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NHKの大河ドラマ『青天を衝(つ)け』のVFX映像の制作過程や裏話、現場の様子などをご紹介するシリーズ企画。17回目となる今回はコロナ禍で行われたパリ編の撮影について解説したいと思います。


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コロナ禍で実現したパリと日本のリモートによるVFX制作、大河ドラマ『青天を衝け』

TEXT_『青天を衝け』VFXチーム(NHK

EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

[青天を衝け] VFX編 | 激動の幕末をダイナミックに描く舞台裏 | 青天を衝けの世界 | NHK

© NHK

ミッション<17>「現地入りできないなかでも、臨場感あるパリ編をつくる!」

CGWORLD vol. 277(2021年9月号)でも紹介していますが、大河ドラマ『青天を衝け』の第22回から第24回まではパリ編が描かれました。当初はパリでのロケ撮影を計画していましたが、コロナ禍により日本人スタッフの現地入りを断念し、2020年秋頃、まずは準備のために現地のVFXコーディネーターに入ってもらいました。

VFX制作で最も大切なことは、入念な準備と演出・撮影・照明・美術や各部との連携とコミュニケーションです。当時はまだリモートやオンライン打ち合わせに慣れていない状況で、海外とこの入念なやりとりをしなければいけませんでした。

国内における撮影も、実写プレートとCGカメラの位置合わせや照明合わせをするだけではなく、パリで撮影したプレートと日本で撮影するプレートとの整合性も考慮する必要がありました。そのため事前に最終的な画をVFXが主導・構成して進めていくことになりました。

今回、パリ編を描くにあたり、スタッフや役者は誰もパリには行けませんでしたが、あたかもパリに行って撮影したかのように、また、視聴者がパリを訪れたかのようなリアルな臨場感を届けるために、どのように準備したかをご紹介したいと思います。

パリ編でのエピソードとして、VFXでは大きく分けて以下2通りの方法で撮影・制作しました。

【日本のみで撮影】※通常のVFX制作ワークフロー
・凱旋門
・パリ万博

【パリ現地実写撮影+日本役者グリーンバック撮影】
・ナポレオン3世への謁見
・アンヴァリッド(廃兵院)
・証券取引所
・セーヌ河岸



▲左上、証券取引所、左下からナポレオンの墓、セーヌ河岸、右上から凱旋門、パリ万博、ナポレオンの謁見

今回は通常のVFXフローより少し複雑な2つめの、【パリ現地実写撮影+日本役者グリーンバック撮影】の進め方について説明します。



▲パリVFX撮影制作フロー

①最初に相談を受けたのは、「コロナ禍でパリに行けないかもしれない。行けないことを想定して行ける案と行けない案で並行して考えたい」ということでした。VFXチームではこの2案を並行して考えつつ、圧倒的に困難が考えられるパリロケなし案の比重を大きくし、設計し始めました。一番の懸念点は現地で実写撮影する際、現地にVFXスタッフが行けないなかで、VFX素材や必要情報をどう取得するかということでした。これらの情報があるかないかでは、リアルなVFX表現のクオリティが圧倒的に変わってきます。

そんな中、2020年秋には「日本からのスタッフの渡航はなし。パリ現地クルーで撮影し、日本では役者をグリーンバック撮影する」ことに決定しました。

②そこで、パリ編を表現するための資料を集め、取材や考証を進めました。

③まず、どう表現したいのかを日本側とパリ側とで共通認識をもつために、画コンテを作成しました。ここでは通常のフローとちがい、「VFXでの制作が可能か、どのように撮影したらパリに渋沢栄一たちが居るようなリアルな画をつくれるか」ということをVFX主導で検討していきました。



▲パリ撮影画コンテ

④懸念点でもあった現地でのカメラデータなど、VFX必要情報の取得は現地VFXコーディネーターを介して解決しました。最初のロケハンと撮影が2020年10月でしたが、今後のロックダウンや台本上の季節感を考慮して、VFXチームがブローニュの森やセーヌ河岸を先行してロケハン・実景撮影をしました。



▲ブローニュの森撮影素材



▲セーヌ撮影素材



▲サンルイ島HDRI



▲サンルイ島フォトグラメトリ。当初はVFXチームの中でLEDウォール+インカメラVFXでの撮影を検討していました

以下が、2020年秋のVFX先行実写撮影プレートで制作された第24回のブローニュの森のカットです。



▲ブローニュの森撮影プレート



▲ブローニュの森合成 


▲ブローニュの森VFXブレークダウン 

⑤2020年冬、現地シネマクルーも参加し、演出場所のロケハンと撮影許可などを進めていきました。また、同時にVFXとして必要な素材や撮影方法を議論していきました。


▲証券取引所。現地撮影クルーロケハン動画

パリ現地チームとの打ち合わせは、日本との時差の関係で夜か朝方になります。そのような中、打ち合わせを重ね、撮影設計をしていきました。



▲証券取引所VFX撮影シート



▲証券取引所プリビズ



▲証券取引所プリビズ


▲証券取引所多重合成カット

フランスの撮影現場ではスケジュールが限られているため、事前に入念に計算し、撮り進めていくことになります。日本からは現地の撮影ルールがわからないことが多く、現地シネマクルーやVFXコーディネーターに意見や状況を確認しながら進めました。

⑥2021年4月中旬、パリでの撮影が開始されました。当初は「リモートで日本から演出やVFXを確認しながら撮影してみるのはどうだろうか?」という案もありましたが、パリチームのスムーズな撮影を優先し、また、コミュニケーションと準備を重ね信頼関係を築いていたため、現地のクルーに全てお任せするということになりました。



▲パリ撮影メイキング

現地のVFXコーディネーターにより、日本でのグリーンバック撮影時に必要なHDRI、測量(建物のサイズ・カメラ位置・レンズ情報・照明の位置)、写真素材撮影、カラーチャート、グレーボールなど、ほぼ全てのカットでVFX必要情報と素材の取得をしています。



▲証券取引所 測量図面



▲証券取引所 撮影記録



▲証券取引所 写真素材



▲証券取引所 ポスプロ後処理確認

このように入念に準備設計し撮影されたパリ実写プレートは、この後、⑦日本で編集され、VFXチームの手元に来ます。通常の場合、この段階で実写プレートとCGカメラの位置合わせをし、VFX制作に入りますが、今回は日本でのスタジオ撮影が必要なため、再び3D空間上で実際のグリーンバック撮影時に配置するカメラ位置や画角を割り出します。また、照明の位置や方向、美術セットに必要なサイズと配置の指定をVFXチームから各部署に共有していきました。


※パリ編のVFX制作については「コロナ禍で実現したパリと日本のリモートによるVFX制作、大河ドラマ『青天を衝け』」の記事でも詳しく解説しています

この続きとなるパリ撮影VFX制作フローの国内撮影設計以降の工程は、次回「コロナ禍の中のリモート撮影とVFX制作 その2」で紹介します。今後もNHKの大河ドラマ『青天を衝け』のVFX技術をたくさん紹介していきますので、ぜひ放送をご覧ください。(『青天を衝け』VFXチーム)

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  • 大河ドラマ『青天を衝け』


    【放送情報】

    NHK 総合 毎週(日)夜 8:00~/[再放送]毎週(土)午後 1:05~

    NHK BSプレミアム 毎週(日)午後 6:00~

    NHK BS4K 毎週(日)午後 6:00~

    公式HP www.nhk.or.jp/seiten

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