「悪や不完全なものと戦うもっとも正しい方法は、
善や正しいものを生み出すことである」
(「いかにして高次の世界を認識するか」松浦賢訳)
これは私がかなり衝撃を受けたシュタイナーの言葉の一つで、未だに思い出すたびに、
「ああ、そうだった」
軽い驚きのようなものを感じてしまう言葉です。
私たちは普通、「悪いもの」に対して怒りを感じ、
こんなものはこの世から抹殺してしまわなければならない、
そうすることが義務だ、と思いがちなのですが、
実はそれは有効な方法どころか、むしろ危険なものなのだとシュタイナーは言います。
なぜかというと、その「悪いもの」に対して持つ怒りは、
破壊的な衝動だからなのです。
そのような破壊衝動に身をまかせていると、
私たちは、人間の創造の営みに愛を抱くことができなくなり、
破壊し続ける存在になってしまうのです。
だからそれよりも、
何かを創りだすことに喜びを感じること、
他人を信頼し、愛する気持ちを持ちつづけること、
そういうことが大切だとシュタイナーは言います。
「何もないところからは、何も生まれない。
でも、不完全なものは、完全なものに変えることができる。」
そんなふうに考えて、創造することを愛する性質を自分の中に育てるようにすると、
悪に対して正しくふるまうことができるようになるそうです。
こんなことを今書くのは、
日本の抱える原発という問題と、
それに対する反対運動が念頭にあるからです。
私はもちろん原発には反対です。
反原発運動にも大きな意味があると思っています。
ただもし、今、反対運動に向けられている力が、
「善きもの」を生み出していくことに向けられるならば、
それはもっと大きな成果を生んでいくだろうと思っているのです。
反原発運動が守ろうとしているものは、
美しい自然、穏やかで幸福な日常、
そういうものだと私は認識しています。
そして今の私たちに与えられた課題は、
そのようなかけがえのないものと、
現代文明をどのように融合させていくかという点にあると思っています。
そのような新しい生活や社会をつくりだしていくことは非常に創造的な行為であり、
もし私たちが、そこに喜びを見いだしていくのならば、
それは、「悪いもの」に対抗するための、
もっとも有効な手段になるのだと、私はそう信じています。