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<天然痘の根絶よりも難しいが決して不可能ではない、と研究チームは分析している> 長期化する新型コロナだが、根絶を諦めるのはまだ早いようだ。ニュージーランドの研究チームがこのたび、コロナ根絶は難しい試みではあるが不可能ではないとの試算結果を発表した。 研究チームは根絶の可能性を評価するため、17の指標を評価項目として取り上げ、それぞれを3点満点で評価した。指標は、ワクチンの入手可能性や長期的な免疫の実現性、公衆衛生対策による影響などの疫学的要因から、政治上のメッセージと国民の関心など、社会的要因までを含む。 結果、新型コロナウイルス根絶の可能性を示す平均スコアは1.6となり、ポリオ(急性灰白髄炎、あるいは小児麻痺とも呼ばれる)よりも撲滅の可能性がやや高いことが判明した。これを受けて研究チームは、新型コロナの根絶は不可能ではないとの見解を示している。 本研究はオタゴ大学ウェリントン校のニック・ウィルソン医学博士らのチームが実施し、結果が医学誌『BMJグローバル・ジャーナル』に掲載された。研究は現時点で予備研究の段階にあり、今後査読を経て正式な論文となる。 天然痘より難しく、ポリオよりやや容易 WHOが1980年に根絶を宣言した天然痘は根絶可能性のスコアが2.7となっていることから、スコア1.6の新型コロナは天然痘よりも格段に根絶が難しいと研究チームは分析している。 一方、ポリオのスコアは1.5となっているため、新型コロナの根絶はポリオと同程度あるいはやや可能性が高いという試算結果となった。ポリオは根絶まであと一歩というところまで来ており、厚労省検疫所は現在世界が「ポリオを撲滅させる道程の99%」の地点にあるとしている。 野生型ポリオには3つの型があるが、2型はすでに撲滅し、3型も過去9年ほど野生型による患者は確認されていない。1型株の感染例は近年でも各国で数例ほど報告されているが、継続的に感染が起きている感染常在国はアフガニスタンとパキスタンのみとなった。新型コロナウイルスの撲滅がこれよりも実現しやすいという試算結果が真実ならば、将来的に地上から新型コロナが消える可能性は十分に残されていることになる。 アジア太平洋の成功例に希望 ポリオの例に限らず新型コロナについても、いくつかの国と地域ではすでに封じ込めに成功している。時期によって多少のぶり返しはあるものの、台湾、ニュージーランド、シンガポールなどは優れた対応が功を奏した代表例だ。研究チームはこうした実例の存在も、試算上だけではなく現実にコロナの撲滅が可能であることを示すものだとしている。 オタゴ大学が発表したニュースリリースのなかでウィルソン教授は、「国家単位での新型コロナウイルスの排除は、アジア環太平洋地域のさまざまな場所で、これまで長期に渡って達成・維持されてきました。これは世界規模での根絶が可能だということを示唆するものです」と述べている。 ===== この状態をより多くの国と地域で実現するためには、入国者のコントロールなどの施策に加え、やはりワクチンの普及による集団免疫の獲得が鍵となる。カリフォルニア大学ロサンゼルス校で公衆衛生を研究するロバート・キム=ファーレイ医学教授は、米医学情報誌の『メディカル・ニュース・トゥデイ』に対し、「真の根絶に向けた唯一にして最大の障害は、コミュニティ内での新型コロナ感染を終息させるという意味において、完全な集団免疫を達成するために極めて高いワクチン接種率を達成・維持する必要がある点でしょう」と述べている。 集団免疫なくとも 一方、今回の研究を主導したウィルソン博士は、たとえ集団免疫の達成が難しくとも新型コロナの撲滅は可能だと考えている。博士は天然痘の根絶プログラムを例示し、感染者を中心とした一定距離内に住む住民に絞ってワクチン接種を行う「リング・ワクチネーション」の方式でウイルスの制圧に成功したと指摘する。国レベルでの集団免疫なくして撲滅に成功した実例だ。供給量が限られる途上国などを中心に、新型コロナにおいても有効な手法となる可能性はある。 ただし、ここにきて感染力の強いデルタ株が出現し、集団免疫の獲得は幻想だとの捉え方も出ている。英ガーディアン紙によると、オックスフォード・ワクチン・グループのトップはデルタ株により、集団免疫の達成が「絶対に有り得ない」状態になったとコメントした。ワクチンの接種を完全に終えた場合、感染者との接触後に陽性と判定される率は未接種者よりも低下するが、それでも一定の割合で突破感染が発生してしまうためだ。 今後も変異株とのいたちごっこになるとの見方があるが、ウィルソン博士としては、将来的にワクチンで制圧可能だと考えている。ウイルスの変異能力はいずれかの時点で限界に達し、その時点で開発された新規のワクチンによって終止符を打てるはずだという。根絶には長年を要する可能性もあるが、粘り強く公衆衛生のしくみを改善してゆくことが他の疫病対策も含めたメリットにつながる、と博士は訴えている。