「ソーラーシェアリング」で農業&発電
7月中旬、経産省の有識者会議で、2030年に新たな発電所を作った場合のコストについて、これまで最も安いとされてきた原子力よりさらに太陽光が安いという試算が示された。
山が多い日本では、ソーラーパネルの設置に適した土地が少ない事が課題だが、農業と太陽光発電を同時に叶える新たな形に注目が集まっている。
ソーラーシェアリングを軌道にのせた農家があると聞き、東京都心から車で1時間の千葉市緑区にある農場「つなぐファーム」を訪ねた。
丸々と張りがある、美味しそうなナスの収穫が始まっている。ナスの他、レタス、キャベツなどを栽培している畑をよく見ると、格子状の影が落ちている。
安宅晃樹アナ:
(畑の)上にあるのは何ですか?
千葉エコ・エネルギー 馬上丈司代表取締役:
太陽光パネルです。畑の上で太陽光発電でエネルギーを作るソーラーシェアリングという取り組みをしています
同じ土地で農業と太陽光発電を同時に行うソーラーシェアリング。
この農場では、1ヘクタールの農地に2826枚のパネルを設置し、一日を通して均等に作物に日が当たる設計になっている。太陽光パネルが適度に日差しを遮ることで、土の水分が保たれ、作物の日焼けを防ぐことにも繋がるという。
発電収入は農業の8倍以上・・・ 一方で課題も
一方で発電した電気は、大部分を電力会社に売却。残りは蓄電池に貯め、農作業で使う草刈り機や小型電気自動車などに使用している。
この農場では、農業収入およそ300万円に対し、電気を売って得られる収入はその8倍以上のおよそ2500万円。再生可能エネルギーを使って農業を継続できる上に、安定した収入が得られるというメリットがあるという。
ソーラーシェアリングは、2013年に農水省が農地での太陽光パネルの設置を認めて以降、急速に導入が加速。現在、全国およそ2000カ所で設置されているが、その一方で課題もある。
馬上さんが太陽光パネルの建設にかけた金額はおよそ1億5000万円。
実際、太陽光パネルの設置には多額の費用がかかり、その初期費用を回収するためには、最低でも10年程度 事業を継続する必要があるという。
ソーラーシェアリングが導入されているのは、国内の農地全体約440万haのうち、わずか0.01%(※2018年時点)。
しかし「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」の試算によれば、これを5%まで引き上げることができれば、日本国内で発電される電力量の20%に相当するという。
6月に政府がとりまとめた脱炭素社会に向けたロードマップでも、農業など一次産業と再生可能エネルギーの組み合わせは、地域の社会や経済と共生できる在り方として期待が示されている。
千葉エコ・エネルギーの馬上丈司さんは「エネルギーも食料も確実に確保していかなきゃいけない。ソーラーシェアリングはそれを両方同時に達成できるところに、すごく価値があると思う」と話す。
取材後記:
太陽光発電は、エネルギーの地産地消とも言われ、地域内で循環させることも出来れば、経済的にも恩恵が大きいとされている。
一方で、それはその土地に暮らす人の生活があってこそ。太陽光発電の強引な導入によって、地域の方が不安に感じたり、地元で愛される景観が破壊されたりすることのないよう、しっかりとしたルール作りと丁寧な情報発信が求められる。
(取材:フジテレビ 安宅晃樹アナウンサー・環境省担当記者)