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<長い間謎だった損傷したDNAが修復されるプロセスを直接視覚化することに成功した> 私たちの体内ではDNA損傷が頻繁に起こっている。DNA損傷を修復する力がなければ、紫外線や活性酸素(ROS)に対して脆弱となり、がんを発症するリスクが高まる。DNA損傷を速く正確に修復できるか否かは、多くの生物にとって重要な問題だが、DNAシーケンスにおいてミスなくDNAを修復することは難しく、鋳型となるものが必要だ。 二本鎖DNAを正確に修復する手法として、姉妹染色体(複製による親の完全なコピーの染色体)を鋳型として用いる「相同組換え(HR)」が知られているが、姉妹染色体は数百万もの遺伝暗号の塩基対で複雑な構造をなしており、一連のプロセスについてはまだ完全に解明されていない。 現時点では、相同組換えタンパク「RecA」が、損傷した塩基配列と同じ塩基配列を持つ相同領域を検索するうえで重要な役割を担っていると考えられている。 大腸菌で、二本鎖DNAが修復されるプロセスを直接視覚化 スウェーデン・ウプサラ大学の研究チームは、大腸菌を用いて、二本鎖DNAが修復されるプロセスを直接視覚化することに成功し、その研究成果を2021年9月1日、学術雑誌「ネイチャー」で発表した。 研究チームは、培養用マイクロ流体チップで細胞を増殖させ、ラベル化した「RecA」分子を蛍光顕微鏡で追跡することによって、相同組換えの一連のプロセスを可視化した。 また、ゲノム編集技術「CRISPR」を用いてDNA切断を時間内に制御した。その結果、一連のプロセスは平均15分で完了し、「RecA」が検索に要する時間は9分足らずであることがわかった。 腫瘍増殖の原因の解明にも役立つ可能性 また、蛍光顕微鏡を用いて損傷箇所をリアルタイムで観察したところ、「RecA」の細いフィラメントが細胞の長さにまで及んでいた。これによって、フィラメントのあらゆる部分で相同領域を見つけ出すことができ、検索が理論上、三次元から二次元になる。研究チームは、「これこそ、相同組換えを速くうまく行うキーポイントだ」と考察している。 今回の研究では大腸菌を用いたが、相同組換えのプロセスはヒトをはじめとする高等生物もほぼ同一だ。多くのがん遺伝子はDNA修復と関連しており、一連の研究成果は腫瘍増殖の原因の解明にも役立つ可能性があるとみられている。