歌がミトコンドリアの性能を制御するようです。
オーストラリアのディーキン大学で行われた研究によれば、暑い日に親鳥が発する特殊な鳴き声がヒナのミトコンドリアの性能を調節し、熱生産を抑えている、とのこと。
熱生産を抑えることで、ヒナが暑い環境に適応するのを助けていると考えられます。
ミトコンドリアについてはさまざまな研究がなされていますが、音によって機能が調節されることが示されたのは、今回の研究がはじめてです。
研究内容の詳細は12月8日に『Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences』に掲載されています。
目次
- 歌でミトコンドリアの性能を調節する鳥がいると判明!
- 実際の気温よりも親の歌声が優先される
歌でミトコンドリアの性能を調節する鳥がいると判明!
オーストラリアの乾燥地帯に生息するキンカチョウの親は、気温が26℃以上になると「ヒートコール」と呼ばれる鳴き声を発します。
これまでの研究によって、この鳴き声(ヒートコール)を卵の内部で聞いたヒナは孵化後の成長が抑えられ、体が小さくなることが知られていました。
体のサイズが小さいと、体積に対する表面積の割合が大きくなり、熱をより効率的に逃がすことができると考えられます(※体の大きいシロクマは逆に熱を逃がしにくい)。
しかし、音がいったいどんな原理でヒナの成長に影響するかは、詳しくわかっていませんでした。
そこで今回、ディーキン大学の研究者たちは、集めてきたキンカチョウの有精卵(約50個)を2つのグループにわけて、一方のグループにのみ「ヒートコール」を聞かせることにしました。
そしてヒナが産まれると血液を採取し、違いがあるかどうかを比較しました。
結果「ヒートコール」を聞かされた卵から産まれたヒナは、ミトコンドリアが熱生産(エネルギーの放出)よりもエネルギーの備蓄を優先するように変化していることを発見しました。
鳥類などの恒温動物においてミトコンドリアは体の温度を一定に保つための「熱生産」と細胞の分裂・成長などに使われる「エネルギーの備蓄」の両方を行う「熱発電所」とも言える存在ですが、親鳥が暑い日に発する「ヒートコール」よって「熱生産が減速」し「エネルギー備蓄が加速」していたのです(※ミトコンドリアがつくるエネルギーは高エネルギー物質(ATP)に変換して蓄えられ、細胞の増殖や修理に用いられる)。
つまり、親鳥は「暑いぞ~暑いぞ~」と歌うことで、ヒナの体を小さくして熱放散を大きくするだけでなく、ミトコンドリアの性能も発熱よりエネルギー備蓄の重視にシフトさせていたのです。
そして孵化したヒナは、熱に耐性をもちながら、体温維持よりも成長を優先させることが可能になります。
実際の気温よりも親の歌声が優先される
今回の研究によって、自然界では、音でミトコンドリアの性能を調節することが可能ということが示されました。
親鳥は卵のために歌い、卵の暑さに対する耐性をうまれる前から上げていたのです。
また追加の実験により、暑くない環境で卵に親鳥の「ヒートコール」を聞かせても、生まれてきたヒナのミトコンドリアが同様に、熱生産よりもエネルギー備蓄を重視するように変化していると確認されました。
この結果は、ヒナのミトコンドリアが実際の環境(温度)よりも、親鳥の声に強く影響されることを示します。
ただ現在のところ、特定の音(ヒートコール)がどのようにしてミトコンドリアの性能を調節しているかは不明です。
研究者たちは音とミトコンドリアの関係を調べることで、温暖化する地球において鳥たちの耐熱性を増加させることができると考えています。
また同様の仕組みを人間に組み込むことができたならば、外部からの音によって発熱量やエネルギー備蓄量を調節し、寒さに強くなったり、高い運動能力を得ることが可能になるかもしません。
参考文献
Parents’ “Heat Warning Calls” Change Zebra Finch Chicks’ Mitochondrial Function
https://www.iflscience.com/plants-and-animals/heat-warning-calls-change-zebra-finch-chicks-mitochondrial-function/
元論文
Prenatal acoustic programming of mitochondrial function for high temperatures in an arid-adapted bird
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2021.1893