林の中で、地面から生えるキレイに焼けた“ホットケーキ”が発見され、話題となっている。
自然散策が趣味の某むっしーさん(@RTBGz01mkTNLBo0)が「なんかホットケーキ生えてて茸」とのコメントと共に投稿したのが、落ち葉や枯れ枝の中でひと際、存在感を放つ“ホットケーキ”の画像だ。
【画像】ホットケーキに見えるきのこ。横から見ると柄もしっかりある
ムラなく均等に焼かれたかのような表面の色合いに、ふっくらと膨らんだ様子は、食べたらフワフワ食感を楽しめそうだ。しかし残念ながら、もちろんホットケーキではなく、実は“きのこ”ではないかというのだ。
投稿にはTwitterでも「綺麗ないい焼き加減」「ふっかふか」「絶対美味しいやつ」といった、キレイな焼き具合への感想コメントが多く寄せられ、中にはホットケーキの他、チーズ蒸しパンや栗饅頭、鈴カステラなどに見えるといった人たちもおり、4万8000のいいねが付く話題となっている(10月13日時点)。
某むっしーさんは10月3日の昼頃に、静岡県浜松市のブナなどが多い広葉樹林の地面から生えていたのを、昆虫採集をしていた際に偶然発見。
直径がテニスボールくらいあり、見た目は柔らかそうに見えたというが、実際には崩れてしまうのを危惧して、撮影のみで触ることはしなかったという。
発見時、某むっしーさんは「わっ、地面からホットケーキ生えてる!」と驚くと共に、昼前で空腹だったこともあり、純粋に美味しそうだと思ったそう。
Twitterの反響に対しては、ホットケーキの他、さまざまな食べ物にも見えるといった様子を「色々な見え方があって面白いなぁ」と、コメントを楽しんでいた。
正式名称なしの未記載種のきのこ?
それにしても、菓子作りのプロがふっくらキレイに焼いたホットケーキのようにしか見えないが、本当にきのこなのだろうか?
イグチ類のきのこを調べている、日本菌学会会員の種山裕一さんに話を聞いてみた。
ーーこのホットケーキのような“きのこ”の正体は?
正式名称はありません。イグチ科ヤマドリタケ属の未記載種であると考えています。
ーーなぜ、そう判断したの?
私は、当該種について30を超える標本を収集し観察し、肉眼的、顕微鏡的特徴のみならず、DNAの塩基配列と系統的位置を把握しています。「ホットケーキの様なきのこ」の写真には、肉眼的特徴のいくつかがはっきりと示されています。具体的には以下の点です。
1)かさの色および質感。
2)管孔(シイタケなどのヒダに相当する部分)の色および、管孔がかさから下方にはみ出して見えている点。
3)柄の色および柄の表面に存在する網目の様子。
以上の肉眼的特徴のみでは不十分であると考えられたため、「ホットケーキの様なきのこ」の写真を投稿された方に、発生地の情報(地名、標高、現場の植生)について質問し回答を得ることができました。その結果、私がこれまでに調べてきた「未記載種」と全く同様の環境に発生していたことがわかり、「ホットケーキの様なきのこ」は、この「未記載種」と同一のものであると確信するに至りました。
ーーでは、その「未記載種」の把握している生息域は?
長野県、岐阜県、宮城県、福島県、青森県で見つかっています。最初に発見したのは2008年です。
全国にサンプリングに協力していただける知人がおり、宮城県、福島県の標本はそういった方からの提供です。青森県の標本は日本菌学会の観察会で採集されました。長野県、岐阜県の標本は自身で採集しました。
ーーどれくらいの大きさに育つの?
かさの直径10センチ程度と推測されます。収集した標本にその大きさのものがありました。
新たな産地の発見につながる良い情報
ーー触り心地はどんな感じ?
成熟した子実体は、見た目の通り軟質です。
ーーなぜホットケーキに似ているの?
この種は管孔が長くなる傾向があるためです。なぜそういった特徴を持つのかは分かりません。
ーー危険はない?見つけた場合はどうするのが適切?
むやみに食べない限り、全く危険ではありません(名前が付けられていない未知のきのこを食べるのは危険です)。見つけた場合そのまま天寿を全うさせてあげてください。
種山さんは、今回のきのこの投稿は「新たな産地の発見につながる良い情報であると思います」と話している。
なお、このきのこの解説を、種山さんは自身のTwitterに投稿している。こちらでは他のきのこと形状や特徴を比較し、より詳しく説明されているので気になる人はのぞいて見てほしい。
このイグチについて簡単に解説します。 まず、ヤマドリタケモドキではありません。狭い意味ではそれの近縁種ともいえません。このイグチはムラサキヤマドリタケの近縁種で、未記載種である可能性が非常に高いです。つまり「名無しの権兵衛」です。以下、このイグチを「本菌」とします。
正式名称がないきのこということだが、自然が偶然作り上げたおいしそうな一品。例え空腹だったとしても、見て楽しむだけにして、むやみに食べることはしないように注意してほしい。