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拷問果樹園
Credit:Pat J. Brown(UC)_The ‘Torture Orchard’ Is a Testing Ground for the Coming Climate Crisis(2021)

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2021年は、アメリカ・カリフォルニア州の農家にとって厳しい年でした。

州の90%近くの地域が極度の干ばつに見舞われたのです。

では、このような気候変動にどのように対処すべきでしょうか?

カリフォルニア大学デービス校(UC)ウォルフスキル実験果樹園では、干ばつに耐える植物を生み出すために過酷な実験が行われています。

いくつかの品種に対して、あえて水を与えなかったり、塩分を含む土壌で栽培したりして、生命力の強い品種を探そうとしているのです。

目次

  • 干ばつ対策のため過酷な実験が行われる
  • ピスタチオの木が拷問果樹園での断水実験を生き残る
  • 拷問を受けた植物たちには後遺症が残っていた

干ばつ対策のため過酷な実験が行われる

農家にとって干ばつは大きな脅威です。

果樹園は過去にも度々干ばつの影響を受けており、それは現在でも変わりません。

頻発する異常気象を考えると、気候変動による将来の水不足や極端な干ばつに対する備えが必要でしょう。

そのため農家たちは、これまでに様々な試みに挑戦してきました。

既に成功を収めた例はカリフォルニアの農家たちにあります。

彼らは1980年から2015年にかけて、水の使用量を14%削減できました。

しかもその状況で生産性を38%も向上させたのです。

他にも、「これまで以上に深い井戸を掘る」ことも行われてきました。

拷問果樹園の乾燥した地面
Credit:Anne Wernikoff_Torture orchard: Can science transform California crops to cope with drought?(2021)

そしてUCウォルフスキル実験果樹園では、干ばつに耐える植物を生み出すための実験が行われています。

ピスタチオやアーモンド、クルミを含む20種類の木に対して、あえて過酷な環境を与え、その期間でどのような変化が起こるのか、またどの品種が干ばつに耐え得るのか、調査してきたのです。

この「拷問を与えて必要な情報を得ようとする方法」から、UCウォルフスキル実験果樹園は「Torture Orchard」という別名で呼ばれています。

直訳すると「拷問果樹園」であり、実験の過酷さが際立ちますね。

(ここでは、UCウォルフスキル実験果樹園のことを「拷問果樹園」と表現させていただきます)

では、拷問果樹園の実験からどのような情報が得られたのでしょうか?

ピスタチオの木が拷問果樹園での断水実験を生き残る

カリフォルニア大学デービス校の植物科学者であるパット・ブラウン氏は、拷問果樹園について次のように述べました。

「拷問果樹園の始まりは、秋に植えたピスタチオに夏の間水をやらなかったことです。

どの木が生きて、どの木が死ぬのか見極めようとしたのです。

そしてある意味、この実験は失敗しました。

ピスタチオの木は水が与えられなくても、1本も枯れなかったのです」

すべての実験の結果、ピスタチオの木が特に干ばつに強いと分かりました。

しかも干ばつに伴う土壌の塩分濃度上昇にも耐えることができたようです。

塩分実験を受けたピスタチオの葉
Credit:Pat J. Brown(UC)_The ‘Torture Orchard’ Is a Testing Ground for the Coming Climate Crisis(2021)

この結果は農家たちの希望になるかもしれませんが、現段階では、そのまま商業利用できるわけではありません。

なぜなら商業用のピスタチオには、ある程度の干ばつ対策が既に施されているからです。

一般的なピスタチオの木は、干ばつや塩害に強い品種の台木に、美味しい実をつける品種の穂木を接ぎ木するという工夫が取り入れられているのです。

しかし、まだ改良できる余地はあります。

現在、カリフォルニア州のピスタチオの台木には、たった6種類の品種しか利用されていません。

拷問果樹園の実験によって既存の6種類よりも干ばつに強い変異体を生み出せるなら、すべてのピスタチオが干ばつ問題から解放されるかもしれないのです。

実際ブラウン氏は、「もし水の使用量を5%減らせる変異体が見つかったなら、農家は水を購入する必要がなくなるでしょう」と述べました。

拷問を受けた植物たちには後遺症が残っていた

ピスタチオの木は拷問果樹園の実験を生き残りましたが、その影響を受けなかったわけではありません。

拷問果樹園の木から取れたピスタチオナッツはとても小さかったのです。

ピスタチオ以外にも生き残った品種はあったようですが、拷問の影響はその年だけでなく、次の年にも及びました。

実際、ストレスを受けた木たちは次の春に何とか花を咲かせたものの、翌年はもっとひどい状態になってしまったのです。

収穫量は2倍近く減ったと報告されています。

またピスタチオがなんとか生き残った高塩分実験は、クルミの木にとっては耐えられるものではありませんでした。

すべて枯れてしまったのです。

水なしで栽培されているアーモンドの木
Credit:Anne Wernikoff_Torture orchard: Can science transform California crops to cope with drought?(2021)

これらの結果から明らかなように、科学者たちは「植物の弱点は突然の変化」だと指摘しています。

もともと植物には人間と同じように優れた適応能力があります。

変化がゆっくりと生じるのであれば、機能が低下したとしても、生き残ることが可能なのです。

ただし、極端な干ばつや異常気象には耐えられません。

仮に生き残ったとしてもその影響がしばらく続くでしょう。

さて、拷問果樹園での過酷な実験は、農家にいくらかの希望と厳しい現実を突きつける結果となりました。

希望を確実なものにするため、科学者たちは果樹園での拷問をしばらく続ける必要があるでしょう。

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参考文献

The ‘Torture Orchard’ Is a Testing Ground for the Coming Climate Crisis
https://www.atlasobscura.com/articles/breeding-trees-for-climate-change
Torture orchard: Can science transform California crops to cope with drought?
https://caes.ucdavis.edu/news/torture-orchard-can-science-transform-california-crops-cope-drought