「テストステロン」は、筋肉や骨格を成長させるためには欠かせない男性ホルモンです。
近年では、テストステロン値が男性の活力や前向きな気持ち、決断力などに影響を及ぼすと考えられています。
そして新しく、オーストリア・ウィーン大学(Universität Wien)心理学部に所属するハナ・クトリコヴァ氏ら研究チームは、テストステロンが負け続けてもあきらめない力を与えると報告しました。
テストステロンを投与された男性は、自分の実力が発揮されにくい戦いでも、競争心を維持できたのです。
研究の詳細は、2021年6月付の学術誌『Psychoneuroendocrinology』に掲載されました。
目次
- あきらめたくなる戦い
- テストステロン値が高いと負け続けてもあきらめない
あきらめたくなる戦い
男性は、自分の実力を発揮できる戦いでは、仮に負けたとしても何度でも立ち向かう傾向があります。
例えば、勝負の内容がレーシングゲームであれば、その勝敗はほぼ100%本人の技量によります。
そのため「自分が頑張って技術を向上させれば、相手に勝てる」と感じ、負けたとしても挑み続ける意欲を保てます。
対照的に、自分の力があまり発揮されない状況では、そこまで勝負に固執しないと言われています。
例えば、ブラックジャックやポーカーといった運の要素が大きいトランプゲームがこれに該当します。
「自分が頑張れば勝てる」とは限らないため、勝負で負け続けると早々にあきらめてしまうのです。
さて研究チームは、自分の実力が発揮されにくい「あきらめたくなる戦い」に男性ホルモンのテストステロンがどんな影響を与えるか実験することにしました。
テストステロン値が高いと負け続けてもあきらめない
実験には88人の男性が参加し、テストステロン150mgもしくは偽薬(プラセボ)が投与されました。
そして彼らは「ボタンを押して電球を相手より先に点灯させる」という簡単なゲームにチャレンジしました。
ただしボタンを押すと確率で電球が点灯するようになっており、その確率の違いで実力を発揮しやすいゲームかそうでないかが分かれます。
ほぼ100%の確率で点灯するのであれば、実力が反映されやすい「単純な早押しゲーム」になります。
対して50%以下の確率で点灯するような場合は、実力が反映されにくい「運ゲー」になるわけです。
そして次の4つのグループに分けられました。
- 実力を発揮しやすいゲーム+テストステロン
- 実力を発揮しやすいゲーム+プラセボ
- 実力を発揮しにくいゲーム+テストステロン
- 実力を発揮しにくいゲーム+プラセボ
グループに関係なく参加者全員には、「対戦相手のいるゲーム」だと伝えています。
ところが実際の相手はコンピュータであり、参加者が必ず負け続けるように操作されていました。
そしてそれぞれのグループで、男性たちが勝負にどれだけ挑み続けるか調査したのです。
その結果、③の男性は、④の男性に比べて2倍の時間をゲームに費やしました。
さらに③のゲーム時間は、①②の男性のゲーム時間と同等だったのです。
通常であれば、実力を発揮しにくい③④の男性両方がすぐにあきらめてしまうはずですが、③の場合はテストステロンの投与が、その「あきらめやすい状況」のマイナス効果を打ち消したと言えますね。
また①②のゲーム時間が同等だったことから、テストステロンは「いつでも持続力をアップさせる」ものではなく、「モチベーションの低さを改善する」ものだと考えられます。
研究チームは、今回の結果をリハビリなどに役立てられると考えています。
リハビリは地道な反復トレーニングが求められるにもかかわらず、その成果がすぐには表れません。
そのためテストステロンによる「あきらめない力」が助けとなるのです。
また一般的には、食事や生活習慣でテストステロン値をアップさせられると考えられています。
逆境や地道な作業が必要な場面でも「あきらめない男」でいたいなら、テストステロンを意識していると良いのかもしれませんね。
参考文献
Testosterone encourages persistence in the face of continued defeat, according to a placebo-controlled experiment
元論文
Not giving up: Testosterone promotes persistence against a stronger opponent
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0306453021000883#!