生物の動きを模倣する技術は、バイオミメティクスとして、今やロボット開発の一つの主流となっています。
アメリカのエンジニアリング企業・Pliant Energy Systems(PES)はこのほど、バイオミメティクスを応用した水陸両用ロボ「Velox」を開発しました。
Veloxは、イカの泳ぎを模倣したヒレの動きによって推進力を生み出します。
従来のプロペラで動くロボットに比べて、エネルギー効率は3倍も優れているとのことです。
一体どんな動きをするのでしょうか?
目次
- プロペラに比べて「ヒレ」は利点がたくさん
プロペラに比べて「ヒレ」は利点がたくさん
海洋生物でプロペラを使っている種は(今のところ)知られていません。
専門家はこれについて、「既存の生物のボディプランからプロペラ状の器官を進化させるのが難しいからだろう」と指摘します。
また、プロペラは大きくなればなるほど、ボディへの搭載が困難になります。
実際の船体でも、プロペラが大きいほど喫水(水中にある船体の下面〜水面までの長さ)も増大し、海中の障害物にぶつかったり、引っかかったりするリスクが高まります。
そのため、最も巨大な船でもプロペラの直径10メートル程度に過ぎません。
一方で、海洋生物の多くが採用しているヒレやフィンは、プロペラのように幾何学的な制約を受けません。
より強い推進力を得るためにヒレを巨大化することもできますし、プロペラのように硬い必要もないのです。
むしろ、柔軟であるおかげで、海中の障害物と接触しても破損しにくくなります。
そして、このヒレを巧み使って泳ぐ生物の代表が「イカ」です。
水中でも雪上でもスイスイと移動できる
PESのエンジニアチームは、イカの波打つようなヒレの動きを模倣して、Veloxを開発しました。
ヒレの波状動作により、水中でも陸上でも自由自在に移動できます。
下が固い地面(氷上も含む)の場合は、左右のヒレをカーテンのように垂直に降ろして、タイヤ代わりにします。
少し柔らかい雪上の場合は、ヒレを水平に広げて、雪の中を泳ぐように前進します。
水中もこれと同じです。
また、水中ではヒレを翼のように動かすことで、潜水や浮上が可能になります。
こちらが、その様子です。
Veloxの主な用途としては、深海探査が予定されています。
従来の潜水ロボットは基本的にプロペラを採用しており、突出部がどうしても海底や岩礁にぶつかってしまい、機体が損傷することがありました。
しかし、Veloxのヒレは非常にコンパクトなため、障害物にぶつかるリスクも少なく、また柔軟であることから、仮に接触したとしても損傷しにくくなっています。
さらに、ヒレが生み出す推進力は、小型ボートに搭載されている一般的なプロペラの3倍のエネルギー効率に達するとのことです。
一方で、Veloxをアメリカ海軍研究局に見せたところ、「移動速度の改善と軽量化、および無線での遠隔操作を可能にしてほしい」と注文が入ったという。
確かに、現時点でのVeloxはケーブルにつながっており、移動範囲や動きもかなり制限されています。
元海洋生物学者で、同社CEOのベンジャミン・ピエトロ・フィラルド(Benjamin Pietro Filardo)氏は、次のように話しています。
「Veloxは、従来のプロペラ型潜水機に比べて、騒音が少なく発見されづらいという利点があります。
こうした点が改善できれば、軍事的な海底パトロールや地雷探知にも応用できるでしょう」
チームは現在、改善すべき点に加えて、Veloxの大型化や海流による充電システムの搭載にも取り組んでいるとのこと。
実用化にはまだ多くの問題をクリアする必要がありますが、改良次第で、さまざまな使い途が開けてくるでしょう。
近未来の水中車は、Veloxの移動システムを土台とするかもしれません。
参考文献
Cuttlefish-Like Robots Are Far More Efficient Than Propeller-Powered Machines
https://interestingengineering.com/cuttlefish-like-robots-are-far-more-efficient-than-propeller-powered-machines
Nature does not use propellers. So why do people?
https://www.economist.com/science-and-technology/nature-does-not-use-propellers-so-why-do-people/21806832