東京都庁のDXを主導する宮坂学副知事。ヤフー社長から転身後、都庁のデジタル化の陣頭指揮をとるため都庁に乗り込んだ宮坂氏が見たものは・・?任期の折り返し地点を超えた宮坂氏に、新たな東京都の“爆速”デジタル戦略を聞いた。
【画像】「変わったか?と言われるとまだまだです」と語る宮坂氏
都庁の日常業務は昭和のままだった
――宮坂さんは2019年9月20日に副知事に就任していよいよ3年目を迎えますね。
宮坂氏:
当初は自動運転やAIなどの先端技術を都市実装する“ソサエティー5.0”なスマートシティ構想をやるのかと思っていました。東京が中国の深センみたいな街に変わるのかというイメージだったんです。しかし入庁してわかったのは日常の仕事の仕方が、ファックスとコピー、ハンコのやりとりで昭和のままだった。“ソサエティー5.0”やDX以前にまずは仕事をデジタル化、構造改革しないとまずいかなと思って、そちらの仕事のほうが多くなりましたね。
――そのまず第一歩として目指していたのが5つのレス(ペーパー、はんこ、キャッシュ、ファックス、タッチレス)でしたが、この2年でどの程度進みましたか?
宮坂氏:
ファックスレスは2019年比98%減目標でしたが、95%減まできました。はんこレスについては、押印が必要な事務件数・約1万8千件のうち約1万5千500件ははんこ廃止済みか、またはデジタル化等により廃止予定となっています。また都庁内の決裁について電子決定率は8月時点で94.6%を達成しだいぶ減りました。
ペーパーレスについては、今年度からコピー用紙の購入量について局別に調達上限を導入しており、総量規制みたいに予算段階で「ペーパーはこれだけ」と決めています。やはり部局ごとにちゃんと数値化して、それを月次目標に落としこんだのがよかったと思います。
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業務報告は「国語ではなく算数にして」
――数値化は業務を“見える化”しますよね。
宮坂氏:
自分の担当業務に関してチームに言うのは「数字を出して。国語ではなくて算数にして」と。国語の教科書のような文字の説明ばかりではだめで、算数の教科書みたいな文字と数字とグラフのバランスがいいと思っています。数字にすれば白黒の決着が早いのでできるだけ数字にするという働き方文化を作るのが大事ですね。数学ではなくて算数くらいでいいんです。ちょっとずつ数字が増えてきたと思いますね。
――行政サービスのDXに必要なのは職員の意識改革もあります。
宮坂氏:
変わったか?と言われるとまだまだですが、最近ユーザーテストのガイドラインを作り全庁に展開しました。例えばある行政サービスを立ち上げる際、これまでは納品されたものを受け入れ、自前でテストをしていました。しかしユーザーが利用するのですから、まずユーザーにテストしてもらって使い勝手をみてもらう。いくら仕様書通りに作っても使い勝手が悪かったら意味がないですよね。今は最低限職員同士でテストをするようにしていますが、今後は都民がテストに参加することをスタンダードにしていきたいです。
行政サービスは“永遠のベータ版”
――宮坂さんが以前おっしゃっていた“行政サービスは永遠のベータ版”という考え方は職員に定着しましたか?
宮坂氏:
少しずつそうしたいと思っていますし、デジタルサービスはそうなれると思っています。サービスを改善することはとても楽しいことです。自分がサービスを作ってお客さんに提供し、お客さんからフィードバックがあり、「ここを直して」と言われて直したら「ありがとう」と言われる。そうすると楽しくなりますし、デジタルのいいところはこのサイクルが速いこと。デジタルサービスは毎日変えることができるので、こうした楽しさの体験が積み重なっていくのはすごく大事だと思うんです。
――行政のワンストップ化はいかがですか?
宮坂氏:
都庁の行政手続のうち、件数ベースで98%に相当する主要な手続169件について、昨年度までに56件をワンストップ化済み、今年度中に46件をワンストップ化します。うちスマホだけで手続きできるのが30件あります。
これまでの申請システムは、各部局が1から作ったんです。しかし申請画面はどのサービスでも似たようなものになるので、SaaSを有効活用して作れば経費も削減できるし、慣れれば職員も自分で作るようになれます。
行政サービスで大切なのは“聞く力”
――宮坂さんは「聞く力も大切だ」とおっしゃっていましたね。
宮坂氏:
聞く力で言うと、すべての新しい行政サービスに必ずお問い合わせフォームを作るよう全庁に向けて動いています。お客さんからの問合せを受けるのは、“改善の栄養”だと思います。例えばバグが出たのを職員が見つけられなくても、お客さんがすぐに教えてくれるわけですよ。
来年度以降は各部局がばらばらにやっている問い合わせフォームを、共通プラットフォーム化する。いま都庁では前日全体で何件の問い合わせがあったのかわかりません。これを共通プラットフォーム化していくのは大きな挑戦になると思います。
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】