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 4月16日に発行された「東北再興」第107号では、2月19日の仙台市議会定例会で質疑応答があった福岡とのライバル関係(?)について取り上げた。ライバルと言っても、それはこちらから見た話で、少なくとも福岡は仙台のことをライバルと見てはいないようであるが…。

 ちなみに、本文中で指摘した、仙台市の「東北連携推進室」の説明と福岡市の「WITH THE KYUSHU」の説明がやけに似通ってる問題、その後もさらに調べてみた(ヒマ人である…)。その結果、ウェブ上で探してみた限りでは、福岡市の「WITH THE KYUSHU」の説明は少なくとも5年前の2016年3月7日までその存在が遡れる一方(参照サイト)、仙台市の「東北連携推進室」にある説明に関しては同様の記載が2020年の「仙台市職員募集ガイド」にはあるものの、それ以前にもあったことを示す資料は見つけられなかった(ちなみに2019年版の「仙台市職員募集ガイド」にはその記載はない)。従って、偶然似通ったものでないとするならば、参考にしたのはどうやら我らが仙台市の方だったようである…。

追記(2021.4.23):「WITH THE KYUSYU」のコンセプトそのものが最初に現れたのは、熊本地震よりもさらに前であることが分かった。上で挙げた2016年3月7日というのは熊本地震の前であることからさらに調べてみたところ、その前月の2月18日の高島市長のブログで「これから大切にしていきたいコンセプト」としてこの「WITH THE KYUSHU」が挙げられていた。

 その後、翌月の7日に「九州広場」ができ、翌4月に県域を越えたWi-Fiの相互認証が始まり、そして14日に発生した熊本地震の際に「WITH THE KYUSHU」プロジェクトとして支援を行ったという流れであった。


仙台のライバルは福岡?

市長も「ライバル都市」認定

 2月19日の仙台市議会定例会の一般質問で面白いやりとりがあったようである。当日の会議録はまだ仙台市議会のサイトにアップされていないが、動画で閲覧することができる。

 佐藤正昭氏が質問に立ち、「今まで世界一を目指すと激励してきたし、そうなってほしいとの考えは変わらないが、現実的に目標、ライバルが必要だと私は考える」と前置きした上で、仙台市が昨年首都圏企業向けに行った意識調査の結果、新型コロナの流行後に地方へのオフィス移転・増設に関心があると回答した企業について、その移転候補地を尋ねたところ、仙台市が福岡市に次いで2番目に多かったことを挙げて、「私は、今や、札幌市や広島市は眼中にはありません。福岡市だけが、唯一、本市のライバルたり得ると考えます」と主張した。そして、「この際、市として福岡市を姉妹友好都市ではなく、ライバル都市に認定してはいかがでしょうか?」と市長に見解を求めた。

 これに対して、郡和子市長も福岡市について、「『アジアの玄関口』として、経済発展を続ける非常に勢いのある街」との認識を示した上で、「私はいわばライバル都市として、その動きを注視していくとともに、多くの自治体が創意工夫による街づくりを進めている中で、これら国内の諸都市とも、その中でも競争に打ち勝っていくという強い覚悟を持っていく」と答弁した。佐藤氏の主張に同調し、福岡市を「ライバル都市」と位置づけた形である。

 このやり取りは、翌日の河北新報でも報じられたが、その記事を見た福岡市の高島宗一郎市長は自身のブログで、「仙台の街も大好きです。私は東京一極集中の次は地方拠点都市の時代だと思います。ぜひ東西から日本を盛り上げましょう!」と書いていた。

発信と行動が卓越した市長

 私が高島市長に注目したのは2016年の熊本地震の折である。あの時、福岡市は独自に熊本への支援を行った。その原動力となったのが高島市長自らのSNSによる情報発信だった。東日本大震災の折に各地から届いた物資が、仕分けなどの不徹底で迅速に避難所に届かなかった事実などを見て、高島市長は必要な支援物資が何かを熊本市の大西市長に直接確認し、その提供を市民に呼び掛け、廃校となった学校の教室ごとに同じ物資を集め、現地での仕分けが必要ない形で被災地に物資を直接送った。福岡にはすごい市長がいるなと驚いたものである。

