核融合技術に1つの区切りが見えてきました。
米国の国立点火施設(NIF)で行われた研究によれば、核融合炉の中枢である燃料部分で、外部からの入力よりも多くのエネルギーを放出することに成功した、とのこと。
これまで各国でさまざまな核融合実験が行われてきましたが、実はエネルギー収支は全過程において常に赤字でした。
つまり核融合を起こすために注ぎ込むエネルギーが、核融合によって生み出されるエネルギーよりも常に大きかったのです。
ですが今回、核融合反応の中枢部分において、ついにエネルギー収支を反転させることに成功しました。
研究内容の詳細は『プラズマ物理学のAPS部門の第63回年次総会』にて発表されました。
目次
- 核融合反応でついに「一部黒字」を達成!
- 中枢部は確かに黒字だが……
核融合反応でついに「一部黒字」を達成!
現在、私たちの使う電力を作り出している原子力発電は、原子核の分裂によって生じる熱で「お湯」を沸かし、蒸気圧でタービンを回して電力を作っています。
一方、現在各国で研究が進む核融合炉は、原子核の融合によって生じる熱で「お湯」を沸かすことを目的としています。
核融合炉は原料が水素というありふれた存在であり、安全性が高く核廃棄物も出ないため、未来のエネルギー源として各国で開発競争が行われています。
そして技術的なブレイクスルーが起こるたびに、たびたびニュースとなって私たちの耳にも届いていました。
しかし実は…これまで各国で行われてきた核融合は「全て赤字」でした。
核融合を起こすには燃料である水素を太陽の中心に匹敵するほどの超高温・超高圧状態にして「融合」させ「ヘリウム」にしなければなりません。
ですが当然ながら超高温・超高圧を達成するには、膨大なエネルギーが必要になります。
これまでさまざまな核融合実験が各国で行われ、実際に核融合反応が観察されてきましたが「燃料(水素)に注いだエネルギー」が「燃料(水素)から発生したエネルギー」よりも圧倒的に多い状態が続いていました。
つまり赤字です。
そのため、あえて意地悪な言い方をすれば「発電など夢のまた夢」だったのです。
しかし今回、国立点火施設(NIF)の研究者たちはついに、中枢反応のエネルギー収支の黒字化に成功します
今回の実験では、燃料に230kJのエネルギーが注がれた一方で、燃料から発生したエネルギーはその6倍近い1.3MJに及んだのです。
燃料に注がれるエネルギーより発生するエネルギーが勝っていれば、余剰のエネルギーを使って「お湯」を沸かし、蒸気タービンをまわして発電することが可能になります。
(※核融合でも結局は最後に、お湯を沸かすことになります)
人類はついに、核融合発電を実現させることができるのでしょうか?
残念ながら、まだ、そうはいかないようです。
中枢部は確かに黒字だが……
今回の研究で、核融合炉の燃料に注がれたエネルギーよりも燃料から発生するエネルギーが多い状態を作り出すことに、世界ではじめて成功しました。
しかし黒字化が成功したのは中枢にある燃料を中心とした反応のみだったのです。
今回の核融合ではまず外部から1.9MJの電力が供給され、その電力がレーザーに変換され、さらにレーザーがX線に変換され、燃料に230kJのエネルギーが注がれて、最終的に燃料からは1.3MJのエネルギーが発生しました。
燃料に直接注いだエネルギーは230kJで燃料から発生したエネルギーが1.3MJ。確かに黒字です。
しかし燃料に230kJを注ぐには外部から1.9MJの電力を必要としていたのです。
つまり燃料まわりの「一部黒字」化は達成したものの、全体としては依然と赤字でした。
原因はエネルギーロスでした。
電力・レーザー・X線とエネルギーの形が変化することで、それぞれの段階でロスが生じていたのです。
そのため1.9MJのエネルギーを用意しながら、燃料には230kJしか届けることができませんでした。
研究者たちは今後、エネルギーロスを減らすことで、最終的なエネルギー収支をプラスにできると考えています。
最も難関であった中枢部の黒字化は達成したので、あとは詰め作業がメインとなるでしょう。
核融合発電の実現まであと一歩ですが、最後の一歩が最も大変なのは、他の全ての仕事と同じなのかもしれません。
参考文献
Ignition First in a Fusion Reaction
https://physics.aps.org/articles/v14/168
Finally, a Fusion Reaction Has Generated More Energy Than Absorbed by The Fuel
https://www.sciencealert.com/for-the-first-time-a-fusion-reaction-has-generated-more-energy-than-absorbed-by-the-fuel
元論文
63rd Annual Meeting of the APS Division of Plasma Physics
https://meetings.aps.org/Meeting/DPP21/Session/AR01.1