近年の研究で、ティラノサウルスは実は鈍足だったことが分かってきています。
「じゃあ、恐竜は大して足が速くないんだ」というと、もちろんそんなことはありません。
ガタイの良すぎるティラノサウルスは、足への負担が大きかったため、速く走れなかっただけで、恐竜には様々なサイズがいます。
そしてこのほど、ラ・リオハ大学(University of La Rioja・スペイン)の最新研究で、市街地を走る自動車と同等のスピードを誇る恐竜の存在が確認されました。
これは、新たに見つかった2頭の恐竜の足跡から算出された結果で、時速27.7マイル(約44.6キロ)に達したとのことです。
研究は、12月9日付けで学術誌『Scientific Reports』に掲載されています。
目次
- 足跡から最高レベルの「俊足」と判明
足跡から最高レベルの「俊足」と判明
2頭の恐竜の足跡は、スペイン北東部ログローニョのラ・リオハ州で発見されました。
湖底の泥の上を走った際に残されたものであり、年代は白亜紀(1億4500万年前から6600万年前)の初期に当たります。
足跡の持ち主は、ティラノサウルスやヴェロキラプトルを代表とする獣脚類に属しますが、正確な種までは特定できていません。
ただ、足跡の近似性から、2頭は同じグループに分類される、非鳥類型の恐竜であったことが分かっています。
ティラノサウルスやヴェロキラプトルよりずっと前の時代なので、また別の肉食恐竜でしょう。
足跡のうち、「La Torre 6A-14」と名付けられたセットには、長さ約12.9インチ(32.8センチ)、幅約11.9インチ(30.2センチ)の3本指の足跡が5つ確認されました。
もう1頭のセットは「La Torre 6B-1」と命名され、長さ11.4インチ(28.9センチ)、幅10.6インチ(26.9センチ)と、やや小さめの3本指の足跡が7つ見つかっています。
これらの足跡の大きさから、2頭の恐竜のサイズは、腰の高さが約1.1~1.4メートルで、体高が約2メートル、全長(鼻先〜尻尾の先端まで)が約4~5メートルと推定されました。
走行スピードの算出について、研究主任のパブロ・ナヴァロ=ロルベス(Pablo Navarro-Lorbés)氏は、こう説明します。
「古生物学者は一般に、絶滅した恐竜の走行速度を算出するためにいくつかの方法を用います。
「一つは、実際の骨や四肢の比率に基づいて生体力学モデルを構築し、そこから走行スピードを導き出す方法で、もう一つは、残された足跡から速度を推定する方法です」
今回は、後者の足跡の情報と、そこから判明している恐竜の腰の高さや歩幅を組み合わせて、計算しました。
「これにより、一歩一歩の速度を計算するだけでなく、加速や減速などの速度変化も検出できる」とロルベス氏は言います。
計算の結果、6A-14の最高速度は時速37キロ強に、6B-1の最高速度は時速約45キロに達することが分かりました。
また、前者は、安定したスピードで走っている最中の足跡で、後者は、すばやく速度を上げている最中の足跡と推定されています。
ロルベス氏は、この結果について、「獣脚類の足跡としては、これまでに計算された中で最高レベルの速度である」としています。
ちなみに、人間の瞬間最高速度は、2009年にウサイン・ボルトが達成した時速44.3キロです。
ボルトなら、これらの恐竜と並走できるかもしれません。
ロルベス氏は、最後にこう述べています。
「恐竜の走行スピードを示す足跡が見つかるのは、非常に稀なことです。
そのため、今回発見された一連の足跡は、専門家がこれまで恐竜の骨から算出していた速度を裏付けるまたとない機会となりました。
高速で走る獣脚類の足跡は、化石記録にほとんどありません。
これらの足跡を研究し、異なるアプローチで行われた先行研究の結果を裏付けられたのは、私たちにとって大きなニュースです」
参考文献
Meat-eating dinosaurs were terrifyingly fast, footprints reveal
https://www.livescience.com/fossil-tracks-speedy-dinosaurs
Footprints show some two-legged dinosaurs were agile
https://phys.org/news/2021-12-footprints-two-legged-dinosaurs-agile.html
元論文
Fast-running theropods tracks from the Early Cretaceous of La Rioja, Spain
https://www.nature.com/articles/s41598-021-02557-9