LiDARは目新しい技術ではありませんが、近年では特に車載向けセンサーとして注目を集めており、技術者でなくても耳にする機会が増えています。この記事では、LiDARの仕組みから、一般車に安全機能として実用化されているカメラやセンサーとの違い、普及を広げるための課題などを分かりやすく解説していきます。
LiDARの原理とは
LiDARは“Light Detection And Ranging”、もしくは“Laser Imaging Detection and Ranging”の頭文字をとった用語で、日本語では「光検出と測距」、「レーザー画像検出と測距」と訳されます。レーザー光を使ったリモートセンシング技術の1つで、対象物にレーザー光を照射し、物体に当たって跳ね返ってくるまでの時間を計測することで物体までの距離や方向、位置、形状などを測定します。
広範囲に照射されたレーザー光のスキャン結果はビューア上では点で表され、無数の点が集まることで点描が画像イメージを生成し、リアルタイムに周囲の状況を3次元で把握することが可能になります。
技術としてはレーダー“Radio Detecting and Ranging(電波探知測距)”と似ていますが、レーダーでは波長の長い電波を使うのに対し、LiDARは波長の短い光を使います。近赤外光や可視光、紫外線など、光束密度が高く、波長の短いレーザー光を用いるため、高い精度で位置情報や物体の形状などを検出できるのが特徴です。レーダー波は効率よく反射される金属物の測定は得意な一方、反射しにくい物体や小さな物体の測定は苦手としています。
そんなデメリットを補うのがLiDARで、1960年代から地質学や気象学の分野で用いられてきました。近年では計測精度が著しく向上しており、自動運転の分野など広範な用途での活用が期待されています。
LiDARの用途例
LiDARはエアロゾルや雲の粒子の検出もできることから、気象学や大気の研究に使われています。また、航空機に搭載してGPSを組み合わせ、地殻の変位の測定や氷河の観測をするなど、地質学にも役立っています。
最近になって一般に知られるようになったのは、自動運転において人間の眼に代わる役割としての技術です。自動車や自動搬送車(AGV)、ロボットなどに搭載し、人や物を高精度に検知する用途への利用が進んでおり、民生から産業分野まで自動化を安全に推進するための重要な役割を担っています。
従来のものとLiDARの違い
自動車の自動ブレーキや車線維持支援システムなど実用化が進むADAS(先進運転支援システム)では、周りの状況を識別、測定するための方式として、カメラとミリ波レーダーとの組み合わせが主流となっています。しかし、自動運転車を実用化するためには、より正確に状況を把握するためにLiDAR方式が必要不可欠とされています。
カメラは撮影した映像を画像処理することで対象物を識別できますが、正確な形状や位置の検知が困難で、悪天候や暗がり、逆光、レンズの汚れといった周囲の環境に精度が大きく左右される短所があります。ミリ波レーダーはLiDARと同じ原理で、照射した電波が対象物に当たって跳ね返ってくるまでの時間差を計測することで距離や方向を測定します。明るさや天候に影響されない長所はありますが、反射しにくい物体や小さな物体の検知は苦手とします。
LiDARは広い範囲にわたり、高精度に距離や位置、形状を検出し、3次元での把握が可能ですが、色の識別が苦手、検知能力が天候に影響される、ミリ波レーダーより高価になるといった短所もあります。3つの方式を組み合わせることで短所を補い、より正確な状況把握が可能になります。
LiDARが実用化されない背景
自動運転車向けのLiDARは開発段階にあり、本格的な実用化には越えるべきハードルがいくつかあります。最大の課題が価格で、試験車両向けに数百万円だったとされる開発初期と比べれば大幅な低価格化が進んでいますが、車載向けセンサーの中ではもっとも高価な方式ため、市販車への搭載は一部の高級車に限られているのが現状です。
しかし、矢野経済研究所の予測では、自動車関連向けを筆頭に2030年にはLiDARの市場規模は4959億円になると見込まれており、熾烈な開発競争が進んでいます。自動車向けLiDARの小型化、軽量化、高性能化とともに低コスト化が加速し、一般的な量産車への実用化も近い将来実現されるかもしれません。
