もっと詳しく

Blue Origin(ブルーオリジン)とDynetics(ダイネティクス)は、NASAがアルテミス計画で使用する有人着陸システムの建造をSpaceXにのみ委託するという決定を下したことに対し、いまだ強く抗議を続けている。この決定に対する抗議は 先日却下されたが、Blue Originが公然と疑問を呈した米国政府説明責任局の主張は誰でも読むことができる。ここでは選定からはずれた企業の訴えから、項目ごとの主要な主張内容を紹介する。

関連記事
NASAがアポロ計画以来となる有人月面着陸システムの開発にSpaceXを指名
米会計検査院が月着陸船開発契約をめぐるBlue Originの抗議を却下
NASAがSpaceX、Blue Origin、Dyneticsの3社を月面着陸船の開発に指名

(2020年は長い年だったので)よく覚えていない人のために説明すると、もともとNASAは、2024年に有人月着陸プロジェクトに向けた月面着陸船の構想・提案を得るため、 上記の3社を選んで早期の資金援助を行っていた。さらに次の段階では、可能であれば2社の案を選んで進めるとしていた。しかし、委託先が決まる時期が来ると、SpaceXのみが契約を獲得した。

DyneticsとBlue Originは、この決定に個別に抗議したが、その理由は共通している。1つ目に、NASAは約束通り2社を選定すべきであり、それをしないことはリスクをともない、反競争的でもあるということ。2つ目に、確保できる予算が少ないことがわかった時点で、選定の条件を調整すべきだったということ。3つ目に、NASAが提案を公正に評価せず、さまざまな点でSpaceXに偏った評価をし、他の2社には不利な評価をしたということだ。

米国会計検査院(GAO)は、これらの懸念をすべて報告書の中で解消している。 それにより、Blue Originの「NASAの権限は限定されているため、抗議に適切に対処できない」という後に続く異議は、負け惜しみのように聞こえることとなっている。

1社に決定

画像クレジット:SpaceX

2社ではなく1社と契約することについては、白黒はっきりとした答えが出ている。今回の提案依頼では、そもそも資金が十分にあることが前提である旨が何度も明言されていた。NASAは2社と契約を結ぶことを好み、望み、見込んでさえいたかもしれないが「最大2社」または「1社以上」と契約を結ぶということははっきりしていた。実際、もし1社だけが要件を満たしていて、他の2社はそれを満たしていなかったとしたらどうだろう。NASAは不適当な候補者に資金を投入する義務があるだろうか。答えは「ノー」だ。そして、それが多かれ少なかれ実際に起こったことだ。

報告書からの引用

提案依頼の段階で複数社との契約を締結する意図があった場合でも、提案を評価した結果、1社との契約のみを締結すべきと判断された場合、必ずしもそうする必要はないと認識しています。例えば、NASAの意図にかかわらず、契約を締結するうえで利用可能な資金を超えることはできません。

GAOの説明によると、NASAの意思決定プロセスでは技術的アプローチを最も重視し、次に費用、そしてマネジメント(組織、スケジュールなど)を重視したという。各社の提案はこれらの基準ごとに個別に評価され、最終的な結果が比較された。以下に各社への評価の重要項目をまとめた。

画像クレジット:GAO / NASA

再び報告書からの引用

技術的アプローチという要素は、総見積額よりも重要であり、総見積額はマネジメント的アプローチという要素よりも重要です。総合すると、費用的要素よりも非費用的要素の重要度の比重が高いと言えます。

抗議者の主張に反し、仮に比較分析が必要であったとしても、SpaceXの提案は3つの評価基準のそれぞれにおいて最高の評価を受けており、費用も最も低くなっています。

NASAの予算が確定したとき、HLSプログラムへの予算は想定より少なく、NASAは厳しい選択を迫られた。幸い、(最も重要な要素である)技術面で他社と同等かそれ以上で、組織的にも他社よりかなり優れており、費用面においても非常に合理的な提案があった。SpaceXとの契約は明確な選択だった。

そうはいっても、NASAは十分な資金を獲得できなかった。それでもBlue Originは、何とかして成功させるために自分たちが協力をするのは当然だと主張した。同社は、NASAが直接交渉に来ていたら、おそらくSpaceXよりも良い提案をできたかもしれない、とほのめかした(ジェフ・ベゾス氏が後に20億ドル(約2200億円)の値引きを大胆にも提案したことは、同社に多少の余裕があったことを示している)。

関連記事:月着陸船開発を失注したベゾス氏がNASAに約2208億円の「インセンティブ」を打診

しかし、NASAはすでに別の結論を出していたことをGAOが確認している。

NASAは、2021年度の資金不足を埋め合わせるため、提示されている約[削除済み]ドルの目標達成報奨金(または提示されている総額29億4100万ドル(約3240億円)の約[削除済み]パーセント)の支払いを2021年度ではなく、後年に繰り延べするようSpaceXと交渉することは「乗り越えられない」ことではないという結論に達しました。これに対し、SSAの判断では、Blue Origin(59億9500万ドル[約6590億円])とDynetics(90億8200万ドル[約9990億円])が、それぞれの技術的・マネジメント的アプローチを大きく修正することなく、著しく高い提案額を大幅に引き下げることは不可能であるということです。

削除された部分に関わらず、ここでの問題点を理解するのは難しいことではない。SpaceXは、30億ドル(約3300億円)に達した時点ですでに厳しい状態になるであろう財政上の問題に対処するため、数億ドル(数百億円)程度の削減を考えることができ、それを合理的にとらえることさえできた。一方でBlue OriginとDyneticsは、同じように財政上の大きな助けとなるよう、コストを半分以上削減するということは考えられなかった。

