国内最大級のVR/AR/MRカンファレンス「XR Kaigi」が今年も開催されました。今年の「XR Kaigi 2021」はオンラインカンファレンス「XR Kaigi Online」(11月15日~17日)と、リアル会場での展示・体験会「XR Matsuri」(11月25日・26日)のハイブリッドで実施。XR Kaigi Onlineでは、3日間の期間中に50以上のセッションが行われました。
今回はその中から、11月16日に行われたアップフロンティアのセッション「『CFA』で実現するロケーションベースARの現在と未来」をレポートします。登壇者はアップフロンティア 代表取締役社長の横山隆之氏、同社システム開発部チーフの名倉丈治氏の2氏。セッションでは、同社のARコンテンツ開発ツール「CFA」(シーファ)の紹介と、CFAを使ってのコンテンツ開発手順が解説されました。
スマートフォンアプリからXRアプリまで幅広く開発するアップフロンティア
最初に登壇したのはアップフロンティアの代表取締役社長である横山氏。まずは自社紹介からセッションが始まりました。
アップフロンティアはスマートフォンアプリ、XRアプリ、TV系アプリなど、これまでに400以上のアプリを幅広く手がけてきた制作会社。XR事例では、国内外で大きな反響を呼んだVR耳かき体験「なごみの耳かき」や、VRセンシングアプリ「VR insight」、HoloLens向けのARボードゲームなどがあります。
(XR系アプリについてはOculus Rift DK1登場後の2014年から開発)
(研究開発事例として、HoloLensで動くARボードゲームも紹介された)
現地型ARの市場はまだまだこれから
続いてはXR市場動向、および現地型AR(ロケーションベースAR)について解説されました。
デロイトトーマツの調査によれば、日本国内におけるビジネスXRソリューション市場は2021年度で約300億円、2023年度で約600億円と、順調な伸びが予測されています。現時点でのVRとARの比率は約2:1で、産業分野では建築・医療・教育など、BtoBでの利活用が進んでいます。
(日本国内のビジネス向けXRソリューション市場は今後も順調に拡大の見込み)
一方で、セッションでのテーマである現地型AR(ロケーションベースAR)はまだ市場が立ち上がっておらず、これからの市場だと横山氏は言います。
現地型ARとは、実世界の各地点とARコンテンツが結びついた体験のこと。実世界を撮影したデータからデジタルマップを作成することで、あるAR体験を現実の特定の地点と紐づけることを可能にします。
現在では主に観光や施設案内のために利用されている現地型AR。今後ARグラスの普及やARメタバースの技術進展によって、ARコンテンツが我々の日常に浸透し大きなマーケットが開拓されていだろうと横山氏は指摘します。
(市場の拡大・成長にともない、現地型ARは日常生活でも活用されるだろうと横山氏)
現地型ARに特化した内製ツール「CFA」
続いてはアップフロンティアが提供するCFA(シーファ)の紹介へ。
CFAはアップフロンティアが開発したARコンテンツ内製ツール。ARコンテンツ開発に必要な基盤が含まれているため、ARコンテンツの開発をより高速かつ低コストで実現できるとしています。
https://www.youtube.com/watch?v=N64qLgr9yO0
(ARコンテンツ開発における開発工程をCFAで高速・低コスト化することができる)
セッションではまた、CFAを利用して開発された現地型ARの事例が紹介されました。CFAでは美術館・博物館でのARガイダンス、謎解き・スタンプラリーのようなエンタメコンテンツ、実在の街のブランディングなど、さまざまな用途のARコンテンツ制作が可能です。
https://www.youtube.com/watch?v=0Eb4oCb7aO8
(HoloLens 2を使ったAR宝探しの事例)
https://www.youtube.com/watch?v=2lp4YTriUv8
(表参道をARでインスタレーション。建物に沿ってAR広告などを出すことも可能)
さらに、CFAを活用した現地型ARの事例としてもうひとつ、「秋葉原 観光推進AR」の取り組み事例を紹介。同取り組みはアップフロンティアが他社と協力して今まさに進んでいるプロジェクトのひとつです。
秋葉原には、既に多くの魅力的な観光スポットがありますが、現地ツアーでは「見える場所まで行かないとそのスポットを紹介できない」という課題もありました。これに対して、既存のツアーでは伝えきれなかったスポットをARで補強することで、「新しい旅のカタチ」の創出を目指すとのこと。
(ARコンテンツ出現場所として、秋葉原UDX前や神田明神通り交差点が候補に上がっている)
(電動モビリティとの連動、遠隔でのAR体験共有など、将来を見据えた構想も)
AR体験ではナビゲーションのみならず、施設情報や秋葉原にふさわしいアニメ・ゲームのキャラクターなどを表示することで、よりディープな秋葉原を体験できるコンテンツも検討されています。
さらに将来的には、電動モビリティとARの融合、現地にいない人との体験共有、ARを使った宝探しなど、より多様なエンターテイメントの導入も検討しているとのこと。「秋葉原 観光推進AR」は2022年初春にリリース予定です。
CFAの開発環境構成
横山氏に続いて登壇したのは、同社システム開発部 チーフの名倉氏。セッションの後半では、CFAを用いたARコンテンツ開発について、技術的な側面から解説がなされました。
CFAは、ベースとなるUnity上に、UnityのAR開発専用フレームワークAR Foundation、そしてマーカーレス型位置合わせを実現するImmersalのSDKを含んだ環境構成になっています。
ARクラウドのImmersalが測定用ソフト大手のヘキサゴン社に買収 | Mogura VR
MoguraVR
(CFAの開発環境構成。Unityをベースに、AR FoundationのフレームワークやIMMERSALのSDKも含まれている)
