マックスプランク固体化学物理学研究所(MPI CPfS)の研究チームが、オハイオ州立大学およびシンシナティ大学の研究チームと共同で、反強磁性体YbMnBi2における巨大な熱電効果を発見した。従来から提案されている、温度差だけを利用する「ゼーベック効果」に基づいた熱発電素子と異なり、温度差および磁場に基づく「ネルンスト効果」を利用するものだ。従って熱流および磁場に対して直角方向に起電力を発生できることから、素子の平面的な高集積化が可能になり、高効率の熱発電素子の開発に発展すると期待される。研究成果が、2021年11月22日に『Nature Materials』誌に公開されている。
エネルギー環境問題の観点から、工場や自動車、コンピューターやサーバーから排出される未利用廃熱から発電する熱発電素子の研究が進められている。これまでに、温度測定に古くから活用されてきた熱電対と同じ原理に基づいた、ゼーベック効果を利用した熱発電素子が開発されている。n型とp型の半導体ブロックを交互に組み合わせて、大きな電位差を生成するものだが、起電力発生が温度差と同じ方向にあるので、アセンブリが立体的な構造にならざるを得ず、高出力化に向けた高集積化が難しいという問題がある。
一方、温度差だけでなく外部磁場を負荷することにより、温度差に対して直角方向に起電力を発生するネルンスト効果が知られている。特に、材料自身に自発的な磁場を持つ強磁性体を用いることにより、外部から磁場をかけることなく電位差を生じる「異常ネルンスト効果(ANE)」が発生することが明らかになり、活発に研究が進められてきた。ただし強磁性体ゆえに強い磁場がデバイス外に漏えいする問題があり、高集積化が難しいこと、さらに、大きな磁場に起因して電荷キャリアの移動度が低いことも大きな課題だ。
ANEは、強い内部磁場を持つ強磁性体でのみ現われ、互いに打ち消し合う2つの磁性副格子を有する反強磁性体では生じないと考えられてきた。ところが、磁気スピンの向きが同一直線上でなく、スピン軌道相互作用が大きく、磁性副格子が必ずしも完全には打ち消されない反強磁性体では、ANEを発生することが分かってきた。2017年には、反強磁性体Mn3Sn合金においてANEを発生することが、東大の研究チームによって報告されている。
MPI CPfSを中心とする研究チームは、反強磁性体YbMnBi2におけるANEの研究を実施した結果、従来の強磁性体と同等の、反強磁性体としては最高記録の6μV/Kに達する大きなANEを確認した。電荷キャリアの移動度も高く、強磁性体における3~5A/mKを上回る10 A/mKの導電率を示し、総合的な熱電性能指数ZTも強磁性体よりも1桁高いことも分かった。
「反強磁性体によるANEは、漏えい磁界による問題もなく、温度差に対して直角方向に起電力を発生できるので平面集積化が可能だ。実用化に向けては未だ多くの課題があるが、廃熱を利用した熱発電に新しい道筋を切りひらくことができた」と、研究チームは期待する。
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