当時、NASAの選考グループは次のように説明していた。

SpaceXとの契約締結を考慮すると、残りの利用可能な資金は非常に少ないため、私の意見では、NASAはBlue Originが任務の内容に対して提案した額を、同社との契約締結が可能になる数字まで下げるよう合理的に要求することはできません。

Blue Originは、予算によって選考プロセスが制限される可能性があることを、NASAは事前に告げるべきだったと訴えた。しかしGAOは、連邦予算は秘密にはされていないということを指摘し、さらに同社らが契約締結時まで問題提起を先送りしていたことについても明快に指摘している。このような訴えが真摯に受け止められるためには、時宜を得る必要があるとし、さらにNASAがそれを事前に告げていたとしても、そのことで結果が変わっていたという可能性を示唆するものは何もないとしている。

また、抗議文では提供者を1社のみに絞ることは「反競争的であり、過度にリスクをともなう」と指摘しているが、本当にそうであるかという問題もある。GAOは「これらの重要な政策的問題については、開かれた議論をさらに進める価値があるかもしれない」と認めているが、そもそもNASAには2つ以上のプロジェクトを行う資金がなかったため、こういった訴えは無意味である。有権者として、また宇宙開発に潤沢な予算を投入すべきであると主張する者として、NASAがあと60億ドル(約6600億円)多く予算を得られなかったのは残念だと言えるかもしれない。だからといって、得られた資金を可能な限り最高の目的のために使うというNASAの決定が間違っていたわけではない。

宇宙では叫びは誰にも届かない

画像クレジット:Joe Raedle / Getty Images

Blue OriginとDyneticsは、この選考プロセスがSpaceXに有利に進められ、さまざまな企業の強みと弱点が公平に評価されていないと主張している。しかし、GAOはこのような訴えを甘んじて受け入れる。

1つの例として、Blue Originは提案依頼の際、着陸船が暗闇でも着陸できることは特に求められていなかったと主張している。しかし、まず第1にそれは求められているいうこと、そして第2に宇宙は暗いということだ。その点を考慮した設計でないと、宇宙では苦労することになる。

もう1つの例では、Blue OriginとSpaceXが提案した通信システムはどちらも特定の要件を満たしていないと指摘されたが、Blue Originのシステムについては「重要な弱点」とされ、SpaceXは「弱点」としか指摘されなかった。それこそが優遇措置の証拠であると2社は指摘している。

しかしGAOはそうではないという。「評価の記録をざっと見直しただけでも、それぞれの提案における重要な相違点がはっきりと示されており、NASAが与えた異なる評価結果はその相違点に裏付けられています」ということだ。この例では、Blue Originの通信リンクのうち4つが要求通りに機能せず、5つ目も確実ではない。SpaceXの方でうまく機能しなかったのは2つだけだ。このような大きな差は、抗議している2社それぞれの異議内容の中にも示されている。

実際、報告書には次のように書かれている。

私たちは、契約担当者が提示したBlue OriginまたはSpaceXの提案に関する分析結果に対し、Blue Originが反論していないことに留意します。Blue Originは当初、同社の提案に対する評価に異議を唱えていましたが、NASAの報告書を受け取った後、同意の上、その異議申し立てを撤回しました。

Blue Originが不満に思っているのは、設計上の選択の多くは明示的に要求されていないにもかかわらず、SpaceXがクルーの安全性、健康、快適性を重視した設計をしたことで、追加ポイントを得たということだ。GAOは、NASAがこうしたSpaceXの設計をプラスのポイントとみなすことは専門機関としての裁量権の範囲内であるとし、このような事例において「なぜ裁量権が必要なのかを示す代表的な例」と呼んでいる。それにしても、競合相手の着陸船が 素晴らしすぎるという理由で異議を唱えているのであれば、優先事項を考え直した方がいいかもしれない。

画像クレジット:Blue Origin

報告書は、仮にいくつかの決定に対する異議が認められたとしても、結果は変わらなかっただろうとしている。

SpaceXに対する総合評価は以下の通りである。

  • 技術面:重要な強み3、強み10、弱点6、重要な弱点1
  • マネジメント面:重要な強み2、強み3、弱点2

一方、Blue Originに対する総合評価は以下の通りである。

  • 技術面:強み13、弱点14、重要な弱点2
  • マネジメント面:重要な強み1、強み2、弱点6

重要な要素のほとんどすべてにおいて完敗であると気づかされるのは決して好ましいことではないが、今回は事実それが要因だったようだ。ちなみに、Dyneticsの訴えに関しても同じ運命をたどっているが、もう少し手厳しい扱いを受けている。

NASAの評価に対するDyneticsの異議の一部がわずかに認められる可能性を考慮しても、NASAの評価はほぼ妥当であり、非費用的要素に基づいた同社の相対的な競争力には大きな変化はないだろう、と報告書には記載されています。

異議は却下された。

Blue OriginとDyneticsの欠点について極めて率直に書いたが、両社が負けを認め、NASAが両社を蹴落とそうとしているわけではないことを受け入れていれば、必要のないことだった。両社は公正な評価を受けて敗れた。今は野心的で可能性に満ちた企業でなく、まるで泣き言をいう負け組のようだ。

関連記事
NASAがISSで月基地建設用3Dプリンターの実証機をテスト、微小重力・月の土で必要な強度が出るか確認
微小重力の宇宙での製造業スタートアップVardaがRocket Labと宇宙船3機の購入契約締結
SpaceXが初の買収、衛星ネット接続のSwarm Technologiesを全額出資子会社に

カテゴリー:宇宙
タグ:Blue OriginSpaceXNASADyneticsアメリカアルテミス計画宇宙船米国会計検査院(GAO)

画像クレジット:NASA

原文へ

(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)