福岡市を経営する 高島市長の著書「福岡市を経営する」を読むと、さらにその感を強くする。とにかく、その情報発信力、行動力が図抜けている。元々、「札仙広福」と呼ばれる札幌、仙台、広島、福岡の地方4都市の中で、福岡の勢いは他の3都市を上回るものがあったが、高島氏が市長に就いてからさらに、国際会議などの開催件数が全国の政令指定都市の中で1位、クルーズ船の寄港回数が横浜を抜いて日本一、スタートアップに力を入れて全国で唯一4年連続で開業率7%台、政令指定都市で唯一5年連続税収が過去最高を更新、地価上昇率は東京や大阪のおよそ倍、人口増加率も東京を抜いて1位、とのことで、とにかく他を寄せ付けない圧倒ぶりに見える。

 著書の中にも、印象に残る氏の言葉がたくさん散りばめられている。曰く、

「友達は誰か。苦しいときにこそ見えてくる」
「チャンスが来たときがベストタイミング」
「認めてもらうためには、小さくても結果を出し続ける」
「数字は嘘をつかない。だから数字で流れを変えよう」
「『全員』を意識すると動けなくなる」
「リスクをとってチャレンジする人のために時間を使う」
「自分の命は、役割があるところに導かれる」
「決断こそリーダーの仕事である」
「プロセスを丁寧に『見える化』する」
「発信力を上げるためには、シンプルに伝える」
「三六〇度、全方位から批判される決断もある」
「『決めない』は最悪の選択」
「正しい情報は常に現場にある」
「大切なのは、言い出した人が動くこと」
「批判よりも提案を、思想から行動へ」
「人を幸せにするのは、『今日より明日がよくなる』という希望」
「変えるには、まず『やってみせる』のがいちばん早い」
「明日死ぬかのように今日を生きる」

「成功の反対は挑戦しないこと」

 再三強調しているのが、「決断」である。リーダーの仕事は決断することで、そしてその決断はなるべく早く行うことが大切だ、と氏は繰り返し説いている。これはまさにその通りであるが、それを実際にできているリーダーは数少ないのではないか。逆に福岡は、高島氏がそうした決断を積み重ねてきて今の姿があるのだろう。


福岡は「ライバル」なのか?

 さて、このような福岡に対して仙台がライバル認定するという話だが、正直どうなのかという思いもある。仙台の施策の中で明らかに福岡を意識しているものは確かにある。例えば、仙台駅前の再開発計画は、福岡の「天神ビッグバン」の影響が多分に感じられるし、「日本一起業しやすいまち」が合言葉の起業支援も明らかに福岡を意識している。しかし、残念ながらどちらも福岡を凌駕するどころか、肩を並べるところにも至っていない。「ライバル」と言うより、「憧れの存在」あるいは「お手本」である。

 自身を背伸びして大きく見せたい気持ちも分からないでもないが、ここは今一度謙虚に、福岡にできて仙台にできていないものが何なのか、問い直すべきであろう。ましてや、「札幌や広島は眼中にない」などと、たった一つの調査結果からよくそこまで言えたものである。札幌や広島にも学ぼうと思えば学ぶべきところはまだまだいくらでもある。このような自らの実力を過大視した結果生じる驕りは、仙台のさらなる発展を考える上では邪魔なものでしかない。他に学ぶものなどないと思ったところから、停滞や下降が始まるのである。

 学ぶべき対象は札幌や広島、福岡だけではない。以前この連載で、前橋や金沢と仙台を比較したことがあったが、それこそ国内外のあらゆる都市それぞれにも学ぶべきところがある。他地域の都市のそうした特長を認め、その中で仙台に活かせるものはないか考えることが必要なのであって、そうした学びもせずに「眼中にない」などと高を括る態度は百害あって一利なしである。


東北と共に発展する仙台を

 高島氏は著書の中で、「勝てない指標では戦わない」とも書いている。福岡をお手本にするのはよいが、それだけでは先行する福岡に勝つことは恐らく不可能であろう。福岡にない「指標」を見出すことも必要である。それが何か。私は地域全体の目線を持つべきと考える。つまり、仙台の発展を東北全体の発展とリンクさせる取り組みである。

