新種の生物発見というニュースはときたま耳にしますが、鉱物においても新種の発見がありました。
米国のネバダ大学ラスベガス校(UNLV)の研究チームは、深部地球において形成されるが地上では通常存在しない鉱物が、ダイヤモンド内に閉じ込められた状態で保持されているのを発見しました。
チームはこの新種鉱物を「Davemaoite(デイヴマオアイト)」と名付けて報告し、国際鉱物学連合(IMA)がこれを昨年承認しました。
研究の詳細は、2021年11月11日付けで科学雑誌『nature』に掲載されています。
目次
- 新種鉱物の発見
- ダイヤモンドに封印された新種鉱物
新種鉱物の発見
生物と同じ様に「鉱物」でも新種発見は報告されます。
鉱物は、自然界に存在するさまざまな物質が、地球作用によって一定の化学組成と結晶構造を持って生まれたものです。
この一定の化学組成と結晶構造によって、鉱物の「種」は分類されます。
もし、新種の鉱物が見つかった場合は、その報告を受けて国際鉱物学連合の「新鉱物の命名・分類のための委員会(Commission on New Minerals, Nomenclature and Classification)」が審査を行い、承認を与えます。
これにより、初めて新種鉱物が世の中に認定されるのです。
今回報告された新種の鉱物は、アフリカの鉱山で採掘されたダイヤモンドの中から発見されました。
発見を報告したのは、ネバダ大学ラスベガス校の地球化学者オリバー・チャウナー(Oliver Tschauner)氏が率いる研究チームです。
チャウナー氏は、この新種の鉱物に「Davemaoite」という名前を付けました。
新種鉱物の名前の付け方にも命名規則があり、通常は発見者名や発見地の地名の最後にギリシア語で石を意味する「ite(アイト)」を付けます。
よく鉱石や宝石の名前に「なんとかナイト」とか「なんとかライト」「なんとかタイト」という名前を見かけるのは、この命名規則によるものです。
チャウナー氏は、発見した鉱物の名前に、地球物理学の分野で先駆的な発見をした有名な科学者「Ho-kwang ‘Dave’ Mao:毛河光 マオ・ホークアン)」の名前を採用し、「Davemaoite」としたのです。
日本語で読むなら「デイブマオアイト」となるかもしれませんが、新種名なので正式な日本語読みは、いずれ日本の科学者から提供されることになるでしょう。
チャウナー氏は新種鉱物について次のように述べています。
「これは通常、地球表面には存在しない鉱物ですが、地球深部で熱の流れに大きな役割を果たしていることを垣間見ることができます」
なんだか気になることを言っていますが、研究者の述べる、地球表面に通常は存在しない鉱物とは、どういうことなのでしょう?
ダイヤモンドに封印された新種鉱物
「Davemaoite」は、地表から約660~2700kmも地下にある下部マントルで見られるような高圧・高温の環境でのみ存在できる物質なのだといいます。
もしこの鉱物が地表へ向けて上昇してきた場合、通常はその過程で分解されてしまい、別の物質に変化してしまします。
そのため、地球表面には存在していないのです。
しかし、今回の発見では、この「Davemaoite」がダイヤモンドの中に埋め込まれる形で保持されていました。
上の画像が発見されたダイヤモンドで、その中の黒い斑点のような部分が、「davemaoite」なのです。
ダイヤモンドが持つ硬度のおかげで、内包物が高圧に保たれて、地球奥深くからそのまま運ばれてきたのだと、チャウナー氏は説明します。
このダイヤモンドは、数十年前にボツワナにある世界最大のダイヤモンド鉱山「オラパ鉱山」から掘り出されました。
1987年、ある宝石商がこのダイヤモンドを米国カリフォルニア工科大学の鉱物学者ジョージ・ロスマンに売却しました。
そしてチャウナー氏とロスマン氏は、数年前からこのダイヤモンドに閉じ込められた鉱物の調査研究を始めたのです。
X線で調べてみると、ダイヤモンドに含まれた黒い斑点は、そのほとんどがケイ酸カルシウム(CaSiO3)でできているとわかりました。
ケイ酸カルシウムは、生成されたときの温度と圧力によって、さまざまな結晶形態をとることができます。
ダイヤモンド内に閉じ込められていたのはペロブスカイト型と呼ばれる結晶構造で、地下660~900kmの温度と圧力下でのみ形成されるものです。
高圧ケイ酸カルシウムのペロブスカイトを実験室で作った研究は1975年に報告されていたため、科学者たちは下部マントルにこうした鉱物が存在するはずだということは理論化していました。
しかし、実際自然に形成されたこの鉱物の地質学的なサンプルは見つかっていなかったのです。
ところが2018年に、別の研究チームが南アフリカで、同様にダイヤモンドに閉じ込められたケイ酸カルシウムペロブスカイトの発見を報告していました。
ただ、その研究チームは、新種鉱物の正式な発見を届け出なかったため、チャウナー氏が自分たちの研究について国際鉱物学協会へ届け出ることにしたのです。
こうした経緯があったので、チャウナー氏らも、自分たちの名前を鉱物に付けにくかったのでしょう。
そこで、チャウナー氏は中国・上海の高圧科学技術先端研究センターの所長でこの分野における高名な研究者であるマオ氏に連絡を入れ、彼の名前を新種鉱物に付けてもいいか尋ねたのです。
マオ氏は快くその申し出を受けました。
ちなみに、マオ氏の名前を冠した高圧鉱物が国際鉱物学連合で承認されるのは、今回が2例目で、2018年にも衝突クレーターから発見された別の新種鉱物が「maohokite(マオホーカイト)」と名付けられています。
チャウナー氏によると「Davemaoite」は、地球の下部マントルに含まれる3つの主要鉱物の1つであり、そこに約5~7%を占めているだろうとのこと。
中でもこの物質は、ウランやトリウムの放射性同位体元素を含んでいて、これらの放射性崩壊は、地球の地殻とコアの間にあるマントル下部において大量の熱発生源となっています。
そのため、「Davemaoite」は、地球深部の熱の移動や循環を管理し、プレートテクトニクスなどのプロセスを推進する重要な役割を果たしていると考えられるそうです。
「Davemaoite」はカリウムが豊富な地域のダイヤモンドからより発見できる可能性があるため、今後チャウナー氏はそうした場所を探してみると話しています。
参考文献
Diamond delivers long-sought mineral from the deep Earth
https://www.nature.com/articles/d41586-021-03409-2
鉱物のお話(物性研だより第54巻第2号)
https://www.issp.u-tokyo.ac.jp/maincontents/docs/tayori54-2_Part11.pdf
元論文
Discovery of davemaoite, CaSiO3-perovskite, as a mineral from the lower mantle
https://www.science.org/doi/10.1126/science.abl8568