注ぎ口から飲み物がポタポタ垂れる「ティーポット効果」の解明に成功

「ティーポット効果」の仕組みを解明
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お茶やコーヒーをポットから注ぐ際、液体が注ぎ口の下側を伝ってポタポタ垂れることがよくあります。

この現象は、科学的に「ティーポット効果(teapot effect)」として知られています。

一見シンプルな現象ですが、その仕組みは、過去数十年の研究にもかかわらず、いまだに解明されていませんでした

しかしその状況は、ウィーン工科大学(TU Wien・オーストリア)により、ついに終止符が打たれました。

彼らの研究によると、ティーポット効果は、慣性力・粘性力・毛細管力の相互作用によって発生しているとのことです。

以下で、詳しく見ていきましょう。

研究は、2021年9月8日付けで学術誌『Journal of Fluid Mechanics』に掲載されています。

目次 「ティーポット効果」の仕組みを完全解明! 「ティーポット効果」の仕組みを完全解明! 注ぎ口から飲み物が垂れてしまう「ティーポット効果」は、19…

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参考文献

Why Teapots Always Drip – Scientists Finally Explain the “Teapot Effect”
https://scitechdaily.com/why-teapots-always-drip-scientists-finally-explain-the-teapot-effect/

元論文

Developed liquid film passing a smoothed and wedge-shaped trailing edge: small-scale analysis and the ‘teapot effect’ at large Reynolds numbers
https://www.cambridge.org/core/journals/journal-of-fluid-mechanics/article/developed-liquid-film-passing-a-smoothed-and-wedgeshaped-trailing-edge-smallscale-analysis-and-the-teapot-effect-at-large-reynolds-numbers/96E58273086ADFBC27DCFF7E04164575

歴史で学ぶ量子力学【改訂版・4(最終章)】「量子力学を理解しているものは、一人もいないと言ってよい」

物理学のさまざまな方程式
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ニュートン以来、長きに渡って物理学が描いてきたのは、因果律に支配された決定論的な宇宙でした。

「現在が正確にわかっていれば、未来を予測できる」という、いわゆるラプラスの悪魔は、こうした古典物理学の常識を究極的に突き詰めていった場合に導かれる結論です。

しかしそれでは、波と粒子という異なる性質を同時に持った光や電子の振る舞いを説明することができません。

そこでボーアはこれまでの物理学の常識を覆し「物事の状態は観測によってはじめて決定される」、つまり「観測するまで物事の状態は決まっていない」というコペンハーゲン解釈を発表するのです。

「未来は決まっていない。あるのは可能性だけだ」というのは、少年漫画のオチみたいで素敵ですが、決定論と因果律を尊ぶ物理学者たちには受け入れがたいものでした。

特にアインシュタインは確率などに頼らず、明確に電子の状態を決定できる隠されたパラメータが存在するはずだと考えました。

例えばAとBの2つの箱があり、片方にだけボールが入っているとします。このときAの箱の中は、蓋を開けようと開けまいと、ボールが「ある」か「ない」かの2つに1つです。

それに対して明言を避けて「Aの中にボールがある確率は50%だ」と言われたら、単にわかんないから確率で誤魔化してるだけじゃないかと言いたくなりますよね。

アインシュタインが指摘したいのはそういうことでした。

彼にとって確率に頼るというのは、わからないから白旗をあげていることに等しかったのです。

そのためアインシュタインは、量子力学が不完全な理論であることを証明しようと、次から次へ思考実験を考案してボーアに戦いを挑みました

現在私たちがよく知る量子力学の解説の多くは、実はアインシュタインたちが量子力学を否定するために生みだした思考実験が元ネタです。

ここからは、馴染みのある量子力学の話しが数多く登場します。

目次 アインシュタインは量子力学の何が気に入らなかったのか?コペンハーゲン解釈を否定するために生まれた「シュレーディンガーの猫」哲学の決着 ベルの定…

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参考文献

量子革命: アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突 (新潮文庫)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4102200819/nazology-22/ref=nosim/

歴史で学ぶ量子力学【改訂版・3】「私の波動方程式がこんな風に使われるのなら、論文などにしなければよかった」

シュレーディンガー方程式
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光や電子という、世界の根源的な存在に目を向けたとき、それは粒子と波動という一見矛盾した2つの性質を同時に成り立たせていることがわかってきました。

