジシャーの住宅開発の予定地で、下調査を行った際に発見されました。
出土したのは大きな共同墓地で、男性の遺骨の他に、48人分の摩滅してボロボロになった骨が見つかっています。
近くには作業場のようなものがあり、動物の骨を割って、石鹸などに使われる骨髄を取り出していたようです。
これらの人々は、ローマ人の命令のもとで、過酷な奴隷労働に身を投じていたことが推測されます。
発掘を率いたアルビオン・アーケオロジー社(Albion Archaeology・英)は、ケンブリッジ大学(University of Cambridge)の考古学チームと協力し、遺骨の調査を開始。
その中で、最初は泥にまみれて気づかなかったものの、研究室で洗浄したのち、ある男性の全骨格のうちに釘の刺さったかかとの骨が発見されました。
釘は、かかとを貫通しており、両側から数センチほど突き出ています。
放射性炭素年代測定の結果、男性の年齢は25〜35歳で、紀元130〜360年の間に死亡したと特定されました。
また、DNA鑑定により、この男性は共同墓地で見つかった他の遺骨とは遺伝的に関係なく、イングランドにいた先住民の血を引いていることが分かっています。
アルビオン・アーケオロジー社のデビッド・インガム(David Ingham)氏は「男性の足の脛(すね)は非常に細く、薄弱化しており、十字架にかけられる前の長期間、鎖で繋がれていた」と話しています。
同氏はまた、紀元212年にローマ帝国に住むすべての自由民に市民権が与えられ、一般的に、それらローマ市民には十字架刑が行われなかったことを指摘。
このことから、男性はイングランド先住民の一人で、ローマ人の奴隷だった可能性が高いようです。
一方、十字架刑は国家への反逆罪など、最も重い罪を犯した者に科せられる刑であり、たとえ奴隷であっても、そう簡単に磔刑にはされませんでした。
そのため、男性はローマ人の監督者に反抗し、投獄され、最終的に磔刑に処せられたのかもしれません。
いずれにせよ、今回の発見は、古代ローマ時代の磔刑の証拠として非常に貴重なものです。
北ヨーロッパでは唯一の物的証拠であり、世界でも4番目の報告、しかもそのうちの2つには釘が残されていません。
磔刑の慣習は、アッシリアやバビロニアで始まったと考えられており、紀元前6世紀には、ペルシャでも罪人を木や柱に縛りつける刑が行われていました。
また、磔刑に「十字架」が使われるようになったのはローマ時代に入ってからですが、その実態を詳しく知ることはなかなかできません。
インガム氏は、こう話します。
「磔刑がいつ、どこで、どのように行われていたかについては、歴史的な記述からそれなりのことが分かっています。
しかし、それが実際にどんなものだったかは分かっておらず、今回の発見は、それを垣間見ることのできる数少ない証拠となるでしょう」
記事内容に一部誤りがあったため、修正して再送しております。
参考文献
Rare evidence of Roman crucifixion uncovered in the UK
https://www.livescience.com/crucified-roman-era-man-found-uk
Best physical evidence of Roman crucifixion found in Cambridgeshire
https://www.theguardian.com/science/2021/dec/08/best-physical-evidence-of-roman-crucifixion-found-in-cambridgeshire