7月16日発行の「東北再興」第110号では、気温から見た東北の「住みやすさ」について紹介した。仙台が「住みやすい」と言われる理由の一つが、「年間の真夏日と真冬日の合計が全国の県庁所在地の中で1番少ない」、すなわち「暑からず寒からず」というものである。
実際に調べたところ、確かにそうで、その合計が20日台なのは仙台と秋田のみ、30日台なのは青森、盛岡と新潟、水戸のみで、残りは40日より多かった。東北の中では比較的その合計が多い福島と山形も、全国的に見れば上位である。そして、東北で気象庁の観測地点のある160箇所について見てみると、仙台よりもさらにその合計が少ないところがたくさんあった。こと気温に関して言えば、東北は日本で最も住みやすい地域だと言うことができる。
以下がその全文である。
実は住みやすい東北の諸都市
よく「仙台は住みやすい」と言われる。「住みやすい」の要因はいろいろと挙げられる。曰く、街の大きさが大きすぎず小さすぎずちょうどよい、海も山もあり自然に恵まれている、東京まで新幹線で最短1時間半とアクセスがよい、暑すぎず寒すぎず雪も少なく過ごしやすい、などなど。
このうち、「暑すぎず寒すぎず」については、データでも明らかになっている。仙台は、年間の真夏日と真冬日の合計が全国の都道府県庁所在地の中で最も少ないのである。
よく気象関係のニュースで出てくる「平年」とは過去30年間の平均値のことである。さらに言えば、「平均値」とは言っても、例えば気温であれば30年間の平均気温を足して30で割る、といったものではない。まず30年のそれぞれの年ごとにその時点での平年値との差を出し、それをマイナスの値の大きいものからプラスの値の大きいものの順に並べていき、その中で真ん中にある11番目から20番目の差の範囲にあれば「平年並」とする、というものである。
ただ、この「過去30年」というのは毎年更新されるわけではなく、10年に一度更新されることになっている。今年5月18日まで使われていた平年値は1980年から2010年までの30年のデータである。気温や降水量などが年々変化しているのは体感できることであるので、そうした変化の中で10年に一度の更新というのはやや悠長に過ぎる気もするが、ともあれ、今年の5月19日からは1991年から昨年2020年までの30年間の新たな平年値「新平年値」が使用されることになったので、「平年」の基準そのものが5月18日以前とは変わったわけである。
「住みやすさ」の根拠となるデータ
この新平年値のデータによれば、仙台の年間の真夏日の日数は23.0日、真冬日の日数は0.8日で、これらを合わせると23.8日となる。政令指定都市で見てみると、仙台より北の札幌は、真夏日こそ仙台より少ない8.6日だが、その代わりに真冬日が43.6日もあり、その合計は52.2日となる。仙台より南の各都市はお察しの通り、真冬日こそほとんど0であるものの、代わりに真夏日が多く、横浜は48.8日、名古屋69.7日、大阪74.9日、広島64.3日、福岡60.4日、などとなっている。名古屋以西は何と2ヶ月以上もの間、真夏日が続くのだということが分かった。真夏日になると「暑すぎる」「死にそう」などという言葉がつい出てしまう仙台市民からすると、2ヶ月以上もの間真夏日が続くという状況には、凡そ耐えられそうな気がしない。
全国の県庁所在地で、仙台に次いでこの真夏日と真冬日の合計が少ないのは同じ東北の秋田で、真夏日が22.2日、真冬日が7.2日で合計29.4日である。仙台と秋田だけが全国の県庁所在地の中で、真夏日と真冬日の合計が30日を切っている。それに続くのが青森で、真夏日が14.7日、真冬日が18.7日の合計33.4日、その次が盛岡で、真夏日が22.4日、真冬日が12.4日の合計34.8日である。真夏日と真冬日の合計が30日台なのは他には新潟の36.7日と、水戸の38.0日のみで、残りの都市はすべて40日を超えている。
東北に関しては、山形が真夏日41.3日、真冬日6.9日で合計48.2日、福島が真夏日47.1日、真冬日1.0日で合計48.1日である。どちらも内陸の都市だけあって真夏日が東北の他の都市に比べると多いが、それでもさらに真夏日の日数が多いところがほとんどの全国の県庁所在地中では上位に位置している。
ちなみに、昨年までの旧平年値では、仙台の真夏日の合計は17.9日、真冬日の合計は1.7日で、合計19.6日と20日も切っていた。新平年値と比べると真夏日が増えて真冬日が減っているわけで、こうしたところからも気温が上昇傾向にあるということが見て取れる。
こうして見てくると、東北の各県庁所在地は、全国の並み居る都市と比べても気温の面ではかなり住みやすいということが分かる。東北に関してはこれまで「雪深い」「寒い」などと気候の面に関してはかなりマイナスに捉えられすぎていた感があるが、実際にはもちろん、冬の降雪のことはあるものの、気温に関してはどこでもほぼ暑すぎずさりとて寒すぎずである、ということが言えそうである。
東北の中で一番住みやすい市町村は
さて、どうやら、「暑すぎず寒すぎず」の指標としての真夏日と真冬日の合計日数が少ないエリアは概ね東北周辺である、ということは分かったが、より詳細に見てみるとどうであろうか。つまり、東北の県庁所在地以外の市町村の中には、ひょっとしたら仙台よりもさらに「住みやすい」ところがあるのではないだろうか、ということである。
ということで、気象庁の観測地点ごとに東北の各エリアの真夏日と真冬日を調べ、その合計を算出してみた。我ながらヒマ人である。いずれも新平年値に基づいている。それを一覧にしたのが別表だが、これを見ると、何と一部山岳地帯を除いて、東北のかなりの市町村が仙台を凌駕するような「住みやすさ」を持っていることが分かる。
東北の160の観測地点のうち、真夏日と真冬日の合計が仙台よりも少ない地点は33にも及ぶ。もちろん、仙台よりもその合計が多い地点も、全国の他の都市に比べればはるかに少ないところが多い。
中でも真夏日と真冬日を合わせた日数が10日台という地点は17ヶ所もある。ものすごく暑い日とものすごく寒い日の合計がこれくらいだと、実際のところかなり過ごしやすいのではないかと思われる。
東北の並み居る「住みやすい」街の中でもトップは福島県のいわき市小名浜である。真冬日がゼロで、かつ真夏日も10日ちょっとしかないという驚異的な数値である。「いわきは温暖で過ごしやすい」とはよく聞く言葉である。冬に寒くないというだけなら同様の場所は日本全国に他にもたくさんあるだろう。しかし、「温暖」というのはただ単に冬が寒くないというだけにとどまらず、だからと言って夏もそんなに暑くならないということであるということを、この数値から実感した次第である。
以下、石巻市、岩泉町の小本、名取市、山田町、と続くが、上位を占めるのはやはり海沿いの市町村である。内陸については東北の北の方であっても真夏日がかなり多かったりすることがこの表からも分かる。真夏日と真冬日の合計の少なさという点では、海沿いの街に分がありそうである。とは言え、繰り返しになるが、内陸の市町村であっても、山岳部を除けば、東北以外の県庁所在地と比較してはるかに真夏日と真冬日の合計は少ないところが多い。東北全体が概ね過ごしやすい気温帯の中にあるということがよく分かる。
真夏日と真冬日がトータルで少ないということは、冷暖房費が安く済むということでもある。これは一例ではあるが、今までとは違った面から東北の「住みやすさ」などいいところを捉え直すこともまた意義のあることであると言えそうである。