しかし、古典物理学ではその振る舞いを説明することができません。

放射線や線スペクトルの問題から、物理学者たちは原子の内部がどんな構造になっているかに興味の対象を広げていきました。

しかし、原子の内部構造を考え始めると、原子核やその周りに存在する電子の振る舞いは、やはり古典物理学では成立させることができませんでした。

ニュートン以来、世界を支配する盤石な学問だった物理学は、ここで大きな壁にぶつかったのです。

物理学者たちはもはや、使い慣れた古典物理学には別れを告げ、新しい事実に対応した新理論を作るしかなかったのです。

しかしこうして生まれた量子力学には、さまざまな奇妙な性質がありました。

「物事は確率でしかわからない」「観測するまで物事の状態は確定しない」という不可思議な理屈や、「シュレーディンガーの猫」と呼ばれる哀れな猫の思考実験、そしてアインシュタインの「神はサイコロを振らない」という言葉。

そんな誰もが聞き慣れた不思議な量子力学の議論はすべて、エルヴィン・シュレーディンガーの波動方程式が登場してから、その解釈を巡って始まります。

そして、この問題は、共に量子力学の誕生に貢献してきたアインシュタインとボーアを対立させ、議論を戦わせる原因になるのです。

彼らは量子力学の何を受け入れ、何を拒んだのでしょうか?

目次 2つの量子力学シュレーディンガー方程式は一体何を計算しているのか?それは存在確率の波ハイゼンベルクの不確定性原理コペンハーゲン解釈 2つの量子…

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参考文献

量子革命: アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突 (新潮文庫)
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歴史で学ぶ量子力学【改訂版・2】「自分が物理学など何も知らない喜劇役者だったらよかったのに」

水素原子内の電子の波動関数。軌道ごとに電子が取れるエネルギー状態のパターンでもある。
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歴史で学ぶ量子力学【改訂版・1】
歴史で学ぶ量子力学【改訂版・2】※本記事
歴史で学ぶ量子力学【改訂版・3】
歴史で学ぶ量子力学【改訂版・4】

20世紀のはじめ、第一次大戦が終りを迎えた頃、物理学は光の「波動説」と「粒子説」の2つの間で揺れていました。

光が矛盾するどちらの性質でも成立してしまったために、皆が困惑していたのです。

1922年、アーサー・コンプトンがコンプトン効果を発見したことで、光の粒子性は決定的なものになっていました。

コンプトン効果とは、電子にX線をぶつけたとき、弾かれて散乱したX線の波長が伸びるという現象のことです。

波長が伸びるということは、X線が電子にぶつかってエネルギー(運動量)を失ったことを意味しています。

しかし波は運動量を持ちません。

この現象を説明するためには、X線が実は粒子であり、ビリヤードの玉のように電子にぶつかって運動量を奪われたと解釈するしかないのです。

こうして、この時代の物理学者たちは、月曜と水曜と金曜は光の波動論を教え、火曜と木曜と土曜は光の粒子論を教えなければならない、と冗談交じりに愚痴るような状況になりました

それは目で見て頭でイメージできる馴染み深い古典物理学の世界が、崩壊したことを意味していましたが、まだこのとき多くの物理学者たちはその事実を受け入れることができなかったのです。

目次 物質の全ては波パウリの排他原理誰もノーベル賞をもらえなかった電子スピン理論もう一人の天才 ハイゼンベルク 物質の全ては波 物理学の常識では同時…

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参考文献

量子革命: アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突 (新潮文庫)
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弾丸と同じ速度の電車内で拳銃を撃ったら「電車の外に人」にどう見えるか?

