東京都庁のDXを主導する宮坂学副知事。ヤフー社長から転身して都庁のデジタル化に四苦八苦していた宮坂氏を待ち構えていたのは、新型コロナウイウルス対応だった。医療現場のデジタル化の遅れを見た宮坂氏は・・。任期の折り返し地点を超えた宮坂氏に、新たな東京都の“爆速”デジタル戦略を聞いた。
【画像】「もともとは予約せずに接種できる場というコンセプトだった」という宮坂氏
就任早々始まったコロナとのデジタルな闘い
――2019年9月に副知事に就任して都庁のデジタル化を主導してきたわけですが、その年明けには新型コロナウイルスとの闘いが始まりました。宮坂さんは東京都の「新型コロナウイルス感染症対策サイト」を立ち上げて一躍時の人となりましたが、その後医療現場のデジタル化は進みましたか。
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宮坂氏:
医療機関から保健所への報告はファックスが多いのですが、保健所から都へは基本的にファックスではなくHER-SYS(ハーシス)(※)を活用するようにしました。もし保健所からファックスで受信したとしても、すべて都では電子化して受信するので紙でのやり取りはほぼ無くなりましたね。去年は感染者数が一日100人を超えて集計作業がパンクしたのですが、いまは5千人になってもスムーズに集計できています。
(※)厚労省が開発した「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム」
自宅療養者、ワクチン接種のデジタル化は?
――自宅療養者に対するフォローは、当初は電話が多かったようですが。
宮坂氏:
自宅療養者の健康サポートはいまLINEを使っていて、利用率はおおむね6割です。残りの4割はLINEを使いたくないか使えない人ですが、スマホの普及率が7割程度なので、このくらいが上限かなと思います。ただ保健所からすれば電話をする回数が減っているので、業務がスムーズになったという話は聞いています。
――ワクチン接種に関して言うと、先日渋谷の若者の大行列が「相変わらずアナログ??」と衝撃だったのですが。
宮坂氏:
もともとは予約をせずにフラっと行って接種できる場を作るというコンセプトでした。しかし想定を超える人がきて、急遽オンライン抽選システムを作ることになり、そこから私も関わりました。LINEの予約システム自体はすぐ出来たのですが、テストをやっていたのでリリースまで約1週間かかりましたが。当初は一日8千件申し込みがあって倍率が約20倍でしたが、最終的には10倍程度に落ち着きました。
飲食店協力金の支払いをスピードアップ
――飲食店への協力金ですが、当初は「申請が面倒」、「なかなか振り込まれない」といった声が多かったのですが、最近はあまり聞こえなくなりましたね。
宮坂氏:
いま協力金は事業者ベースで言うと約9割、店舗ベースで約8割は支給が済んでいます。書類審査完了から概ね1週間程度で支給できるようになりました。
ただ東京都では事業者数が42万4700件で、そのうち37万5900件が支給済みですが(9月14日現在)、それでも約5万件が処理できていないということなので悩ましいところです。
――協力金の支給についてスピードアップする手立てはありますか?
宮坂氏:
事業者ごとにIDがあるともっとスピードアップできるはずです。一番いいのは経済産業省のGビズID(※)を活用することだと考えています。しかしこのIDは法人単位で事業所・店舗単位ではないので、今後デジタル庁でもベース・レジストリ(※※)の議論の中でぜひ検討してほしいです。IDが整うと、すごくシンプルになってくると思います。
(※)法人が政府・自治体のオンライン申請に使うID
(※※)公的機関等が保有する個人、法人などの社会基盤となるデータ
そもそもデジタルは地方自治と相性が悪い?
――以前都民へのダイレクトな情報発信をしたいと、たとえばnoteでページをつくりました。
宮坂氏:
「シン・トセイ」というポータルサイトをWordpressというツールを使って職員が自らつくり、構造改革やデジタル案件はほぼすべてこちらに載せましたのでぜひ見てください。
都民へのデジタルサービスは氷山に例えると水面の上の部分で、その体積を大きくぴかぴかにしようとすると、水面下の部分、つまり制度や人事を変えないといけないんです。そこに取り組むのがシン・トセイです。
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――今後国と地方のデジタル化への期待は?
宮坂氏:
デジタルがうまくいかなかった理由の1つに“地方自治との相性の悪さ”があります。それぞれの地方が独自にシステムを作るのですが、デジタルは共通化、データ共有しなければ意味がないのです。
いま全国でデータの共有が出来ていないので、そもそも足し算が出来ない状態です。分析するにはまず足し算ができる環境を作らないといけない。ですから国としてデジタル庁が進めようとしていることに、東京都はいち早くキャッチアップするつもりです。ただその際はデジタル分野に“東京モデル”は要りません。“日本モデル”1つでいいと思っています。
世界人口の6割が住むデジタル“新大陸”
――今後さらにDXを進めるにあたり、若者や子どもについてどんな考えがありますか?
宮坂氏:
これからデジタルの影響を最も受けるのは子どもや若い世代です。東京都が設置している有識者会議はどうしても50代以上が多くなりがちです。多様性の観点からも40代、30代、20代の人を一定の比率で入れるべきだと思っています。
――DXで未来は広がりますね。
宮坂氏:
世界にデジタル空間という新大陸が見つかったんです。しかもそこにいま世界人口の60%が住んでいる。そこではこれまでのやり方でなく、すべてゼロベースで始めればいいと思うんですよね。医療も教育もそうです。多分デジタル庁もそう考えていると思います。
行政は民間企業以上に“再現性”が大事ですよね。ちょうど副知事の任期の折り返し地点に来たところですが、自分のような任期型のデジタル人間が辞めたら元に戻るというのは、ただかき回しただけになってしまう。改革は属人化すると再現性がなくなるので、組織をつくるのが1番大事です。その上で制度のイノベーションですね。
――ありがとうございました。
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】