WHOによると、世界中の約2億8500万人が視覚障害に苦しんでおり、そのうち3900万人が全盲です。
当然、多くの人が義眼を必要としています。
そんな中、イギリスのムーアフィールズ眼科病院(Moorfields Eye Hospital)に所属するマンディープ・サグー教授らによって世界初の3Dプリント義眼が提供されました。
本物の眼球と見分けがつかないほど精巧に作られた義眼を、すばやく提供できるようになったのです。
目次
- 3Dプリントによって素早く義眼を作成できる
- 世界初!リアルな3Dプリント義眼が装着される
3Dプリントによって素早く義眼を作成できる
義眼の作成にはいくつかのステップがあり、通常、完成までに約6週間かかります。
義眼のデザインだけでなく、義眼を装着する適切な空間を作らなければいけません。
そのためには眼球が入っていた空間「眼窩(がんか)」の型取りをしたり、眼窩周辺を手術したりする必要がありました。
医師が手作業で行う部分が多く、どうしても時間がかかってしまいます。
義眼作成の希望者も多いため、ムーアフィールズ眼科病院では通常4~5カ月待ちの状態であり、最近では新型コロナウイルスによるロックダウンの影響でさらに待機時間が長くなっています。
そんな中、3Dプリント技術を利用した義眼作成の技術が開発されました。
最初にコンピュータが患者の眼球と眼窩をスキャンして、そのまま3Dモデルを作成。
このデータはドイツの3Dプリンタに転送され、わずか2時間半でプリントされます。
その後、プリントされた義眼はイギリスに送られ、医師によって仕上げ、研磨、装着が行われます。
この新しい方法により、全体のプロセスは、従来の半分である2~3週間で完了するようです。
そして今回、3Dプリント義眼が世界で初めて患者に提供されました。
世界初!リアルな3Dプリント義眼が装着される
3Dプリント義眼を世界で初めて装着した患者は、イギリスのロンドンに住む40代のエンジニア、スティーブ・ベルゼ氏です。
3Dプリント義眼のメリットは、作成期間の短さだけではありません。
まるで本物の眼球のようにリアルなのです。
実際、ベルゼ氏が装着した義眼は左だけですが、写真ではほとんど見分けがつきません。
これは患者自身の眼球をスキャンして義眼の3Dモデルを作成しているためです。
また瞳孔の輪郭がはっきりしており、虹彩(黒目の奥にある茶色の部分)も自然な色と輝きがあります。
これも3Dプリントのおかげであり、従来の義眼は虹彩を表面的に描いただけでしたが、3Dプリント義眼は実際に眼球の奥に光が届くようになっているのです。
ベルゼ氏は、装着した感想を次のように述べています。
「私は20歳のときから義眼を必要としてきましたが、いつも気後れしていました。
家を出るときによく鏡を見るのですが、その時に見える義眼が気に入らなかったのです。
しかし、この新しい義眼はとても素晴らしいと思います。
3Dプリント技術を利用しているので、今後どんどん良くなっていくでしょう」
3Dプリント義眼の提供に携わったサグー教授やスタッフもこの新しい技術に興奮しているようです。
彼らは、「新しい技術が、義眼作成の待ち時間を確かに短縮させる」ことを認めています。
今後も、3Dプリント技術の進展が、患者に立ちはだかる壁をひとつずつ壊してくれるでしょう。
参考文献
The World’s First 3D-Printed Prosthetic Eye Will Be Received by a British Patient
https://interestingengineering.com/the-worlds-first-3d-printed-prosthetic-eye-will-be-received-by-a-british-patient?utm_source=rss&utm_medium=article&utm_content=25112021
Moorfields patient receives world’s first 3D printed eye
https://www.moorfieldsbrc.nihr.ac.uk/news-and-events/3d-printed-eye