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2000年前の先住民は、オスのサケをメインに漁獲し、メスは逃していた
Credit: Thomas Royle et al., Scientific Reports(2021)

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人類は古くから、海や山の幸など「自然の恵み」によって命を繋いできました。

しかし、川魚のように豊富に存在する資源も乱獲が行き過ぎると、繁殖が追いつかずに枯渇し、失われてしまう恐れがあります。

では、海や川の魚に頼って生きていた古代人は、どうやってこの問題をクリアしたのでしょうか。

カナダの複数大学による共同研究チームはこのほど、北アメリカの北西部沿岸に数千年にわたって居住してきたツレイル・ウォウトゥス(Tsleil-Waututh)族と協力し、当時のサケ漁の実態を調査。

その結果、地元先住民は、オスをメインに漁獲し、メスの多くは獲らないことで、サケの枯渇を防いでいたことが示唆されました。

当時の人々はすでに、メスを獲り過ぎるとサケ漁が続かなくなることに気づいていたのでしょうか。

研究は、11月10日付けで学術誌『Scientific Reports』に掲載されています。

 

目次

  • PCR法から「オス鮭」ばかり食べていたことが判明
  • 「持続可能な漁獲システム」を目的としていた?

PCR法から「オス鮭」ばかり食べていたことが判明

研究チームは、カナダ北西部・ブリティッシュコロンビア州の南西に位置するフィヨルド、バラード入り江沿いを対象に、4つの歴史的集落から採取したサケの骨を調査しました。

分析した骨は全部で116個、最も古いものに約2000年前の骨があります。

今年6月、骨から抽出した古代のDNAを調べたところ、地元民が収穫していた主な種はシロザケ(学名:Oncorhynchus keta)であることが判明しています。

しかしその後、当時の漁師が、メスよりもオスのサケを好んで獲っていたことを示唆する証拠が発掘されたため、チームは、2回目の遺伝子分析を行うことにしました。

遺伝子分析した古代のサケの脊椎骨
Credit: Dan Robitzski(The Scientist) – 2,000-Year-Old Salmon DNA Reveals Secret to Sustainable Fisheries(2021)

シロザケのオスとメスは、生きている間こそサイズや色の違いによって簡単に見分けられるものの、骨だけではほとんど見分けがつきません。

そのため、DNAを抽出することが、性別の判定には不可欠です。

「それでも、遺伝情報を得ること自体、並大抵の作業ではない」と研究主任の一人で、サイモン・フレーザー大学(SFU・カナダ)のトーマス・ロイル(Thomas Royle)氏は話します。

そこでチームは、特定のDNA断片を複製して増幅させる「PCR法(ポリメラーゼ連鎖反応)」を採用しました。

PCRを使えば、ごく微量なサンプルでも、わずかなDNAの中から特定の配列のみを増やすことで、目的の遺伝子配列の有無が分かります。

今回のPCRは、特に「sdY」という遺伝子を増幅するよう設計されました。

sdYは、これまでの研究で、サケのオスの性を決定する遺伝子であることが確認されています。

そして、PCRの結果、4つの集落のうち2つで圧倒的にオスの骨が多く、残り2つではオス・メスのバランスが取れているものの、メスが上回ることはありませんでした。

4つの集落での割合(白がオス、黒がメス)
Credit: Thomas Royle et al., Scientific Reports(2021)

集落の一つでは、オスの骨がメスの2倍以上に達しており、もう一つではメスの骨がまったくなかったとのことです。

ここから、漁場によって戦略を変えていることが伺えるものの、この偏りが先住民の意図したところなのかは判断できません。

そこでチームは、ツレイル・ウォウトゥス族の人々に協力を依頼し、同族の習慣についての民族誌的なアプローチを取りました。

「持続可能な漁獲システム」を目的としていた?

ツレイル・ウォウトゥス族に聞き込みを行ったところ、同地域の漁師たちは古くから、産卵のために川を遡上するサケをオス・メスともに捕獲していましたが、一方で、サイズや色、成熟個体の前歯によって識別できるオスを好んで漁獲し、燻製にして食べていたことが分かりました。

この習慣がいつ、どのように始まったのかは定かでありませんが、先住民の口承によると、「オス一匹で複数のメスを受精させられるため、産卵時に上流のオスが多少減っても、繁殖できる子孫の総量に影響は出ない」と認識していたようです。

つまり、当時の先住民は意図的に、サケの繁殖力を低下させることなく、オスを多めに漁獲していたことが推測できます。

生きた状態だとオス・メスは見分けやすい
Credit: Thomas Royle et al., Scientific Reports(2021)

しかし、そうだとしても、彼らが「持続可能な漁獲システム」の確立を目的としていたのかは分かりません。

本研究には参加していない、ポートランド州立大学(PSU・米)のヴァージニア・バトラー(Virginia Butler)氏は、こう指摘します。

「ツレイル・ウォウトゥス族のコミュニティが、(安定した漁獲とは関係なく)自然保護を目的としていたのか、それとも単に、サイズの大きいオスの魚を好んだだけなのか、この結果からは明確に判断できません」

研究チームも「骨のサンプル数がもっと多ければ、本研究の成果はより強力なものになったでしょう」と話します。

研究主任のロイル氏は、次のように述べています。

「オスのシロザケを選別する習慣が、資源不足の危機に対する適応策として生まれたものなのか、それとも先住民が生態系の相互作用について学び始めたことで徐々に生まれたものなのか、明らかにしたいと考えています。

私たちは今後、この研究を発展させ、さらに昔の先住民の資源管理方法の全体像も明らかにしていく予定です」

ところで、オスばっかり食べていたということは、イクラの美味しさに気づいていなかったのか、それとも苦手だったのでしょうか。

あるいは、めでたい日の楽しみにとっておいたのかもしれませんね。

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参考文献

2,000-Year-Old Salmon DNA Reveals Secret to Sustainable Fisheries
https://www.the-scientist.com/news-opinion/2000-year-old-salmon-dna-reveals-secret-to-sustainable-fisheries-69466

元論文

Indigenous sex-selective salmon harvesting demonstrates pre-contact marine resource management in Burrard Inlet, British Columbia, Canada
https://www.nature.com/articles/s41598-021-00154-4