イッカクという生き物をご存知ですか?額から長い角のようなものが生えた不思議な海の生き物です。
その長い角が印象的なことから「海のユニコーン」と呼ばれることもあります。イッカクという名前も漢字では「一角」であり、とにかく「角」のイメージが強いイッカクですが、実はあの「角」は角ではないことをご存知でしょうか?
本記事では、イッカクの生態や特徴的な額の「角」について詳しく解説していきます!
目次
- イッカクの生態
- イッカクの角は何でできているのか?
- イッカクは対人ストレスで脳を損傷することもある
- イッカクが見られる水族館
イッカクの生態
イッカクは哺乳類で、イルカほどの大きさではありますがクジラの仲間、イッカク科イッカク属に分類される唯一の動物です。
同じイッカク科の生き物ではイッカク科シロイルカ属のシロイルカがいます。確かに、イッカクとシロイルカは体の形がよく似ていますよね。
生息地は主に北極海で、カナダ北西部のランカスター海峡には世界のイッカクの4/3が分布しているとも言われています。
イッカクは生息地が非常に限られていて、観察も難しく、その一角獣のような幻想的な見た目も手伝って19世紀までは伝説の生き物のように扱われてきました。近年その生態が明らかになってきたものの、まだまだ謎が多い生き物です。
イッカクの特徴的な長い角ですが、実は牙が発達したもので、上唇を貫いて額から生えています。
牙が角のように長くなるのはオスだけの特徴でメスにはほとんどありません。オスが複数のメスを引き連れて群れを為す、ハーレムのような形式で暮らしていて、長い角はメスを勝ち取るために使用すると言われています。
長い角以外はおっとりした印象の見た目ですが、実は非常に俊敏で、タラなどを主食にしています。哺乳類でありながら潜水も得意で、同じ大きさのイルカは5~10分ほどしか潜れない中、イッカクは20~25分ほど水の中で過ごすことができるそうです。
イッカクの角は何でできているのか?
先ほども少し触れましたが、イッカクの「角」とされる部分は本当は「牙」、つまり歯です。
その骨格を見ると、左下の犬歯が伸びたものであることがわかります。歯が上唇を突き破り、出てきた部分が角のように見えているのです。
ごく稀に、1本ではなく両側の犬歯が伸びて二本の「角」を持つイッカクもいることが報告されています。
イッカクの角の組成は一般的な「歯」とほぼ同じなのですが、唯一異なるのが「エナメル質がない」という点です。
エナメル質は歯の一番外側に当たる部分で、歯の神経が直接外界に触れないようにする役目を担っています。虫歯でエナメル質に傷がつくと、歯がしみるようになるのはこのためです。
イッカクの「牙」はこのエナメル質がないので、神経がむき出しになっているような状態と考えられています。
角の使いみち
イッカクの角の使い道については色々な説があり、まだはっきりとはわかっていません。
前述のようにイッカクの角は神経がむき出しの状態となっているため、塩水の濃度や獲物の臭いなどがわかるセンサーとなっている可能性があります。
イッカクはシロイルカと同様、音波を出して対象物の位置を把握する「エコローケーション」が使える生き物ですので、角がそのアンテナとなっているという説もあるようです。
また、イッカクの角にはドリルのようなネジ状の構造をしていることから氷に穴を開けるためにドリルとして使う説もあります。
とはいえ、上記のような生きていく上で大切な役割ならメスに角がないことに説明がつきません。
このため、オス同士がメスを取り合って争う際に、その長さや突き出す角度などで争うという説が最有力となっています。
また、オスの顔には角によるものと考えられる傷がついていることが多いことから長さ比べだけではなく、武器として用いられているのではないかと推測されています。
角の値段はおいくら?
まっすぐに長く延びるイッカクの角は他の動物と異なる独特の形状であるため、古くより様々な用途で珍重されてきました。
中世ヨーロッパではイッカクの角を解毒作用があると言われる「ユニコーンの角」として売ることが横行したほか、東洋にも「竜の角」として販売されたり、漢方薬の材料として用いられたりしたそうです。
そのような事情から乱獲され個体数が減ってしまったイッカクは、現在ワシントン条約によって保護されており、輸出国の政府が発行する許可書がある場合のみ、その角の取り引きが許可されています。
現在の日本においてイッカクの角は装飾品としてわずかに販売されています。根元から1本丸々の状態なら長さにもよりますが30~100万円と非常に高額です。値付として使用される薄くスライスされた状態のものでも1万円以上の値が付いていました。
イッカクの角は象牙などと同様、一度折れたらもう生えてきません。また、非常に俊敏なイッカクの角だけを狙うことは難しいため、角の流通はそのまま個体数減少につながるでしょう。角を狙った密猟がこれ以上増えないことを祈るばかりです。
イッカクは対人ストレスで脳を損傷することもある
密猟はイッカクにとって明確な脅威ですが、それ以外にもイッカクが人間と関わることによって憂慮される事態が引き起こされることが、ある研究により明らかになりました。
近年、地球温暖化によってイッカクの生息地の氷の融解が進んでおり、貨物船舶の移動や地震探査・石油採掘などの人的活動がイッカクの身近でも起こるようになりました。
このような場面に際したとき、イッカクは素早く潜水し逃避しようとしますが、そのときの潜水は普段のものとは違い、体に大きな負担がかかるというのです。
通常、イッカクが潜水する際には体の中に蓄積された酸素をうまく使いながら泳いでいきますが、人的活動に接したときは蓄積酸素をうまく使うことができず、心拍数も異常に上がってしまうそうです。酸素が体にうまく行き渡らないと、脳を始めとする様々な臓器が損傷する恐れがあります。
イッカクのこのような潜水は、人的活動と接したときでなくシャチなどの捕食者と出会ったときにも起こるといいますが、シャチから逃げることはできても、巨大な船舶や超音波探査が逃げ切るのは容易なことではありません。これ以上イッカクの個体数を減らさないためにも人間側からの線引きが必要なのかもしれませんね。
イッカクが見られる水族館
ユニコーンのように幻想的な姿を持つイッカク、実物を見てみたいと思う方も多いでしょう。
しかし残念ながら日本の水族館では、イッカクは飼育されていません。それどころか世界中を探してもイッカクを飼育している水族館はありませんでした。
イッカクは北極の非常に冷たい海で生きているため、生育環境を再現するのが難しい上、角を含めると8mほどと非常に大きいため、飼育することは不可能なようです。
しかし実は、イッカクの角だけなら展示されている水族館が日本にもあります。
兵庫県の城崎マリンワールドで角の展示が行われているほか、三重県の鳥羽水族館ではイッカクの角に触れる機会もあるのだとか。イッカクは角だけでも大人の身長ほどの長さですから、なかなか迫力がありそうですね。
まとめ
いかがでしたか?イッカクの角が実は歯だったなんて驚きですよね。
角の使い道を含めて、まだまだその生態には謎が多いようです。
密猟や地球温暖化による人との関わりで、個体数が減っているとも言われるイッカク。人間の存在がこれ以上イッカクのストレスにならないよう保護していかなければなりません。
参考文献
ユニコーン
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6%E3%83%8B%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%B3#%E3%83%A6%E3%83%8B%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%81%AE%E8%A7%92