電車で銃を撃つとどうなる?
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相対速度は中学校で習う簡単な問題ですが、これは単純な思考実験をするのにいい材料です。

映画のアクションシーンでは、主人公と敵が電車の中で銃撃戦を始めたりしますが、このときふと、次の疑問が頭に浮かぶかもしれません。

「電車の中で発射された弾丸は、地上の傍観者からはどのように見えるのか? そして電車の速度がどんどん増したらどうなるのか?」

ここでは、理論物理の入口となるシンプルな思考実験をご紹介します。

目次 本物の電車で拳銃を撃つとどう見える?マッハで走る電車内で拳銃を撃ったら? 本物の電車で拳銃を撃つとどう見える? 電車の中で拳銃を撃った時の様子…

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参考文献

What Would Happen If You Shot A Bullet On A Train?
https://www.scienceabc.com/pure-sciences/what-would-happen-if-you-shot-a-bullet-on-a-train.html

歴史で学ぶ量子力学【改訂版・1】「量子論に出会って衝撃を受けないものは、量子論がわかっていない」

量子力学の誕生に貢献した科学者たち
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はじめに 「量子力学」を考える上での注意

量子力学が難解な学問という認識は、誰もが抱いているでしょう。

では、なぜ量子力学は難しいのでしょう?

その理由は、量子力学が本来は頭の中でイメージできるような概念を持っていないためです。

とはいえ、量子力学に関するさまざまな図解やたとえ話は、誰でも一度は目にしたことがあると思います。

しかし、実のところ、それらはすべて厳密には正しくないのです。

物理学とは、ニュートンからはじまり、目に見える現象の数々を説明する学問として発展してきました。

ところが、あるときこの理論が崩れ去り、既存の理論では一切説明のつかない事実が次々と発見されたのです。

それはたとえば、光が波として性質と、粒子としての性質どちらでも成立してしまう、というような問題です。

これは頭でイメージしようとしても(あるいは図に描こうとしても)、思い描くことが不可能です。

そのため、物理学者たちはこのイメージできない新しい理論を「量子力学」と呼び、これまでの物理学(古典力学)と切り離しました

しかし、物理学者も私たちも(数学者を除き)、何が起きているのかイメージできない問題を考えることは非常に不得意で、あまり好きではありません。

そこで、物理学者たちは、馴染み深い古典力学の概念を使って、なんとか量子力学の現象を可視化しようと試みました

これが私たちのよく知る、量子力学の図説になったのです。

つまり私たちが知っている量子力学に関する説明は、すべて、本来はまったく異なる概念である、古典力学によって無理やり描き出したイメージなのです。

そのため、同じ量子力学の問題でも、解説してる本やサイト、人物によって、全然説明の仕方や解釈が異なってしまう場合もあります。

物理学者たちは、こうした問題をきちんと自覚した上で、うまく利用していますが、私たちはこの事実を理解していないため、頭がこんがらがってしまうのです。

これからはじめる量子力学のお話しも、できる限り視覚的なイメージを交えて解説していきますが、それはあくまで古典力学に置き換えた場合のイメージであって、正しい姿ではないのだということに注意してください

量子力学はすべて、本来はイメージすることが不可能な問題であることを念頭におきながら見ていけば、多少は量子力学の理不尽な説明にも納得できるかもしれません。

目次 量子の発見波? 粒子? 浮上した2重性の問題物理学を揺るがしたもう一つの問題 「原子の中身」コペンハーゲン学派の開祖 ニールス・ボーアの登場 …

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参考文献

量子革命: アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突 (新潮文庫)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4102200819/nazology-22/ref=nosim/

2021年に話題となった「壮大な宇宙ニュース」ランキング

地球から約3100万光年離れた場所にある渦巻銀河「NGC3627」
Credit:ESO/PHANGS

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2021年もまもなく終わりを迎えようとしています。

地上は新型コロナウイルスでさんざんでしたが、ひとたび地球を離れ宇宙へ目を向けると、そこにはさまざまな新しい発見がありました。

火星探査機パーサヴィアランスが火星に降下し、月面の探査機が謎の物質を見たと報告したり、民間人が宇宙へ行ったり…。

その中で今年世間を騒がせた興味深い宇宙関連の記事をランキング形式で紹介します。

SFまがいの夢にあふれる宇宙の話題で今年を壮大に締めくくりましょう。

目次 2021年話題を読んだ宇宙関連記事 BEST5 2021年話題を読んだ宇宙関連記事 BEST5 第5位 土星が傾いている原因は「衛星タイタン」…

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ニュートン力学に違反したアニメを見ると「イヌは異変を感じて驚く」

