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<日本は長年にわたって物価が上昇せず、インフレからは程遠い景況感を示している。こんなときに注意したいのは、デフレではなくディスインフレ。ディスインフレーションとは何か、株価にどんな影響があるのか> ディスインフレーションとは? 物価とお金の価値との関係を表す言葉として、「インフレーション(インフレ)」「デフレーション(デフレ)」という単語を耳にすることは多いだろう。 インフレ―ションとは、物価が継続的に上昇し、お金の価値が下がり続ける現象のことで、一方のデフレーションは、物価が継続的に下落し、お金の価値が上がり続ける現象を指す。 そして、この両者のどちらでもない状態が「ディスインフレーション」と呼ばれる。 つまり、ディスインフレーションとは、物価上昇率が低下し、インフレーションの進行は抑えられているが、デフレーションにはなっていない状態だ。例えば、物価上昇率が5%から1%まで低下するなど、プラスを維持しながらも低水準な状態が続くとディスインフレーションと判断される。 社会の消費意欲は十分高い状況ではあるものの、さまざまな要因により物価上昇のペースにブレーキがかかると、ディスインフレーションが引き起こされるというわけだ。 ■ディスインフレーションになる流れ ディスインフレーションはどのようにして起こるのだろうか。一般的に多いのは次のような流れだ。 1)景気が良くなり、社会の消費意欲が高まることでインフレーションが進行する 2)中央銀行が過度な物価上昇を抑えるために金融引き締め政策を実施する 3)インフレーションのペースが鈍化し、ディスインフレーションに突入する 基本的に、モノの価値は需要と供給のバランスで決まる。好景気になるとモノに対する需要が供給よりも強くなり、物価が上昇する。すると、中央銀行は過度な物価上昇による社会の混乱を防ぐべく、政策金利の引き上げなどの金融引き締め政策を実施。物価上昇率を抑えようとする。 こうして物価上昇が緩やかになれば、デフレーションにはならないまでも、ディスインフレーションだと判断されるのだ。 ディスインフレーションが株価に与える影響 ディスインフレーションになると株価にはどのような影響があるのだろうか。あくまでケースバイケースではあるが、マーケットには相反する2つの考え方が存在する。 ■金融引き締めで株価は下落する ひとつは、「ディスインフレーションにより株価が下落する」という考え方だ。過去の事例を見ても、中央銀行が政策金利を引き上げると、株価はその後に大きく下落する傾向にある。 ディスインフレーションは多くの場合、金融引き締め政策によって引き起こされる。金融引き締め政策とは、具体的には中央銀行が政策金利を引き上げたりすることで通貨の流通量を減らし、消費を抑制しようとすることだ。 ===== しかし、ディスインフレーションでは物価上昇率はあくまでプラスに維持されたままであり、低水準に落ち着いた状況を示すため、中央銀行が物価動向を過熱的だと判断すれば、さらなる政策金利の引き上げが予想される。 ■株価上昇のきっかけにもなる その反面、物価上昇率がマイナスになっていないことに目を向ければ、ディスインフレーションをポジティブに捉えることもできる。 例えば、複数の先進国でデフレーションが進んでいるようなケースだ。この場合、低水準ながらも緩やかな物価の上昇を維持していることは根強い需要と経済の底堅さの裏付けであり、株価が上昇するきっかけにもなる。 現に、2020年以降のアメリカの物価上昇率は前年同月比1%前後を推移することが多く、ディスインフレーションと判断するに十分な状況だった。しかし、アメリカ株は2021年から過去最高値を更新するなど、かなり好調に推移している。 つまり、2021年のアメリカ市場は、ディスインフレーションと判断できる物価水準が株価には必ずしもネガティブに作用しない、または決定要因とならないことの証明になっていると見ることもできるのだ。 株式市場には鳥の目が必須 言うまでもなく、株価の変動にはさまざまな要因が複合的に絡み合っており、ディスインフレーションのみで語られるものではない。しかし、その「複合的」のなかには、物価の動向やそれを受けた中央銀行の金融政策による影響も当然含まれることになる。 GDPなど景況感を示す指標、雇用統計など雇用動向を示す指標、金利動向、為替動向……さらには投資家たちが抱く将来への展望など、株式市場を分析する際に考慮するべき要素は数多くある。 それらすべてを正確に把握できなくとも、普段から相場を俯瞰して見る癖をつけ、総合的な判断を下すよう心がけることが大切だ。そうした姿勢は、ひとつひとつの指標を適切に解釈することにも大いに力を発揮するだろう。 [執筆者] 石津大希(いしづ・だいき) 外資系投資顧問会社で株式アナリストとして勤務したのち独立。ファンダメンタルズ分析の経験を生かして、客観的データや事実に基づく内容を積極的に発信。市場で注目度の高いトピックを取り上げ、深く、そして、わかりやすく説明することを心がける。【かぶまどアワード2020】 ※当記事は「株の窓口」の提供記事です