価格以外にも、ソフト面での課題もあります。自動運転の実現にはLiDARのほか、3次元情報を持つ高精細な自動運転向け地図データ「ダイナミックマップ」が必要になります。ダイナミックマップとLiDARで取得した地図を比較することによって、自己位置を精密に推定できます。車線や地形、信号、規制など、常に最新の道路交通情報が反映されたダイナミックマップについても、共通データの作成が進められています。
また、LiDAR並みの解像度を備えたミリ波レーダーの登場や、高精度カメラとAIを主体としてシステムを組み、LiDARや高精度3次元地図も使わない方針を示すテスラの存在など、自動運転車システムの開発を巡る主導権争いは激しさを増しており、LiDARの実用化がどこまで進むのかが注目されています。
LiDARの方式
車載用LiDARの開発初期は、レーザーモジュールをモーター駆動により360°回転させるメカニカル方式が主流でしたが、小型、軽量化が困難で設置場所が限定される、開発コストが高い、回転部の振動に対する耐久性が低いといった問題がありました。
それらの課題を克服するため開発され主流になりつつあるのが、回転機構を半導体技術や光学技術で置き換えたソリッドステート式のLiDARです。回転しないためレーザーの検知範囲は狭くなりますが、小型で設置場所の自由度が高い複数のLiDARを利用することで360°の全方位検知に対応します。
ソリッドステート式の代表的なスキャン方式が、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)式です。半導体の微細加工技術によって集積化された微小電気機械システムを機構部分に採用し、レーザー光の走査にシリコンMEMSミラーを用います。ミラーは永久磁石と電磁石で稼働させるため、摩擦がなく高速かつ高精度のビームステアリングが可能です。MEMS式には、テレビ受像機やディスプレーと同じ方式でレーザーを照射するラスタースキャン方式や、小型ミラーを立体的にうねるように動かすことで広角のセンシングが可能なウォブリングスキャン方式などがあります。
また、LiDARの距離測定にはToF(Light Detection and Ranging)を使うことが主流ですが、ミリ波レーダーで使われてきた測定手法のFMCW(周波数変調方式)を採用したFMCW LiDARが開発段階にあります。時間とともに周波数が直線的に上昇するように変調した電波を連続的照射し、送信波と反射波の周波数差から距離を求めます。天候の影響を受けにくいのが特徴で、高解像度かつ長距離での安定性能が期待されています。
他にも、近赤外もしくは青色光で動作するオンチップの光フェーズドアレイ(Optical Phased Array:OPA)を利用した方式も開発が進んでいます。
LiDARに使われる部品
LiDARのレーザーには近赤外線が用いられ、センシング光源として半導体レーザーを使います。波長905nmの近赤外線にはシリコン半導体レーザーが使われ、安価で大出力仕様が得られるメリットがある一方で、目への安全面で不安があります。
目に優しい波長1550nmの近赤外線には化合物半導体レーザーが使われ、太陽光の影響が少なくより遠方まで検知できるメリットがありますが、十分な出力のものを得るのが難しいデメリットがあります。LiDAR向けに高出力で高効率、ビームサイズの小スポット化が可能で安全な半導体レーザーのニーズが高まり、フォトニック結晶レーザーを用いた空間走査方式に注目が集まっています。CMOSプロセスで安価に大量生産ができれば、車載LiDARとして採用が広まる可能性があり、各社開発を進めています。
まとめ
近年のLiDARの進歩は目覚ましく、ADASに活用できるまで性能と信頼性が向上しています。車載向けとなると一部の高級車に限られますが、低価格化の進展具合では一般的な量産車にも搭載される日はそう遠くないかもしれません。
また、広範な産業分野でのモビリティの自動化ニーズは高く、今後の市場拡大は確実とされています。一方で、AIカメラやミリ波レーダーのセンシング技術も向上しており、どこまで存在感を高められるかが注目されています。
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