通常、宇宙船や人工衛星はロケットエンジンの噴射によって宇宙まで運ばれます。
しかし最近、アメリカ・カリフォルニア州を拠点とするロケット開発企業「SpinLaunch」が、回転させて飛ばす新しいロケット発射システムの打ち上げテストに成功しました。
室伏広治選手がハンマーをグルグルと回転させて遠くまで投げるように、巨大な装置がロケットをグルグルと回転させて上空まで投げ飛ばしてしまったのです。
目次
- 回転させて初速度をアップさせる
- 「ハンマー投げみたいなロケット発射システム」のテストが成功
回転させて初速度をアップさせる
物体を遠くに飛ばすためのごくシンプルな方法には、「回転させて投げる」というものがあります。
この技術は昔から様々な場面で利用されてきました。
例えば原始的な武器である投石器(スリング)は、紐を使って石を回転させながら放出します。
この方法により、石と紐だけで弓矢と同等以上の射程や威力が得られます。
またオリンピック競技でもあるハンマー投げも同様の原理を利用しています。
重い鉄球を紐や鎖を使って回転させ、遠くまで投げ飛ばすのです。
この「回転させて遠くまで飛ばす」原理はいたって単純です。
おもりを紐でつないだまま回転させ続けると、おもりはその場で周回スピードを上げていきます。
そしてその状態で紐が離されると、おもりは大きな初速度で放出されるため、遠くまで飛んでいくのです。
この原理を子どもの頃に知ったとき、「ハンマー投げの鉄球でさえ遠くまで飛ばせるのだから、もっと大きな装置を使ったら、宇宙まで物を飛ばせるのかな?」なんて空想した人もいるのではないでしょうか?
そしてこの発想を実現してしまったのが、SpinLaunch社です。
彼らはロケットを回転させて、本当に宇宙まで投げ飛ばしてしまったのです。
「ハンマー投げみたいなロケット発射システム」のテストが成功
開発される新しいロケット発射システムの高さは50.4mであり、自由の女神像よりも大きな装置となっています。
円盤内部は減圧して空気抵抗が小さくなっており、アームが高速回転しています。
そしてアームの先端にはロケットが装着され、十分加速度が得られた後は、煙突のような発射口から射出されるのです。
最初のテストでは全出力の約20%を使って打ち上げましたが、それでもロケットはテストとしては十分な結果である高度十数kmまで到達しました。
ちなみに今回開発された加速器は、将来予定している完成版の3分の1スケールのバージョンとのこと。
それでも技術を証明するには十分なサイズであり、テストではその性能が実証されたと言えます。
さて新しいロケット発射システムのメリットは、そのエネルギー効率にあります。
電気駆動であるため、従来のロケット噴射に比べて燃料が4分の1、コストが10分の1に削減されるのです。
さらにその仕様から、1日に複数回打ち上げることも可能。
チームは、今後6~8カ月で約30回の打ち上げテストを実施する予定であり、実用化に向けてさらに調整を加えていきます。
「ロケットを放り投げて宇宙まで飛ばす」なんて漫画のようですが、案外、実用化は近いのかもしれません。
参考文献
satellites could be catapulted into space with SpinLaunch’s slingshot launch system
satellites could be catapulted into space with SpinLaunch’s slingshot launch system
Alternative rocket builder SpinLaunch completes first test flight
https://www.cnbc.com/2021/11/09/spinlaunch-completes-first-test-flight-of-alternative-rocket.html