 福岡は「アジアのリーダー都市」を目指すとのことである。国内外の都市の中でその存在感を発揮すべく様々な取り組みを行っているわけである。それはそれですごいことである。ただ、それだけでよいのか。福岡が都市として賑わい、繁栄を享受できれば、それが九州全体にも波及するかもしれない。しかし、一歩間違えれば、九州の中で福岡だけが輝き、それと反比例するかのように他の都市が埋没するというケースも考えなくてはならないのではないだろうか。

 仙台はそうではなく、最初から東北全体と一緒に歩むべきである。仙台だけがひとり発展してはいけない。仙台の発展が東北全体の発展につながるような施策を考える必要がある。その意味で、仙台市の組織の中に「東北連携推進室」があるのは実によいことだと思う。そこにはこうある。

「仙台市は、東北との深い絆のもと、東北に支えられ成長してきた都市です。仙台市では、東北全体の発展に繋げることを目指し、東北各都市や関係団体等との連携を推進しながら、東北の交流人口拡大や活性化に向けた広域連携事業に取り組んでいます」。

 これである。この姿勢こそを、他の都市に先駆けて全面的に打ち出すべきなのである。惜しむらくは、この東北連携推進室、文化観光局の下にあり、連携推進も主に観光分野におけるものになっていることである。本当に東北全体の発展にコミットするのであれば、これ単体で局とするくらいの気概が欲しいところである。

 福岡市には仙台の東北連携推進室に当たる組織はないようである。しかし、にもかかわらず、調べてみると、これまた仙台を凌駕するような取り組みがあるのがさすがである。福岡市では、「WITH THE KYUSHU」をスローガンに、市役所の北側緑地を「九州広場」と名付け、そこで九州各地の観光物産展を月に5、6回も開催している。また、市役所1階ロビーには「九州情報コーナー」を設けて九州各地の観光案内リーフレットを配布し、ポスターを掲示し、PR動画を放映している。他にも、九州の離島との広域連携事業や福岡の公衆無線LANサービスと他都市の公衆無線LANサービスとの認証連携、自治体連携によるオープンデータ推進なども手掛けている。

 この「WITH THE KYUSHU」プロジェクト、元々の発足のきっかけは熊本地震だったようである。地震で被害を受けた熊本を支援するための様々な取り組みをこの名の下に始めたのである。それにしても、早い!熊本地震が2016年の4月14日だが、高島市長が自身のブログでプロジェクトの発足を宣言したのがそのわずか3日後の4月17日である。ちなみに、仙台市に東北連携推進室ができたのも、同じ2016年4月のことである。

 地域全体との連携も抜かりない。福岡、さすがである。高島氏の著書でも触れられていない、目立たない取り組みかもしれないが、これこそ東北連携推進室を擁する仙台がお手本にすべき取り組みである。と言うより、このような取り組みを先にやられてしまっているようでは仙台の東北連携推進はまだまだである、と言わざるを得ないのがつくづく残念なところである。今後の独創的な取り組みに期待したい。

 ところで、気になることがある。福岡の「WITH THE KYUSHU」の説明文である。そこには、

「福岡市は、九州との深い関わりに支えられ、九州とともに成長してきたまちです。まさに福岡市の発展は、九州とともにあります。政令指定都市の中で5番目の人口規模となったことを受け、九州の拠点都市としての役割をあらためて認識し、『WITH THE KYUSHU』として、九州各地の自治体と連携し、九州の発展につなげることを目指してさまざまな取組みを推進しています」

とある。なんだなんだ?東北連携推進室の説明とそっくりである。どちらがどちらを参考にしたのか、あるいは偶然似たのか(にしてはあまりに似ている)調べた限りでは分からなかったが、仙台が考えていることは福岡も考えている、ということはよく分かった。

 結局のところ大事なことは、高島市長の言に尽きるであろう。

「ぜひ東西から日本を盛り上げましょう!」