ARコンテンツと現実空間との位置合わせには、主にGPSなどを利用したロケーションベースと、スマホのカメラ画像などを利用したビジョンベースがあります。
ビジョンベースにはさらにQRコードなどを利用するマーカー型、あらかじめ撮影しておいた風景の特徴点をキーにするマーカーレス型があります。CFAではAR FoundationとImmersalのSDKを併用することで、マーカー型とマーカーレス型の両方に対応しています。
Immersal SDKによるマーカーレス型の位置合わせ
Immersalアプリで現地撮影して生成したマップデータを専用のSDKに読み込ませることで、UnityでのAR開発に利用する土台にできます。これに加えて、ある程度の形状を把握できる3Dモデルをポータルサイトからダウンロードできるため、これをマップデータと重ね合わせることで土台としての精度を高められます。
また、Immersal SDKは、iOS、Android、Nreal、Magic Leapなど複数のプラットフォームに対応。ほとんどコードを変更することなく、さまざまなプラットフォームにアプリをビルドすることが可能です。
(Immersal SDKはシンプルで使いやすく、かつマルチプラットフォーム対応なのがメリットとのこと)
さらにCFAでは、位置合わせに関するプログラムをモジュール化。使用するVPSモジュールを切り替えることで、位置合わせの方法(マーカー型/マーカーレス型/位置合わせなし)を選択できるようになっています。
(CFAではひとつのコンテンツで位置合わせの方式を切り替え可能)
CFAでコンテンツ制作向けの機能
CFAの開発においては、コンテンツ制作を分業化し、デザイナーがインタラクティブなコンテンツを量産できる仕組みを作ることが求められていました。これを実現するために、いくつかの工夫が施されています。
(Unity、AR Foundation、Immersal SDKの上にCFA独自の機能が搭載されている)
例えばUnity Visual Scriptingの採用はそのひとつ。CFAは、ノード型のインターフェースを持ち、デザイナーがノーコードでコンテンツを作成することが可能です。
(CFA専用のカスタムノードを用意し、コンテンツ制作の効率アップ)
さらに、AR Foundationの最新機能(スライド作成の時点でAR Foundationの最新バージョンは4.1.7)を使いやすくするためのカスタマイズもなされています。例として、動的なオクルージョンを簡単にON/OFFできるようにすること、静的なオクルージョンのためのマテリアルやシェーダーを用意することなどが挙げられました。
(最新のAR Foundation 4.2.Xにも今後対応予定とのこと)
他にも、ひとつのアプリに複数のコンテンツが含まれることが多いのを踏まえ、1シーン=1コンテンツというわかりやすい構成や、コンテンツごとにVPSを設定できるようにすることなど、複数のコンテンツ管理をやりやすくするための工夫もなされているとのことです。
CFAを使ったコンテンツ制作の流れ
セッションの最後に、CFAを使った現地型ARのコンテンツ制作の流れが説明されました。
(1) 舞台となる現実空間の情報の採取
現地型ARのコンテンツ制作は、コンテンツを表示する予定の現実空間の情報採取から。最初はImmersal Mapperで現地を撮影し、周囲の風景の特徴点群及び大まかな形状の3Dモデルを生成します。
より精度の高い3Dモデルが必要な場合、LiDARスキャナーを使うことも。また、現地で撮影したデータ以外にも、国土交通省が提供するPLATEAU(プラトー)の都市3Dモデルや、航空写真などもあるとマップの精度がさらに上がります。
(まずは現実空間のデータ採取から。採取手段が多いほどマップの精度は上がる)
(2) Unityエディタのシーン上に現実空間を再現(土台作り)
土台作りは次のような手順で行われます。まずImmersalで取得した特徴点群をシーンに置きます。そこに同じくImmersalで生成された3Dモデルを重ね、さらに補強としてPLATEAUのモデルと航空写真を合わせます。精緻化が必要な場合は、LiDARスキャナーで生成されたモデルを重ねることもあるそうです。
なおCFAには、アプリを実行する際には使用されない、開発時にのみ用いられる3Dモデルや航空写真を自動的に削除する機能もあります(開発中は必要なデータのため、エディタ上でシーンを再生する際には削除されない)。その他にも、オクルージョン用の壁は自動的にマテリアルが変更され、見えない壁となることで静的なオクルージョンを実現するとのことです。
(3) 土台の上にコンテンツを作成
土台が整ったところで、コンテンツ作成が始まります。ここでは、従来のようなコードベースの開発と、Unity Visual Scriptingによるノードベースの開発を組み合わせて行います。
(4) Unityエディタ上で動作確認
開発中に頻繁に現地まで足を運ぶのは難しい場合が多いもの。そこでCFAには、現地に行かずとも現地でのAR体験をシミュレートしやすいような機能がいくつか搭載されています。例えば、Unityエディタ上ではVPSなしの状態でも実行可能なモードがあったり、キーボードやマウスによるカメラ操作ができる機能がそれにあたります。
(実際に現地に行かなくても動作確認ができるような機能が用意されている)
(5) ビルド/(6) ビューワアプリで実機動作確認
最終的にリリースされる完成版の現地型ARアプリでは、メインの体験コンテンツ以外にホーム画面や他の機能も付いているのが普通です。これに対しCFAでは、テンプレートのプロジェクトをビルドした段階では最低限の画面のみが実装されています。
これは顧客によって求めるホーム画面やアプリの体験フロー、UI/UXは異なりながらも、「ARコンテンツの部分だけを先に体験してみたい」という要望を考慮した結果だと解説。
ここまでコンテンツ制作手順をひと通り説明したところで、セッションは終了となりました。
著者: ” — [source_domain] ”