あなたの家にはまだ「VHSのビデオテープ」が眠っているだろうか?
VHSのビデオデッキは1976年に家庭用国産機が初めて登場し、一般家庭での録画やレンタルで一世を風靡したが、DVDなどが普及した現在、需要はほとんどなくなっていた。
だが今になって、VHSテープを見返したくなることもあるかもしれない。そんなニーズに応えようと、合同会社アットアイデアが、新型VHS再生機を開発すると発表した。
同社は、傷や汚れで正常に使えなくなったCDやBlu-rayなどの光ディスクの研磨やデータを抽出するサービスを行っている京都市の企業。今後5年をめどに、これまでのVHSデッキとは全く違う方式のビデオ再生機を開発する方針を固めた。
新VHSデッキはダビングするための装置
これまでのVHSデッキは、ビデオカセットからテープを引っ張り出して回転する筒状のヘッドに押し当て、再生や録画を行っていた。
一方で、このような仕組みのためテープが伸びてしまうなどのトラブルが起きることもしばしばあった。また保存状態が悪いとテープにカビが生え、ヘッドを傷つけてしまう事もあるというのだ。
そこで、アットアイデアの新しいVHS再生機は「テープを不必要に引っ張らない」「テープをヘッドに押しつけない」「テープにヘッドが直接触れない」状態で使えるようにし、テープが少々痛んでいても再生できるようにする予定だ。
ただし、このVHS再生機は視聴や録画が目的ではないという。映像や音声は出力せず、テープの内容をmicroSDカードやDVD-Rなどのデジタル媒体にダビングするための装置を目指しているとのことだ。現状では商品名や価格は未定で、再生機自体をレンタルする可能性もあるそうだ。
となると、現在でもビデオテープからDVDなどに内容をコピーしてくれる業者がある中、アットアイデアはなぜわざわざ開発するのだろうか?
さらに5年後でも需要はあるのだろうか? アットアイデア代表の村島唯朗さんに聞いてみた。
VHSテープへの問合せが予想より多いことからデッキを開発
――なぜ再生機を開発するの?
好きなテレビ番組を録画して長期間保存するという習慣は、少なくとも先進国では日本だけのもののようです。また、いまでも半年に1回程度の割合で「ビデオテープをPCなしでデジタル化」という商品の広告が弊社にも届いております。そして弊社にも、VHSテープは扱っていないかという問合せが予想より入っております。
以上のことを考え合わせますと、ビデオテープはあるけれどもVHSデッキの用意が無い、というお客様が相当数いらっしゃるものと考えております。
また再生機を開発することについては、VHSの構造が関係しております。VHSはテープをカセットからつまみ出し、両端をつまんだままヘッドに押し当てるという構造になっております。これでは、ジャムってしまった(傷ついた)テープは正常にヘッドに押し当てても画像音声が乱れます。
テープのダビングやメディア複製事業を考えなかったことの大きな理由はこれです。
開発するデッキでは、即時ダビングではなく、まずはメモリ上に画像・音声データを読み込んで解析し、本体内蔵の小型モニタで確認した後で指定のメディアに記録するという仕組みを考えております。
これにより、トラブルが起きたテープの再生率は劇的に上がると考えております。テープを延ばしてヘッドにあてがうのではなく、特殊な方式で押さえて平らに近づけ、テープが全て読めたら解析を行なって画像データを正常に近づける予定で、現行のVHSデッキとは全く違います。
――開発目標を今後5年としている理由は?
当社では、クラウドファンディングも利用しながら今後2年で経営を安定化させ、その後3年を目処に完成品を作るということを目標としております。
5年後でも一定の需要は見込める
――今から5年後もまだ需要はあると考えている?
正直なところ、そこが一番の悩みです。ただ、VHSテープそのものは少なくなっていっても、他のカセット型磁気テープに応用することは難しくない技術ですので、業務用テープなども含めれば一定の需要は見込めると考えております。
――テープとヘッドが直接触れずに再生することは可能なの?
実際のところは試作機を作って動作確認をしてみなければわからないところではありますが私の構想では十分可能でございます。
――開発は難しくない?御社で転用する技術は?
私はかつて記録媒体に大きく関わったのですが、その中にはテープ媒体もございました。その経験も活かしながら、少しずつ技術開発も行なっていきたいと考えております。
――光ディスク研磨の仕事はどんな内容が多い?
必ずしも正確ではないかも知れませんが、多い方から順位をつけますと、1.セルDVD、2.セルBD、3.テレビ録画BD、4.テレビ録画DVD、5.思い出のDVD(結婚式、運動会など)これらで90%程度は占めております。
――VHSテープのダビング依頼はどんな内容が多い?
VHSテープで多いのは、古いテレビ番組の録画が主で、他に結婚式、運動会、新生児の映像など思い出の記録がございます。
テレビ番組の録画は著作権などを配慮して残念ながらお断りしております。思い出の記録は内容を確認した上で、問題なければDVDにダビングしておりました。しかし業務用のVHS・HDD・DVDが寿命を迎えたため、現在のところは承っておりません。
――最後に、手持ちのVHSテープを長く保存するためにはどうすればいい?
高温多湿を避け防湿をして密閉状態で保管する、巻き戻した状態で保存する、寝かさず立てて保存する、磁気が強いもののそばでは保存しない、最低限1年に1度は再生・早送り・巻き戻しを行なうといったところです。
中には「真空パックする」という方もいらっしゃるようです。
全く新しいVHS再生機が今すぐ登場するような話ではないが、村島代表が話すようにたしかに気になる人もいることだろう。
ビデオテープの映像をもっときれいに残したい人や、伸びかけている大切なビデオテープがある人は、あと5年大切に保管してみてはいかがだろう。