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<「反中」要素はないはずなのに──巨大市場の興行収入を期待していたマーベルの親会社ディズニーの大誤算> マーベル・スタジオの新作映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』は、北米ではレーバーデーの祝日を含めた9月第1週の週末にオープニング興行収入で歴代トップを記録、快進撃を続けている。 中国系のスーパーヒーロー、シャン・チーの宿命の戦いを描いたこの映画、なぜか中国では検閲当局の許可が一向に下りず、公開の目処が立っていない。スクリーンに炸裂するカンフーアクションを楽しみにしていた中国のマーベルコミック・ファンは、不許可の理由に首を傾げ、不満を募らせている。 主人公のシャン・チーを演じる中国系カナダ人、シム・リウはじめ、この映画ではアジア系の人気俳優が大活躍する。中国と韓国をルーツに持つオークワフィナ、香港映画のスター、トニー・レオン、中国系マレーシア人のミシェル・ヨーと錚々たる顔ぶれだ。さらにシャン・チーの妹役には南京出身の新人メンガー・チャンが大抜擢され、中国語のセリフをしゃべる。 アメリカとカナダでは、この映画はハリウッドへのアジア系の進出を物語る作品としても注目を集めた。2018年公開のマーベル映画『ブラックパンサー』が黒人監督と黒人俳優の活躍に道を開いたように、マーベルは『シャン・チー』でアジア系の才能を迎え入れたと、批評家は論じている。 中国人ヴィランの野望が問題に? 主人公のルーツは中国で、その最強の武器は中国武術という設定なので、中国当局もすんなり公開を認めるはず──中国人ファンの多くはそう考えていた。原作のコミックには問題になりそうな箇所もあるが、映画ではそれらは手直しされているから、なおさらだ。 今のところ中国当局は公開を許可しない理由を明らかにしていない。だが原作のコミックでは主人公の父親の名はフー・マンチューで、どうやらこの人物の造形が当局には気に入らないようだ。フー・マンチューは欧米の支配に怒り、世界征服を目指す犯罪組織の親玉。原作コミックにも元ネタがあり、20世紀前半に小説と映画で人気を博した「怪人フー・マンチュー」シリーズが下敷きになっている。そのステレオタイプ的な中国人像が、政治的な影響に過敏になっている中国当局の不興を買ったらしい。 とはいえ、映画にはフー・マンチューは登場しない。トニー・レオン演じる主人公の父親ウェン・ウーは犯罪組織テン・リングスの親玉だが、複雑な葛藤を抱える人物として描かれている。それでも中国当局にはお気に召さなかったようで、マーベルは巨大市場・中国での収益を失いそうな雲行きだ。ちなみに、これまでに公開されたアベンジャーズ・シリーズはいずれも中国で大ヒットを記録した。 ===== もっとも、中国人ファンは公開不許可を嘆く声ばかりではない。ネット上では、検閲当局が許可を渋るからには、それなりの理由があるはずだとのナショナリズム的な主張も飛び交っている。それに対し、既に映画を見た国外在住の中国人は、中国最大のミニブログサイト・新浪微博(シンランウェイボー)などを通じて、この映画には中国や中国文化を「侮辱するような」描写は一切ないと反論している。 「これは中国人のヒーローが活躍する映画だ。原作には物議をかもすキャラクターが含まれていたが、映画にはそうした人物は一切登場せず、中国語の会話や中国的な要素が盛り沢山だ。この映画が中国で公開されないのは悲劇としか言いようがない。私たちが語ってきた文化的な矜持や寛容性はどこに行ったのか」 中国の検閲当局が「過剰に神経質」になっていることや「被害者意識」にとらわれすぎていることを問題にする投稿もある。いずれにせよ、見ないうちから「反中映画」と決めつけないで欲しいと、国外在住者は訴えている。 マーベルの次作もダメ 『シャン・チー』は北米をはじめ世界各地で公開されているが、中国市場の興行収入を見込めなければ、マーベルの親会社ディズニーにとっては弱り目にたたり目となる。それでなくともコロナ禍で映画産業は大打撃を受けているからだ。 11月に公開予定のマーベル作品『エターナルズ』も中国では上映禁止になりそうだ。その理由は、メガホンを取ったのが中国系のクロエ・ジャオであること。ジャオ監督は前作『ノマドランド』でアジア系の女性として初めてオスカー監督賞に輝いた。 当初は中国メディアも『ノマドランド』が高い評価を得ていることを誇らしげに伝えていたが、今年3月にネット上でジャオの過去の発言が反中的だとして問題になると、風向きは一変。4月のオスカー授賞式でのジャオの歴史的な快挙は中国国内では一切伝えられず、授賞式の模様も放映されなかった。 『ノマドランド』は上映禁止となり、中国語タイトル『無依之地』のハッシュタグが付いた微博の投稿は、全て検閲で削除された。 =====