岸田文雄首相が10日、フジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」に出演した。首相就任後、テレビに生出演するのは初めて。
この中で、8日の所信表明演説で「改革」という言葉を一度も使わなかったことについて問われた首相は、「『改革』という言葉には市場原理主義、弱肉強食など何か冷たいイメージがついていると感じている。私の所信表明演説には、(「改革」の語はなくても)冷たい改革ではなく、血の通った改革をしっかりやろうということを盛り込んだつもりだ」と強調した。
去年10月に所信表明演説を行った菅義偉前首相は「改革」を16回使った。「分配」の語について、菅氏は一度も使わず、岸田氏は今回12回使った。
一方、岸田首相は、株式譲渡益や配当益に一律20%の税率を課す金融所得課税の見直しについて、「当面触ることは考えていない」と述べた。それよりも賃金の引き上げなどの施策を優先させる考えを示した。
首相は、自民党総裁選で「分配」の財源として金融所得課税の強化を検討する意向を示していた。しかし、今月末に衆院選を控える中、投資家心理を冷え込ませ、株価下落の一因となっているとの指摘があった。首相は「まず成長だ。(金融所得課税の強化を)すぐやるのではないかと誤解が広がっているが、しっかり解消しないと関係者に余計な不安を与える」と釈明した。
以下、番組での主なやりとり。
松山俊行キャスター(フジテレビ政治部長・解説委員):
(岸田首相は)経済政策で「分配と成長の好循環」を主張している。
梅津弥英子キャスター(フジテレビアナウンサー):
その「分配」という言葉を岸田総理は所信表明演説で12回使った。菅前総理の所信表明演説では一度も使われなかった。逆に、菅前総理が16回用いた「改革」は、岸田総理は一度も使わなかった。
松山キャスター:
改革に後ろ向きなのではないかとしてマーケットが冷え込んだという見方もあるようだが。
岸田文雄首相:
改革という言葉には最近、市場原理主義とか、弱肉強食とか、何か冷たいイメージがついていると感じている。所信表明演説では、例えば、財政の単年度主義からの脱却、デジタル(化)を思いっきりやる、成長、改革にしっかり取り組むことを盛り込んでいると自負している。冷たい改革ではなく、血の通った改革をしっかりやろうということを盛り込んだつもりだ。バイオ、量子、宇宙、デジタルなど新しい分野での成長をしっかり前進させていきたい。
橋下徹氏(元大阪市長、弁護士、番組レギュラーコメンテーター):
所信表明演説では、新しい分野への投資、金の話は出てくるが、人材の流動性、民間企業の活性化、市場に合わなくなった民間企業には別の方に移っていってもらうことなどが見えなかった。新陳代謝、民間企業の活性化を岸田政権でも目指していくのか。
岸田首相:
労働力の流動性のことを言っていると思うが、その議論の前にやることがたくさんあるのではないか。そのことを成長と分配のバランスの中で申し上げたつもりだ。民間も含めて多くの国民の所得、賃金を引き上げていく、そして、同一労働同一賃金、正規・非正規、男女の賃金格差をできるだけ埋めていく。労働市場でのマッチング、リカレント教育、職業教育などをしっかり整備する。(雇用の流動性の議論の前に)やるべきことはまだたくさんある。
梅津キャスター:
例えば、年間の総所得が1,500万円の人と1億5,000万円の人では、総所得が10倍違うのに所得税の負担率は同じ20%になるケースがあり得る。総所得が多い人ほど、給与所得に比べて株式などの金融所得の割合が多い傾向にある上、金融所得課税が一律20%になっているためだ。所得税の負担率は総所得1億円を境に下がるため、これを「1億円の壁」と言っている。一部の金持ち優遇だと問題視されている。
松山キャスター:
岸田首相は「1億円の壁」を打破するために、見直す考えを示している。金融所得課税を一律20%から引き上げるのか、総所得が1億円を超える人を対象に累進的に税率を上げる税制にするのか、どのような考えか。
岸田首相:
私が申し上げているのは、成長と分配の好循環だ。まず成長なくして分配はないということ。まず成長。そして成長の果実を分配するためのさまざまな選択肢の1つとして金融所得課税の問題も挙げたわけだが、金融所得課税(見直し)を考える前にやることはいっぱいある。例えば、民間企業における収益について、株主だけではなく、従業員の給料を引き上げることを考えなければいけない。従来、従業員の所得に対して優遇税制はあったが、総枠に対する優遇税制で、ひとりひとりの賃金を引き上げるところに着目していなかった。ひとりひとりの賃金の引き上げに着目する。(法人税)控除の額も15%程度で、日本全国で1,000億単位ぐらいの減税(額)でしかない。この辺思い切って数字を積み上げ、民間の所得を引き上げていく。大企業と中小企業の分配のありようについても、下請けいじめの実態にしっかり着目し、考えていく。看護、介護、保育といった国が主導して決められる賃金についても引き上げていく。中間層の負担、教育費や住宅費に対してしっかりと支援していく。こうしたことをやっていくことが大事だ。選択肢の1つとして金融所得課税(見直し)について申し上げたが、今言ったことをしっかりやっていくことが先だ。当面は金融所得課税について触る事は考えていない。まずやるべきことをやってから考えていかないとおかしなことになってしまう。
橋下氏:
では、金融所得課税はもう触らないということか。
岸田首相:
まずやるべきことがたくさんある。今言ったことだけでも、これはかなりの大作業だ。これをまずやらずして、総裁選挙の時に挙げた1つの選択肢ばっかり注目されて、すぐ(課税強化を)やるんじゃないかという誤解が広がっている。これはしっかり解消しないと関係者に余計な不安を与えてしまう。やるべきことがたくさんある。それ自体ものすごく大きな取り組みだ。それをしっかりやった上でいろいろなことを考えていく。これが順番だ。