ホホジロザメは恐ろしい海の捕食者のイメージがあります。
しかし、そんなサメの周りには多くの小さな魚たちが集まって来ます。
これまで、それはサメと共生関係にある魚たちと言われていましたが、実はサメの餌になるマアジなどの魚たちも擦り寄っていることが確認されたのです。
マイアミ大学(UM)の研究チームは、サメの保護・研究を行う中で捕食対象の魚たちがサメに擦り寄り体を擦り付ける行動を数多く確認しました。
この行動の理由は正確には判明していませんが、研究者たちはサメのヤスリのような肌を魚たちが自分の肌の掃除に利用していると推測しています。
研究の詳細は、10月28日付で科学雑誌『Ecology, The Scientific Naturalist』オンライン版に掲載されています。
目次
- サメに擦り寄る魚たち
- サメは魚たちにとって海のブラシだった
サメに擦り寄る魚たち
獰猛な海の捕食者であるサメは、他の魚たちの嫌われ者と考えがちですが、実はよく周りを多くの魚たちに囲まれています。
そうした映像では、たいてい「この魚はサメについた寄生虫などを取り除く共生関係の魚なんです」と説明されています。
しかし、研究者たちは、保護・研究を目的とした、サメの監視活動の中で、本来捕食対象となるマアジなどの魚たちが、自らホホジロザメなどに近づき、体を擦り付けている事実を確認しました。
こうした例は、これまでにも観察されていたものでしたが、これが魚たちにとってどの程度一般的な行動なのか、あまり良く知られていませんでした。
そこで今回、マイアミ大学の研究チームは、魚たちのこの奇妙な行動の実態を調査することにしたのです。
そしてチームは、世界13カ所で記録されたドローン映像や、水中撮影、ダイバーの目撃証言などを調査し、同様の事例が47件あることを発見しました。
魚たちのサメと擦れ合う行動は、8秒から5分以上とさまざまで、ホホジロザメ以外にもジンベエザメなど8種類のサメで確認されました。
擦り寄る魚の種類もさまざまなで、ジンベエザメには別のクロトガリサメが体を擦っているのも記録されています。
またその数は、一度に1匹から100匹以上と、これもまちまちでした。
研究者たちの想像以上に、魚たちがサメに擦り寄る行動は、海で一般的に広く行われているものだったのです。
しかし、魚たちはなぜ危険な捕食者にたいして、こんな行動を取るのでしょうか?
サメは魚たちにとって海のブラシだった
よく知られているように、サメの肌というのはまるでヤスリのようになっています。
江戸時代には宮大工が実際ヤスリ代わりに鮫皮を使っていたとされ、日本では鮫皮が刀剣の柄の滑り止めから、おろし器まで幅広く利用されてきました。
映画ジョーズの中でも、泳いでいるサメと接触した女性の肌が血まみれに裂けるシーンを記憶している人もいるでしょう。
これはサメの皮膚が皮膚歯状突起と呼ばれる小さな歯のような鱗で覆われているためです。
獰猛な捕食者な上に、肌がおろし金とか、どんだけ他者を拒絶する恐ろしい生き物なんだ、と感じた人も多いかもしれません。
しかし、これが海の中では人気者の証となっていた可能性があるようです。
魚たちが危険なサメをわざわざ探し出して近づき、体を擦り付けるのは、自身の体についた寄生虫や皮膚刺激物を除去するためである可能性が高いのです。
魚が、砂や岩など無生物に体を擦り付ける行動はよく知られています。
しかし、わざわざ捕食者であるサメを使うというのはかなり変わった行動です。
研究者たちは「正確なところはわかっていない」と前置きした上で、「これが魚の健康と体力を向上させるために重要な役割を果たしているのではないか」と述べています。
陸生の動物で、わざわざ捕食者を探して近づき、体を擦り付けて皮膚の健康を維持するという行動は、確認されたことがありません。
これは、海の動物にだけ見られる自然界で唯一のシナリオのようです。
危険な捕食者でありながら、サメはなにもない海のど真ん中では、魚たちの皮膚の健康を保つ海のブラシとなっていたようです。
参考文献
Study finds fish rubbing up against their predators — sharks
https://news.miami.edu/rsmas/stories/2021/11/study-finds-fish-rubbing-up-against-their-predators-sharks.html
元論文
Sharks as exfoliators: widespread chafing between marine organisms suggests an unexplored ecological role
https://esajournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/ecy.3570