<アメリカにタリバン政権を承認させるための人質、との見方もあるが、米国務省にも有効な手段なし> アフガニスタンの実権を掌握したイスラム主義組織タリバンはここ数日、国外脱出を希望する人々を乗せた飛行機の離陸に待ったをかけているらしい。この状況について米政界では「人質を取られている」ようなものだとの声も上がっている。 AP通信は5日、北部マザリシャリフの空港で、少なくとも4機の航空機がはっきりしない理由で足止めされていると伝えた。アフガニスタンの当局者は、数百人の乗客は全てアフガニスタン人で、ビザがなかったりパスポートを持っていない人が多く含まれると述べたという。 だが米下院のマイケル・マコール議員(共和党)は5日、FOXニュースの番組に出演、足止めされている中には複数のアメリカ人が含まれていると主張した。 「実際のところ、人質を取られたような状況になりつつある。アメリカが(タリバン政権を)完全に承認するまで、アメリカ国民の出国を認めないというわけだ」と、下院外交委員会の共和党トップであるマコールは述べた。 マコールはまた、米軍のアフガニスタンからの完全撤退により数百人のアメリカ国民が「敵陣に取り残された」と述べるとともに、撤退を推し進めたジョー・バイデン大統領について「彼の手は血まみれだ」と非難した。 国務省もチャーター便の詳細つかめず 米国務省の報道官は本誌の取材に対し、チャーター機で国外脱出を図っているアメリカ人がいるのかどうかについては分かっていないと述べた。 「チャーター機などの出国経路を手配しようとしている多くの人々の懸念はわれわれも理解している。だが、現地にわれわれの要員はおらず、空輸のための施設等も押さえておらず、アフガニスタンであれ周辺地域であれ、空域も支配していない」と報道官は語った。 「こうした制約下で、われわれにはチャーター機に関し、手配をしたのが誰で、アメリカ人やそれ以外の優先的に避難が認められる人々が何人くらい乗っているのか、それ以外の乗客リストの正確性、どこに着陸する予定なのかといった、基本的な細かい情報を確認するための信頼に足る手段もない」と報道官は述べた。 国務省は、現地にいまも残るアメリカ人やアフガニスタンからの避難民を「助ける用意はある」としている。また、タリバンが急速にアフガニスタンにおける実権を取り戻して以降、数多くの人々を避難させたと強調した。 ===== スポーツを通じて若い女性リーダーの育成を目指す非政府組織(NGO)アセンドの話としてCBSが5日、伝えたところによれば、航空機での出国を希望しながら足止めされている数百人の中には、アセンドの関係者(アメリカ人19人と永住権保有者2人)も含まれているという。 「注目が集まることが解決に向けた圧力につながればと思う。米軍撤退後6日間におよぶ交渉でも光は見えていない」と、アセンドのマリナ・ルグリー専務理事はCBSに語った。 ルグリーは本誌の取材に対し、アセンドはタリバンとも国務省とも直接のやりとりはしていないと述べた。航空会社とタリバンの間で金額交渉が行われているようだが、結果は分からないという。 またルグリーは、国務省か国家安全保障会議(NSC)が、カタール経由でタリバンとの間に存在する「さまざまなルートを使い、何らかのコネを使って行動を起こさせる」ことを期待していると述べた。 「わが国の政府は公式にはアフガニスタンから去ったかも知れないが、こうした関係が一夜にして消えるわけではない。タリバンに正しい対応をさせ、何の罪もない人々を空路脱出させるため、非公式なルートでの話し合いが必要だ」とルグリーは述べた。 残るアメリカ人は約100人 バイデンは8月末の駐留米軍の完全撤退により約20年にわたるアフガニスタンでの戦争に終止符を打った。だが撤退は混乱を招き、バイデンはさまざまな批判を受けている。だが完全撤退を決めたのはバイデンではなくドナルド・トランプ前大統領の政権だ。 トランプ政権は昨年2月、今年5月末までに米軍を完全撤退させるという内容の和平合意をタリバンとの間で結んだ。バイデンは大統領に就任後、いったんは撤退期限を9月11日まで延ばしたが、その後8月末に前倒し。ところが8月半ば、タリバンがアフガニスタンの実権をほぼ掌握してしまった。 それでもまだ、首都カブールの国際空港は米軍のコントロール下にあった。それから半月の間に、アメリカは約11万6000人を避難させた。その中にはアメリカ人もいれば同盟国の国民も、数千人のアフガニスタン難民もいた。だが、中には脱出を望みながら取り残されたアメリカ人もいた。 「アフガニスタンでは少数のアメリカ人──200人未満、たぶん100に近い数だろうが、出国を望みながらまだ国内に残っているとみられる」と、アントニー・ブリンケン米国務長官は8月30日の記者会見で述べた。「その正確な数を確認しようとしている最中だ。搭乗者名簿を調べたり、こちらのリストにある人々に電話したりメッセージを送ったりしている。できるだけ早く詳細をつかみ、情報共有をしたい」 ロナルド・クレイン大統領首席補佐官は5日、CNNに対し、アフガニスタン国内に残っているアメリカ人の数は「約100人」だと述べた。