体を覆う硬い針のような毛が特徴的な“ヤマアラシ”。そのヤマアラシの赤ちゃんが抱っこされている様子が、Twitterに投稿され話題になっている。
それがこちら。
「抱っこされるヤマアラシの赤ちゃんがかわいすぎるので見て」とのコメントとともに、Twitterユーザーのるいずさん(@Louise_yome)が投稿したのは、飼育員に両手で持ち上げられているヤマアラシの赤ちゃん。7月31日に東武動物公園(埼玉県)で撮影したのだという。
両手両足をまっすぐに伸ばし、宙に抱え上げられているその姿は、まるで小さい子どもを「高い高い」をしてあやしているかのよう。抱っこされているヤマアラシの赤ちゃんも、表情がにっこり笑っているようにも見える。
このかわいらしい姿を見たTwitterユーザーからは「きゃわわ」「笑ってる〜」「ほんと可愛い」といったコメントがされ、1万4000以上のいいねが付く反響がある(8月10日時点)。
確かにとてもかわいらしいヤマアラシの赤ちゃんだが、ヤマアラシを抱える飼育員の手にも注目してもらいたい。鋭い針のような毛で知られるヤマアラシを、素手で触っているのだ。
お尻や足の後ろに頑丈そうな長い毛が見えることから、ヤマアラシの特徴的な毛が生えていないわけではない。そして、手袋もなしに素手で抱えているのにもかかわらず、痛さを我慢しているようにも見えない。
もしかしたら子どものヤマアラシの毛は、まだ硬くないということなのだろうか? そもそも生まれた時のヤマアラシは、どんな状態なのだろうか?
気になるヤマアラシの生態を、東武動物公園の飼育員・谷仲由妃さんに聞いてみた。
赤ちゃんヤマアラシでも毛は硬い。痛いです
ーーヤマアラシの生態を教えて。
種名:アフリカタテガミヤマアラシ(学名:Hystrix cristata)。
分類:ネズミ目ヤマアラシ科。分布:アフリカ中部~北部(砂漠地帯を除く)。
食性はほぼ完全な草食性のため、とても発達した盲腸を持ちます。前足はエサなど、物を上手に持つ事が出来ます。
針を逆立てた時、針同士は重なり合わず、敵に対してかなり攻撃的に体当たりをします。6~8頭程の家族単位の群れで暮らし、ネズミのように生涯歯が伸び続けます。
ーー赤ちゃんヤマアラシの毛は、硬くないの?
赤ちゃんヤマアラシでも毛は硬いです。痛いです。しかし、大人ヤマアラシと同様に、刺さる毛(針)は尾の周辺の太く短い針で、背中中央辺りの長い毛はそこまで硬くはなく刺さることはありません。
また、写真でもわかる通りお腹の毛は柔らかく刺さることはないので、抱える時はお腹と背中周辺を持っています。感触は高級なタワシ?です。
ーーヤマアラシは産まれた時から毛が生えているの?
産まれた瞬間は軟かく、数時間後には硬くなってくるそうです。人間の髪の毛と同様なので、産まれて数日は、針は短いですが、どんどん伸びてきます。
上半身は高級タワシ。背中周辺はプラスチックのストロー
ーーでは、ヤマアラシの毛は成長と共にどのように変化をしていくの?
人間の髪の毛と同様のニュアンスで考えて頂ければと思います。体格に合わせて伸び、古い毛から抜け、新しい毛と生え変わります。若いヤマアラシは毛艶がツヤツヤしていますし、老齢個体は毛が薄くなったりします。
ーー大人の毛はどれくらい硬くなるの?
顔周辺から上半身は高級タワシくらい。背中周辺はプラスチックのストローくらい。尾周辺は小枝くらいです(先が鋭く尖っているので本気出したら一斗缶が貫通します)。
ーー飼育している中で、ヤマアラシの毛で危ない目や痛い目にあったことはある?
治療や移動の為、ちょっと無理矢理動いてもらった時に怒られて、長靴に針が刺さったことがありますが、アッサリ貫通して脛にちょっと刺さりました。(割り箸と一緒に入っているつまようじに気づかず、うっかり指にさしてしまったのと同じ感じの刺さり方?)
ーーそういった危険から身を守るためにしていることは?
基本的にヤマアラシと同じ空間に入る時は熊手などの身を守る武器(?)を装備して入ります。長靴に刺さった時は油断して武器を装備していなかった、私の自業自得です。
ヤマアラシ自体、性格はビビりでおとなしく、攻撃性はほとんど無い動物ですので、飼育係がきちんと装備してきちんと対応すれば、ヤマアラシから刺して来ることはまずありません。
なお東武動物公園では、6月26日に新しく3頭のメスの赤ちゃんが生まれ、現在はオス5頭、メス7頭の計12頭のヤマアラシを飼育している。話題になった抱えられている赤ちゃんは、そのうちの1頭のカグヤちゃん。カグヤちゃんは、上手く授乳できなかったからか衰弱してしまったため、現在は人工保育をされているという。
カグヤちゃんについても、詳しく聞いてみた。
6月に生まれた人工保育の赤ちゃんヤマアラシ
ーー現在のカグヤちゃんについて教えて。
名前のカグヤは、奈良県にある「香久山」より由来(当園のヤマアラシは山の名前より由来して命名)。性格は好奇心旺盛で気が強いです。
8月8日時点で、体重:987グラム。体長(鼻の先から尾の先まで):約35センチです。
ーー話題の画像は「笑っているように見える」とのコメントもあるが、本当に笑っている?
画像は確かに笑っている様に見えますが、笑っている・喜んでいるかとなると(?)です。撮影者がとても上手で最高の角度で撮影して下さったのかと…。触ったりされるのはそこまで好きではないので、本心は嫌がっているかもしれません。
しかし、ヤマアラシはこどもに限らずみんなかわいらしい表情をします。特に、ご飯を食べているときは何とも言えないウットリとした表情をします。
ーー現在は人工保育されているカグヤちゃんだが、今後はどうしていく予定?
最終的には家族のもとへ戻ることを目標としています。目安として体重が1000グラムを越えたら、母親のもとに戻し始めようと考えているので、遅くても今月中にはと考えています。
また、あっさり母親や姉妹たちがカグヤを受け入れてくれれば問題はないのですが、そうはいかなかった場合は、カグヤをケージに入れてある状態(安全に隔離した)で母親たちが慣れるまでお見合いを行うことを考えています。(まだ計画段階なので何とも言えませんが…)
ですので家族の元へ戻すために、今現在は特に何も行っていません。群れで暮らしても負けない身体作りを目指して、哺乳・給餌・運動を行っている、って感じでしょうか…?
ヤマアラシの毛は生まれて数時間後には硬くなり、今回話題になった抱えられるカグヤちゃんの様子は、飼育員が危なくない箇所を選んで抱えていることが分かった。
カグヤちゃんの日々の成長は、東武動物公園公式のTwitter「東武動物公園【公式】リュウくん(@tobuzoo7)」で更新している。他にもさまざまな動物の日々の様子を投稿しているので、気になる人はのぞいて見てほしい。
なお現在、東武動物公園では、動物との触れ合い施設・イベント等は人数制限をしており、入場時に検温を実施、入園ゲートには消毒マット、園内各所に消毒液を設置している。また、小学生以上は入園時、3歳以上はアトラクション利用時に、マスクの着用をお願いするなどの新型コロナウイルス対策を実施している。
平日9時30分~18時、土日祝9時30分~19時で開園しているが、状況によっては入場制限をする場合もあるとのことなので注意してほしい。(※季節によって開園時間は異なる)