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<欧米諸国と比較すると日本の学校中退者のフルタイム就業率はかなり低い> 小田急線の車内で今月、乗客が無差別に切りつけられる事件が発生した。犯人は36歳の男で、「自分の人生はクソみたい」「幸せそうな女性を見ると殺したくなる」と語っている。それで凶行に及ぶとはまったくもって身勝手だが、メンタルの屈折が当人の境遇に由来する可能性もある。 大学を中退し、不安定な職を転々としていたとのことだが、日本では学校を中退、すなわち標準コースを外れた者への風当たりは強い。では日本の中退者がごくわずかかというと、そうでもない。内閣府の国際調査によると、13~29歳の若者(学生は除く)のうち、学校中退者の割合は9.3%となっている。およそ11人に1人だ。このグループの中で、フルタイム就業(正社員)は12.5%と低い。 今見た2つの数字を、国ごとに比較すると<表1>のようになる。 学校中退者の割合が1割を超える国は3つあり(フランス、アメリカ、スウェーデン)、日本はその次に高い。外国と比較して中退が極めてレアな国というわけではない。だが中退者の置かれた状況を就業状態で見ると、フルタイムの職に就いている比率は日本が最も低い。ドイツやフランスで4割、5割を超えているのとは対照的だ。 「中退」という2文字が書かれた履歴書では、安定した職に就きにくい現実があり、それは経済的困窮に直結する。「これがいつまでも続くわけではない」「そのうち良くなる」という展望が開けていれば、苦しい状況も乗り切れるものだが、将来への希望を持つのも容易ではあるまい。<図2>は、将来の希望を問うた結果だ。学校卒業者と中退者に分けて、希望がない者の割合を棒グラフにしている。 日本の若者は総じて希望を持っていない。少子高齢化が進み老後の不安を拭えないこと、長らく続いてきた雇用慣行の崩壊という事態に直面していることもあるが、他国と比べて特異性が際立っている。諸々の不利が加わる中退者に限ると、希望がない者の率は7割を超える。 同じ学校中退者でも、置かれた状況や意識は国によって異なる。その違いの要因はいろいろあるが、学び直しの機会がどれほど開けているかも大きいだろう。日本では人生初期の学歴がずっとついて回るが、海外では後からそれを塗り替えることが容易だ。日本でも制度の上では、何度でも何歳からでも学校に入学できるし、現状を脱出するための支援や訓練を提供してくれる場も存在する。ふさぎ込むだけで、周囲が見えていない当人を孤立させないことが大事だ。経済苦による中退を防ぐべく、学生支援の充実も欠かせない。 「自分の人生はクソみたい」。こう思っている若者は、今の日本では決して少数派ではないと考えられる。彼らの自棄型犯罪で社会が脅かされるとしたら恐ろしい。それを防ぐためのコストを惜しんではならない。 <資料:内閣府『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』(2018年)> =====