米シンシナティ大学は、火星の二酸化炭素からロケット燃料のメタンを生成する技術を開発中だ。実現すれば、有人火星探査ロケットに搭載する燃料は行きに必要な量だけで済み、地球上では気候変動の原因となる温室効果ガスの削減が期待できる。研究結果は2021年9月6日付けで、『Nature Communications』に掲載されている。
もともと化学エンジニアとして自動車向け燃料電池を研究していたJingjie Wu助教は、10年前から二酸化炭素の変換に取り組んでいる。「多くの国が、二酸化炭素が社会の持続可能な発展にとって大きな問題だと自覚した。つまり、カーボンニュートラルを達成する必要がある」と語る。
二酸化炭素からのメタン合成には「サバティエ反応」を利用する。この反応は、すでにISS(国際宇宙ステーション)の環境を保つために、宇宙飛行士の呼気から二酸化炭素を除去する生命維持システムに採用されている。
研究チームは、サバティエ反応におけるメタンの収量を高めるため、グラフェン量子ドットをリアクターの触媒として採用した。二酸化炭素を高次炭化水素や含酸素添加剤に変換する金属触媒としては、銅が良く知られている。しかし、銅ベースの触媒は、選択性に課題があるという。研究チームが開発したグラフェン量子ドットは、二酸化炭素をメタンに直接変換できる高い選択性と生産性を同時に備えている。
このプロセスは気候変動の緩和に役立つだけでなく、副産物として燃料を生成するという大きなメリットを備えている。生産性も10年前に比べて100倍以上向上しており、今後10年で多くのスタートアップ企業が生まれて商用化が進む可能性もある。太陽光や風力といった再生可能エネルギーと組み合わせると、実用化の期待がさらに高まる。現状捨てられている余剰な再生可能エネルギーを化学物質として蓄えることができると、Wu助教は語る。
さらに、Wu助教は人類が火星に立つ日も近づいていると確信している。現在の技術では、火星行きロケットに往復分の燃料を搭載する必要がある。火星の大気の大部分を閉める二酸化炭素を使って、現地で燃料を合成できれば、ロケットに積む燃料は片道分で済む。Wu教授は、この技術を「火星のガソリンスタンド」と表現している。
「将来は、他の燃料も必要になるだろう。二酸化炭素からメタノールを生成して、そこから別の材料を生産することもできる。そうすれば、人類はいつか火星に住めるかもしれない」と期待を込めている。
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