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<租税回避と劣悪な労働条件が問題視されるなか、空気を読まないコメントに怒りが集中している> Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏は20日、かねてから予告していた宇宙旅行を無事に完了した。ベゾス氏は民間宇宙開発企業のブルー・オリジン社を立ち上げており、今回の飛行は同社が製造した弾道飛行ロケット「ニュー・シェパード」によって実現した。 ニュー・シェパードはテキサス州の発射拠点から打ち上げられ、ベゾス氏と同乗者ら計4人が搭乗したカプセルが発射から約2分後に切り離された。カプセルは引き続き上昇を続け、ベゾス氏を海抜高度100キロ付近まで運んだ。この高度は大気圏と宇宙空間を隔てる「カーマン・ライン」が設定されており、宇宙のはじまりと認められる高さだ。 搭乗者たちは約3分間という束の間の無重力状態を楽しんだのち、テキサス州内の砂漠地帯へと帰還している。飛行時間は合計で約10分間だった。同じく富豪で英ヴァージン・グループ創業者のリチャード・ブランソン氏に9日差で先を越されたものの、無事に宇宙旅行を完遂した形だ。 しかし、一大プロジェクトの成功は、ベゾス氏自身の謝辞によって後味の悪い幕引きを迎えることとなる。着陸後に取材に応じたベゾス氏は、ブルー・オリジン社のスタッフと発射場の地元に感謝の言葉を述べたうえで、「Amazonのすべての従業員と、Amazonのすべての顧客にも感謝したい。なぜなら君たちがこのすべての代金を支払ったのだから」と発言した。このコメントが波紋を拡げている。 ・参考動画:問題の発言は1分10秒ごろから You guys paid for all this’: Jeff Bezos thanks Amazon staff, customers 不満再燃の事態に 「脱税の記念碑」「富豪の遊び場」 ベゾス氏はここ数年間、個人で所有するAmazon株のなかから年に10億ドル相当を売却し、ブルー・オリジン社の運営資金に充ててきた。前述の発言には資金源を支えたAmazonの従業員と利用者に謝意を示す意図があるとみられるが、同社の状況を鑑みれば配慮を欠いていたことは明らかだ。 巨額の利益をあげるAmazonだが、同社の租税回避への風当たりが日増しに強まっているほか、倉庫労働者や所属ドライバーなどを搾取的な労働条件で酷使しているとの問題が指摘されている。米フォーチュン誌は、労働者が食事を摂れなかったりペットボトルへの用足しを迫られたりといった現状を紹介し、年間の離職率が150%に達していると報じている。 発言を受け、複数の議員らが批判の姿勢を明らかにした。米民主党のラシダ・タリーブ下院議員はTwitterで「60年前、私達は一丸となって宇宙に行った。今日の悪趣味な見世物は、脱税と不平等の記念碑である」と非難している。 ヴァージン・グループのリチャード・ブランソン氏と飛行日程が近く、富豪による宇宙旅行が相次いだことも、市民感情の逆撫でにつながったようだ。米ABCニュースは、かつては宇宙飛行が「人類の卓越した技量とアメリカの創意工夫の頂点として敬愛されていた」としたうえで、ここ数週間の出来事によって「超大富豪の数ある遊び場のひとつに過ぎず、足元の地球で連綿と続く根強い不公正を思い出させる存在」に成り下がってしまった、と嘆く。 ===== ベゾス氏の出発前には、飛行に反発する署名活動も話題となっていた。「億万長者は地球にも宇宙にも存在すべきでない。しかし後者を選んだのなら、そこに留まるべきだ」と主張するキャンペーンは、オンラインで19万筆を超える賛同を集めた。かねてから不平等の象徴とも見られていた宇宙飛行プロジェクトに、今回の「君たちが払った」発言が決定的な悪印象を上塗りする形となった。 将来への道拓く、社会貢献の一面も 高まる批判の一方でベゾス氏自身は、今回のプロジェクトが社会に一定の寄与を果たしたと自負する。米CNBCは、「彼の見解によれば、今日行われている業務は将来の世代が宇宙で活動できるよう礎を築くものであり、『この地球における問題を解決する』ものだ」と伝えている。将来世代への寄与を象徴するかのように、同乗したオリバー・デーメン氏は18歳と若く、宇宙飛行の最年少記録を更新した。 加えて、男女平等の推進を象徴的するフライトともなった。今回の宇宙飛行の同乗者のひとりに、82歳のウォーリー・ファンク氏がいる。ファンク氏は1960年代に女性の宇宙飛行士を選抜する非公式のプロジェクトに参加し、厳しい訓練を経て、後に「マーキュリー13」と呼ばれる13名の候補生に抜てきされた。しかし、宇宙飛行士に女性は不適切だとの判断から計画自体が中止され、13名全員にとって宇宙飛行は叶わぬ夢となっていた。 ・参考動画。ファンク氏のハグのシーンは1分20秒ごろ この投稿をInstagramで見る Jeff Bezos(@jeffbezos)がシェアした投稿 ベゾス氏は「これほど長く待った人は他にいない」と述べ、ファンク氏をフライトの「主賓」として特別枠で迎えている。同社初の宇宙旅行に招待すると告げられたファンク氏は、無言で満面の笑みを浮かべ、ベゾス氏を力強くハグした。今回の搭乗でファンク氏はマーキュリー13で唯一宇宙飛行を実現した女性宇宙飛行士となったほか、宇宙飛行の最年長記録を更新している。 ベゾス氏の宇宙旅行は、社会貢献と見るか、本来納税すべきだった資金で豪遊していると見るかで、随分と評価は変わることだろう。民間の宇宙開発という意味では大きな偉業だったからこそ、少なくとも「君たちがこのすべての代金を支払った」発言は、もう少し言葉を選んだ方が良かったのかもしれない。 ===== ・参考動画:問題の発言は1分10秒ごろから You guys paid for all this’: Jeff Bezos thanks Amazon staff, customers ・参考動画:ファンク氏のハグのシーンは1分20秒ごろ この投稿をInstagramで見る Jeff Bezos(@jeffbezos)がシェアした投稿