老いはワクチンで予防する時代が来そうです。
日本の順天堂大学で行われた研究によれば、老化した細胞を攻撃するように免疫細胞を教育する「抗老化ワクチン」の開発に成功した、とのこと。
抗老化ワクチンを接種されたマウスは老化細胞が除去され、老化にともなう症状に改善がみられたほか、実際の年齢よりも早く老化が進む早老症のマウスの寿命も延長されました。
老化をワクチンで予防することが可能になれば、幅広い人々に末永い健康を提供できるようになるでしょう。
研究内容の詳細は12月10日に『Nature Aging』に掲載されました。
目次
- 老化を予防する「抗老化ワクチン」とは?
- 免疫の力を借用して老化を予防する
老化を予防する「抗老化ワクチン」とは?
意外かもしれませんが、人間の体内にある細胞の老化度は同じではありません。
多くの動物は受精卵という単一の細胞に起源を持ちますが、成長後に受けるさまざまな刺激やストレスにより、ある人はすい臓の細胞が先に老化したり、また別の人は脳細胞が先に老化することで、糖尿病やアルツハイマー病など異なる病状となって表れてくるのです。
また老化細胞は単独で問題を引き起こすだけでなく、周囲にサイトカインを分泌することで慢性的な炎症の原因となり、少数の老化細胞のせいで臓器全体の機能低下や、がんを引き起こやすくなってしまいます。
そのため「万病の陰には老化細胞が潜んでいる」と言えるでしょう。
そこで今回、順天堂大学の研究者たちは、老化を治療するための「抗老化ワクチン」を開発することにしました。
研究ではまず、老化したヒトの血管内皮細胞で働く遺伝子が網羅的に調べられ、正常な若い細胞と比較されました。
すると、GPNMB(糖タンパク質非転移性黒色腫タンパク質B)と呼ばれる特殊なタンパク質が、老化したヒトの血管内皮細胞の表面に豊富に存在すると判明。
また興味深いことに、GPNMBは動脈硬化を起こしたマウスの血管や内臓脂肪にも豊富に含まれていることもわかりました。
そこで研究者たちはGPNMBの一部を模倣した構造を持つ、抗老化ワクチン(ペプチドワクチン)を作成し、マウスに注射してみました。
するとマウスの免疫細胞はGPNMBを異物として認識し、GPNMBを表面に出すようになった細胞までも一緒に攻撃して排除しはじめました。
結果、老化細胞の排除が進んだことで相対的な若返りが起きて、老いていたマウスにみられた老いの全般的な症状が改善していることが判明。
また太って生活習慣病になっていたマウスに注射したところ、内臓脂肪から老化細胞が除去され慢性炎症が緩和されたことで、糖尿病の改善がみられました。
さらに遺伝的に早く老いてしまう早老症のマウスに対して抗老化ワクチンを使ったところ、寿命全体が増加することも確かめられました。
この結果は、抗老化ワクチンで老化細胞を退治することが、老化そのものや、老化に起因するさまざまな病状の改善し、寿命の延長にも有効であることを示します。
免疫の力を借用して老化を予防する
今回の研究によって、老化細胞を除去することで効果を発揮する「抗老化ワクチン」が開発されました。
老化した細胞の表面にだけ存在するタンパク質「GPNMB」を模倣した構造をワクチンとして体内に注射することで、免疫システムに「GPNMBは異物・敵」「GPNMBを表面に持つ老化細胞も異物・敵」と教育を行い、免疫の力を借用して老化を予防することが可能になったのです。
また糖尿病や動脈硬化など加齢にともなう病気の根底にも老化細胞が潜んでいるため、抗老化ワクチンの投与により老化細胞を除去することで、これらの症状を改善することにもつながりました。
さらに研究では、抗老化ワクチンには目立った副作用もないことも示されています。
研究者たちは、GPNMB以外の老化抗原となるタンパク質も存在していると考えており、将来的には、さまざまな老化を改善する抗老化医療が可能になると考えています。
もしかしたら未来の病院では、インフルエンザのワクチンを打つついでに、抗老化ワクチンの接種を受けられるかもしれませんね。
参考文献
老化細胞除去ワクチンの開発に成功 ~ アルツハイマー病などの加齢関連疾患への治療応用の可能性 ~
https://www.juntendo.ac.jp/news/20211210-01.html
元論文
Senolytic vaccination improves normal and pathological age-related phenotypes and increases lifespan in progeroid mice
https://www.nature.com/articles/s43587-021-00151-2