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29日に投開票が迫った自民党総裁選は最終盤に入った。各陣営の選挙戦の変化を追った。

【画像】自民党総裁選、4候補の戦いに変化は

河野陣営:揺れ動いた2週間 持ち味発揮できるか

発信力を強みとする河野規制改革相だが、今月10日の出馬会見では、「異端児が変身した」「マイルドになった」と皇位継承のあり方や原発政策に関する持論を封印したことが話題となった。「河野は変わった」と重鎮議員からは好感触だったものの、本来の持ち味を封印する形で選挙戦を始めることとなった。

その後、石破元幹事長・小泉環境相との「小石河」連合を前面に出す作戦を展開し、さらに農水相経験者の森山国対委員長と小泉環境相という異例のコンビで、農業団体に協力を要請。陣営の勢いが増すにつれ、河野氏自身の発言も従来の「歯切れの良いもの」へと変化した。

告示日の17日以降に行われた4候補での論戦でも、よどみのない受け答えをする一方で、テレビ出演時には質問形式を巡って、「こういう無責任な質問はよくない」と回答を拒否する場面もあった。また、政策立案を巡って「自民党の部会でギャーギャー言うよりも…」と党を軽視した発言をしたことで、党内からの反発を呼んだ。

こうした言動によるマイナスイメージからの回復を狙い、河野氏周辺は「謙虚さが大事だ」として、河野氏に堅実な答弁を心がけるよう指摘。河野氏もそれに応じて、23日の討論会では、波紋を呼んだ年金改革案について「様々な選択肢をみて皆で決めるのが大事だ」と議論の必要性に軸足を変えるなど柔軟な姿勢に転じた。さらに自身の発言についても「ギャーギャーというのは不適切で、取り消したい」と陳謝した。

総裁を目指す戦いの中で、揺れ動いた河野氏。

河野氏は24日、陣営の会合で「暴走しているとか、やりすぎとか、色々なことがあったかもしれない。常に私が正しいとは思わないし、もっといい案があるかもしれない。しかし、これからの日本を考えた時にどうしても議論のテーブルに乗せなければいけないものはお示しする」と語った。

持ち味である「歯切れの良さ」を、反発を受けることなく発信することができるかが、勝負のカギを握る。

岸田陣営:惨敗の反省活かした地道な戦い

先月26日にいち早く立候補を表明した岸田前政調会長は、当初から惨敗に終わった去年の総裁選の反省を生かしながらの選挙戦を展開した。前回課題となった党員や地方組織による「地方票」の獲得拡大を目指し、岸田氏は業界団体への訪問や地方議員や組織とのリモート対話を他候補に先んじて実行。一日当たり3、4回地方団体との意見交換をこなしている。さらに「投票に行かない層の掘り起こしがポイントだ」(岸田氏周辺)として、終盤戦も電話での支持拡大の呼びかけやSNSでの発信を強化することにしている。

世論調査で「自民党の新しい総裁にふさわしい人」で河野氏に大きく水をあけられるなど、岸田氏は知名度では苦戦している。しかし、奇をてらうことなく、準備していた政策を着実に訴える。岸田陣営の幹部は、テレビ出演や討論会を重ねるごとに「岸田氏の政策が際立ってくる」と胸を張る。

議員票については、 中盤情勢では自派閥を中心に3割超を固めている岸田陣営は24日、選挙対策本部を開き、改めて「1回目の投票で過半数が取れるように行動すること」を確認し、陣営の引き締めをはかった。出席者は現状について「堅調にやっているかなという感じだ」としているものの「今回の総裁選は派閥ごとで動いていないので、支持がふわっとしたことにならないように、一つ一つ着実にやっていく」と最終盤での議員票の動向の変化に警戒を強めている。

高市陣営:独自の外交路線に加え保守層以外への浸透狙う

保守層を支持基盤とする高市前総務相は、外交面で他候補と一線を画してきた。総裁選最中の20日、台湾・蔡英文総統とオンラインでの会談を行い、安全保障を含む日台関係について意見を交わした。会談の中で高市氏は、蔡総統から“台湾のTPP参加への支援”を求められ、「TPP参加の前提となる諸問題を解決することも含めて、日本は参加を支持し、それに向けてできる限りの支援をしたい」と応じるなど、高市氏は外交面で独自の存在感を発揮している。

一方で「生活に寄り添う所を上手く出していきたいと思う」(高市陣営議員)と支持拡大に向けて内政の発信を強めている。「令和の省庁再編」を掲げる高市氏は、22日、「こども庁」を巡って、子どもの貧困や虐待の原因に親の所得の低さと行った労働問題が関わると指摘し、総合調整が必要として「子ども家庭庁」の設置を検討すべきだとの考えを示した。24日にはコロナ禍で苦しむエンタメ・音楽業界の支援検討のため、デーモン閣下ら芸能人と相次ぎ面会した。総裁選勝利に向けて、保守層以外への支持の拡大を狙う。

他陣営が「高市さんの後ろには安倍さんがいるから」と警戒するように、党内に影響力を持つ安倍前首相の支援を得た高市氏の動向は、最終盤に入った総裁選全体に大きな影響を与えている。

野田陣営:ぎりぎり出馬も焦り見られず メディア通じて直接訴え

他陣営よりも出馬表明が遅れた野田幹事長代行は挽回に向けて、国会議員の事務所などへの挨拶周りなどを急ピッチで行っているが、野田陣営は、無派閥の議員が多いこともあって、支持拡大に難航している。

しかし、陣営内には焦りは見られず、むしろ牧歌的ともいえる雰囲気がある。これは全国の党員への支持拡大に重きを置いていることが影響していると見られる。陣営幹部が、野田氏に対して「とにかく取材は断るな」とアドバイスをしており、有名ユーチューバーと対談するなどしてメディア露出を増やし、自身の政策を直接訴える戦略をとっている。

野田氏は23日のインターネット番組で、総裁選の当選者の見通しについて、「私以外の誰かなのだろう」と発言し「敗北宣言か」と話題となった。しかし、翌24日のラジオ番組では「撤退は絶対にない」とした上で「みんなに怒られた」と明かした。

野田氏本人が「遅いスタートだが、動けば動いただけ大勢の自民党を超えた人との連帯を感じている」と総裁選の手応えを話すように、陣営からは総裁選を通じて、候補者同士が政策論争をすることで、国民に議論を促すことの重要性を唱える声が出ている。党内からも野田氏の出馬は「自民党の幅の広さを見せる良い機会になった」と評価する見方も出ている。

野田氏の主張する政策が理解を得られ、どこまで票を伸ばせるか注目される。

(フジテレビ政治部)