もっと詳しく

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

分散型プロジェクト同士の買収が発生

 イーサリアムのスケーリングソリューション「Polygon」が、ゼロ知識証明を活用した「Hermez Network」を買収した。スケーラビリティ系プロジェクト同士の買収ということもあり、世界で初めてネイティブトークンの統合が行われることになっている。

 ゼロ知識証明を活用したHermez Networkは、ZK-Rollupsを基盤にしたスケーリングソリューションだ。高い処理性能を誇りつつ、ゼロ知識証明によって匿名性を担保することにも成功している。今回、Polygonに買収されたことでネットワークの統合が行われるという。

 注目すべきは、ネットワークの統合以外にネイティブトークンの統合も行われる点だ。これまでにブロックチェーンプロジェクト同士の買収は度々行われてきたものの、ネイティブトークンの統合が行われるのは初めてのことになる。

 Polygonのネイティブトークンは「MATIC」、Hermez Networkのネイティブトークンは「HEZ」であり、両者は 1HEZ = 3.5MATIC のレートで交換されるという。残るのはMATICの方であり、交換されたHEZは消滅する予定だ。

 今週は、分散型ガバナンスにおいてネイティブトークンの統合といった意思決定が行われるプロセスの説明と、トークン投票の現状について考察していきたい。

参照ソース

    The Polygon Thesis: Strategic Focus on ZK Technology as the Next Major Chapter for Polygon; $1B Treasury Allocation
    [Polygon]

暗号資産・ブロックチェーン領域への投資額が過去最高を更新

 大手会計事務所KPMGが発表したレポートによると、2021年上半期の暗号資産・ブロックチェーン領域への投資額が、過去3年の各通年額を上回る結果になったとされている。

2018年:72億ドル
2019年:50億ドル
2020年:43億ドル
2021年上半期:87億ドル

 上記の投資額には、個人投資家だけでなく機関投資家やベンチャーキャピタルによる投資も含まれるという。ビットコインやイーサリアムへの投資だけでなく、企業への投資が加速したことが要因の一つとしてあげられそうだ。

 ソフトウェアで完結できるブロックチェーン事業は、投資対効果も高く、エンジニアが一人でサービスを立ち上げられる点が投資を呼び込む理由としてあげられるだろう。レポートでは、暗号資産・ブロックチェーン領域以外に、Payments、Insurtech、Regtech、Wealthtech、Cybersecurityにセグメント分けされており、これらの市場と大差ない規模にまで成長してきたことが分かる。

 2018年はICOがピークにあった年であるため投資額が大きいのは頷けるだろう。2021年はNFTが急激な盛り上がりを見せたことも影響してそうだ。

参照ソース

    Pulse of Fintech H1’21
    [KPMG]

今週の「なぜ」分散型プロジェクトの意思決定プロセスはなぜ重要か

 今週は、PolygonによるHermez Networkの買収やKPMGのレポートに関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

分散型プロジェクトではトークン投票によって意思決定が行われる
現状の分散型プロジェクトはほとんど分散していない
トークンが証券として認定された場合の弊害

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

分散型プロジェクトの意思決定プロセス

 今週は、暗号資産・ブロックチェーン領域への投資額が過去最高を更新したというトピックを取り上げたが、投資が入るということは当然リターンが出るということになる。株式会社の場合、IPOかM&Aが一般的なExitと呼ばれるものになるが、これはブロックチェーンプロジェクトにも当てはまる。

 分散型を志向するブロックチェーンプロジェクトがほかのプロジェクトを買収するというのも違和感のある話だが、分散型プロジェクトの意思決定も株式会社と同様に51%の議決権によって執行されるのだ。

 Polygonによる今回の買収は、実質的な運営組織の保有するトークン(MATIC)のうち、約12.5%を使ってHermez Networkを買収した。 一方のHermez Networkは、全体の90%のトークン(HEZ)を運営組織および一部のステークホルダーが保有していたため、買収のディールが即決したようだ。

 MATICとHEZの保有者のうち、今回のディールに関係しなかったマイノリティがどのような考えを示したかはわからないものの、分散型プロジェクトの仕組みがそのまま反映されたようなプロセスとなっている。

現状の分散型プロジェクトは名ばかり

 ここで言いたいことは、分散型プロジェクトはどれも名ばかりであるということだ。図らずも、今週はイーサリアムの共同創業者であるVitalik氏が自身のブログで、分散型プロジェクトにおけるトークン投票の現状を批判していた。

 Vitalik氏は、分散型プロジェクトはトークン投票による意思決定に依存しすぎており、結果的に大して分散化できていないと主張している。実際のところ、今回のPolygonによるHermez Networkの買収は、一部のステークホルダーによって完結したディールであり、買収の事実を発表後に知ったというホルダーも少なくないはずだ。

 そしてこの実態は、トークンが証券に該当する可能性があるという問題点を浮かび上がらせる。米SEC委員長のGensler氏は、現状の分散型プロジェクトはほとんど分散化しておらず、その場合のトークンは証券に該当する可能性が高いと指摘している。

 トークンが証券に該当するか否かは、そのトークンの運営実態が十分に分散化されているかどうかで判断される。現状、SECが証券ではないと明言しているのはビットコインとイーサリアムだけだ。この判断基準に従うと、HEZはまず間違いなく証券に該当するだろう。

ブロックチェーンにはトークンが欠かせない

 証券に該当するトークンは暗号資産ではなくなるため、たとえば暗号資産取引所で扱うことができなくなる。また今回の買収後に行われるトークンの消滅も、勝手に行うことができずSECへの届出が必要になる可能性も出てくるだろう。

 なぜトークンの扱いについてここまで言及するかというと、イーサリアムやPolygonのようなオリジナルのチェーンを持つプロジェクトにとって、インセンティブとしてのネイティブトークンは必須だからだ。

 不特定多数のノードによって運営されるブロックチェーンの場合、ノードを立てるインセンティブとしてのトークンが必要になる。このトークンは、ガバナンス投票やトランザクション手数料に使われることが多い。

 しかし、トークンが証券として認定されてしまった場合、分散型プロジェクトなのに当局への届出が必要になったり、最悪の場合は発行停止といった事態にも陥りかねないのだ。