千葉大学の石山智明准教授を中心とする国際研究グループは、岩手県の国立天文台水沢キャンパスに設置されているスーパーコンピューター「アテルイII」を用いて、世界最大規模のダークマター構造形成シミュレーションに成功し、100テラバイト以上のシミュレーションデータをインターネットクラウド上に公開した。
宇宙には、目に見える「バリオン」と呼ばれる物質に対し、目に見えない「ダークマター」と呼ばれる物質が質量に換算して約5~6倍存在している。ダークマターは、その重力によって「ハロー」と呼ばれる塊のような巨大構造を作るが、このハローの重力によってバリオンのガスが集まり、その中心部で収縮して星が誕生し、さらには銀河や銀河団などの巨大な天体が形成されていったと考えられている。
日本語の「宇宙」から「Uchuu」と名付けられた構造形成シミュレーションは、一辺が96.3億光年という前例のない広大な計算上の立方体空間の中にある2兆1000億個の粒子で構成されている。これは、地球から観測された最も遠い銀河までの距離の約4分の3に相当する。
Uchuuは、他の仮想世界と比べて時間領域という点で圧倒的に勝っており、ビッグバンから現在までの138億年という宇宙の歴史のほぼ全体にわたって、物質の進化をシミュレートしている。これは、地球上で動物が海からはい出てきてから現在までの時間の30倍以上にあたる。Uchuuは、これまでには考えられなかった規模や詳細なレベルで、宇宙の矮小銀河から巨大銀河団までのスケールの構造形成やその進化の研究を可能にする。
宇宙がどのように生まれて進化し、その大規模構造を形成していったのかという詳細な過程は、天文学における大きな謎の1つだ。現在、その謎を解き明かすため、国立天文台ハワイ観測所が運用するすばる望遠鏡などを用いて大規模天体サーベイ観測が進められているが、観測データを検証するには大規模な構造形成シミュレーションデータが必要になるという。
研究チームは、アテルイIIを用いてUchuuを1年がかりで完成。シミュレーションコードを開発した石山准教授によれば、シミュレーションにはアテルイIIの全プロセッサー(CPUコア)4万200個を独占的に毎月48時間使用したという。
アテルイIIの使用時間はのべ2000万時間で、これはアテルイIIで実行された数値計算としては最大規模だという。生成されたデータは3ペタバイトにもなり、そのデータ量は携帯電話の12メガピクセルカメラで撮影した写真画像約8億9400万点に相当する。
さらに、研究チームは高性能な計算技術を用いて、Uchuuシミュレーションにおけるダークマターハローの形成と進化に関する情報に縮約したデータを100テラバイト程度のカタログに圧縮し、誰でも扱える形式でインターネットクラウド上に公開した。
この成果は、英国王立天文学会発行の『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society』2021年9月号に掲載されている。
(C) Tomoaki Ishiyama, Hirotaka Nakayama, 4D2U Project, NAOJ/石山智明、中山弘敬、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト
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Uchuu | Skies & Universes
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