アニメの中で物理学に違反した動きがあると、犬はちゃんと疑問を感じて驚く
Credit:canva

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犬は物理法則をきちんと理解しているようです。

ドイツのウィーン獣医大学(University of Veterinary Medicine Vienna)の新しい研究は、3Dアニメーションで表示されたボールが、物理法則を無視したとき、犬は瞳孔や注視時間などに反応があったと報告しています。

瞳孔や対象の注視時間の延長は、期待と異なる動きがあった場合に見られる反応で、乳幼児などでも確認できるといいます。

研究の詳細は、12月22日付で英国王立協会が発行する科学雑誌『Biology Letter』に掲載されています。

目次 物理法則を理解しているイヌ 物理法則を理解しているイヌ 私たちは物体がどのように動くのかというルールを理解しています。 人間はそれを定式化して…

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参考文献

Dogs notice when computer animations violate Newton’s laws of physics
https://www.newscientist.com/article/2302655-dogs-notice-when-computer-animations-violate-newtons-laws-of-physics/?utm_campaign=RSS%7CNSNS&utm_source=NSNS&utm_medium=RSS&utm_content=news

元論文

Dogs’ looking times and pupil dilation response reveal expectations about contact causality
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsbl.2021.0465

毒入りドリンクを注ぎ分けられる「暗殺ティーポット」のトリックを解説

3つの飲み物を注ぎ分けられる「暗殺者のティーポット」
Credit: Steve Mould/youtube(2021)

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ここに一つのティーポットがあります。

中に入った飲み物を自分用と相手用に注ぎ分けます。

それを互いに飲み干したところ、自分は何の問題もありませんでしたが、相手だけが毒死しました。

コップには何の仕掛けもしていません。

さて、なぜでしょうか?

その答えは、この不気味なティーポットに隠されています。

これは「暗殺者のティーポット(Assassin’s Teapot)」と呼ばれる一品で、中国で生まれたものです。

同じ注ぎ口から、違う種類の飲み物を注ぎ分けられるので、相手にだけ毒入りドリンクを飲ませられるという。

一体、どんなトリックが使われているのか、以下で見ていきましょう。

目次 「暗殺ティーポット」の中身はどうなってる?注ぎ分けを可能にする物理的メカニズム 「暗殺ティーポット」の中身はどうなってる? 暗殺者のティーポッ…

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参考文献

This Is How the Assassin’s Teapot Works
https://interestingengineering.com/video/how-the-assassins-teapot-works?utm_source=rss&utm_medium=video&utm_content=12122021
The Assassin’s Teapot Is Weird(YouTube)
https://www.youtube.com/watch?v=jJL0XoNBaac&t=9s

ついに核融合反応のエネルギー収支を「部分的に黒字化」することに成功

核融合反応でついに「一部黒字」を達成! 入力<出力を部分的に達成
Credit:NIF

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核融合技術に1つの区切りが見えてきました。

米国の国立点火施設(NIF)で行われた研究によれば、核融合炉の中枢である燃料部分で、外部からの入力よりも多くのエネルギーを放出することに成功した、とのこと。

これまで各国でさまざまな核融合実験が行われてきましたが、実はエネルギー収支は全過程において常に赤字でした。

つまり核融合を起こすために注ぎ込むエネルギーが、核融合によって生み出されるエネルギーよりも常に大きかったのです。

ですが今回、核融合反応の中枢部分において、ついにエネルギー収支を反転させることに成功しました。

研究内容の詳細は『プラズマ物理学のAPS部門の第63回年次総会』にて発表されました。

目次 核融合反応でついに「一部黒字」を達成!中枢部は確かに黒字だが…… 核融合反応でついに「一部黒字」を達成! 現在、私たちの使う電力を作り出してい…

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参考文献

Ignition First in a Fusion Reaction
https://physics.aps.org/articles/v14/168
Finally, a Fusion Reaction Has Generated More Energy Than Absorbed by The Fuel
https://www.sciencealert.com/for-the-first-time-a-fusion-reaction-has-generated-more-energy-than-absorbed-by-the-fuel

元論文

63rd Annual Meeting of the APS Division of Plasma Physics
https://meetings.aps.org/Meeting/DPP21/Session/AR01.1